ch22
その日そこに集まった各国のシルバーアイズのリーダー達に衝撃が走った。長老アーネストの言葉に皆、耳を疑ったのだ。
「アーネスト様、いったいどういう事ですか?」
「今伝えた通りだ」
アーネストは静かな声できっぱりと言い切った。
「そんな、今更、人間に戻れと言われても……私共はともかく、若いシルバーアイズ達は納得しませんよ」
「納得できない者には死が待つのみだろう、レジスタンスはエクストリームズに反撃の機会を伺っている」
アーネストは冷たい視線を投げかけた。
「我々が戦えば、人間などはすぐに根絶やしに……」
「馬鹿なことを言うでない。この地球を死の星にしたいのか! 今後人間を殺す事も、人間をシルバーアイズに変更する事も、一切禁止する」
アーネストの一喝で、ざわめいていた室内は一瞬にして静かになった。
「我々は元々人間だ。人間に戻るのに、何の問題があると言うのだ? もちろん、全てのシルバーアイズがすぐに人間に戻れる訳ではない。人間に戻ることが出来なかった者達には隠れ住む場所を提供しよう」
室内は再び騒然とした。
「隠れ住む必要があるのでしょうか? この百年間、最初は多少の問題もありましたが、上手く共存してきたと思うのですが……」
アーネストはうんざりした様に発言者を見た。
「上手くいっているとは誰の観点から見ての事かね? 我々シルバーアイズにとって都合の良い世界というだけであって、人間にしてみれば、貧富の差が広がるばかりの住みにくい世界になっているのではないのかね?」
「隠れ住むといっても、シルバーアイズの存在が知れ渡った今、いったいどの様にかくれるのですか? 我々の眼を見ればすぐにシルバーアイズだと気付かれてしまいます」
アーネストは深く溜息をつくと、
「大丈夫だ、完璧な隠れ場所を用意してある。この百年の記録も全て抹殺する、数百年後には我々の存在は忘れ去られ、人々の話題にも上らなくなるだろう。我々には幾らでもそれを待つ時間があるではないか」
「しかし……」
更に反論しようとした者をギロリと睨みつけると、アーネストは静かな声で話し始めた。
「我々はもともと、闇に産まれ闇に生きる者。必要以上に目立つ事も、人間に関わる事もなく、時の傍観者としてひっそりと暮らす事を定めとされた者……一部の愚か者のせいで勘違いしてしまった者が沢山いるようだが、今、在るべき姿に戻る時が来たのだ」
アーネストの低い声が静まり返った部屋に響き渡った。
その静寂を打ち破る様に、一番奥に座っていた男が立ち上がった。
「我々は長く生き過ぎた。人間に戻れるというのならば、喜んで戻り、この天寿を全うしようではないか!」
アーネストは初めて微笑んだ。
「うむ、良く言ってくれた。私は全てのシルバーアイズの長としてシルバーアイズが存在する限り、時の傍観者に徹しよう」
アーネストは一息つくと、傍らに控えていたシルバーアイズに目で合図をした。
その人はすーっと立ち上がると、淡々と話し始めた。
「アーネスト様の変わりに、今後の事を説明します」
ナディアは低い声で続けた。
「人間に戻る条件ですが、人を心から愛した経験が必要です。相手は同姓でも異性でも、血縁のある者でも誰でも構わない筈です。次に人間に戻る為の手順ですが、第一に、人間の血を摂取する事を止めて下さい。最低でも1ヶ月、もう少し時間の掛かる方も居るかもしれません。カクテルの摂取は続けて頂いて結構です。その後、各国に施設を立ち上げますので、そちらに出向いて下さい。人間の血を一滴、目に垂らすだけで完了です。その後人間として生きてくのに必要なID、その他書類を用意します。人間に戻れなかった、もしくは他の理由でシルバーアイズとして留まる方は別にこちらで対応しますのでご心配なく。それと、この決定を全てのシルバーアイズに伝えて下さい。一人の漏れも許されません。徹底して管理する様お願い申し上げます」
ナディアは無愛想にそれだけ言うと着席した。
「実際に人間に戻ったシルバーアイズはいるのでしょうか?」
オドオドと手を上げたシルバーアイズに皆の視線が注がれた。
「いる」
アーネストは短く答えた。
「何人ぐらいいるのですか? 今まで何故その事が話題に上がらなかったのですか?」
的確な質問があがり、アーネストは思案するような顔をした。
「我々の創造主の呪いが解けたのだ。その為、これから他のシルバーアイズにも変化が訪れると思われる」
「どういう事ですか?」
「創造主とはいったい誰なのです?」
「呪い?」
室内は蜂の巣をつついた様に、再び騒然とした。
「創造主については、私も最近知ったばかりなのだ。元々我々の問題はとっくの昔に創造主の手から離れていたにも関わらず、彼は長い年月を自分を責める事に費やされた。これ以上彼の罪を言及する必要はないと私は考えている。人間に戻った事で、彼は自分の罪を償ったのだ」
アーネストはどさりと席に着くと、疲れたように最後の言葉を発した。
「私は彼からシルバーアイズの全権を任せられた。私はその役目を全うするだけだ」




