バレンタイン
時刻は午前七時半。
成一は焼いたトーストをかじっていた。
朝食は大概これだ。
数ヵ月前まではまだ両親とも家に居たため、もう少しまともな物だったが一人になってから朝は簡単に済ませるようになった。
成一は時計を確認した。
そろそろ美鈴が来る頃だ。
と思って居ると。
「成一!」
玄関の中から美鈴の声が聞こえた。
「はいはい、今行くよ」
多分合鍵を使って入って来たのだろう。
毎朝の事なので勝手に入って来ても今さら驚きはしない。
成一は普通に返事を返して家を出た。
教室に入り何時も通り授業の用意をしていると優人が成一の席に来た。
「おはよう」
「おはよう」
成一と優人は朝の挨拶をした。
回りのクラスメイトからはバレンタインの話題が上がっていた。
「今日そう言えばバレンタインだよな…」
優人はポツリと言って美鈴と話している優里をチラッと見た。
「成一は多分美鈴ちゃんから貰えるんだろ?」
「…ど、どうだろうな」
成一は思わず顔が赤くなった。
美鈴は小学生の頃から成一にチョコレートをくれていた。
多分今年もくれるだろうとは思うが、去年までとは違う気持ちになる。
去年までは只の幼なじみからの義理チョコ感覚で受け取っていたからだ。
いや、その時そう思い込んで居ただけで去年こう言う気持ちになっていてもおかしくは無い。
ふと成一は不安になった。今年も本当にくれるのだろうかと。
あの後チャイムが鳴り、授業が始まったが成一は頭にあまり入らず気が付いたら昼休みだった。
成一は何時も通り美鈴から弁当を受け取り、教室で美鈴と食べている。
今日の弁当は卵焼きとウインナーが入っていてそれにモヤシ炒めとライスが入っている。
因みに優人と優里は教室じゃないところで食べているようだ。
この高校では特別教室で食べろと言うような校則は無く、何処で食べても校内なら自由だ。
「……」
「……」
成一は美鈴と会話無くもくもくと弁当を食べている。
いくら長年の幼なじみだからと言って変に気まずい。
「なぁ、美鈴」
「うん?」
美鈴は成一に顔を向けた。
「い、いや…何でもない」
成一は慌てて自分が食べている弁当に視線を戻した。
流石に(今年はチョコくれるのか?)とは聞ける訳が無い。
成一は少し肩をおとしてまた勉強のおかずを口に運んだ。
放課後
成一は美鈴と高校の門を出た。
今日は美鈴と2人での下校だ。
何故か何時もと違い、沈黙なのが気まずい。
成一が何を話そうか考えていると。
「成一」
「ん?」
成一は美鈴に顔を向けた。
何故か美鈴の顔が少し赤い気がした。
「成一小さい頃の事覚えてる?」
「小さい頃の事?」
なんだろうと思いつつ成一は考えてみた。
「4歳の時の事」
「4歳?」
たっぷり数えて30秒。
成一は脳内の記憶を照らし合わせたが何も思い浮かばなかった。
しばらく成一が考えていると。
「ううん、やっぱり何でもない」
ポツリと美鈴が呟くように言った。
「え?」
成一は思わず口を開けてしまった。
多分かなりまぬけな顔になっている事だろう。
だが美鈴はそれに構わず成一に笑顔を向けてきて。
「それより成一、はいこれ」
美鈴は成一に可愛いらしい絵柄のピンク色の紙に包まれた箱を渡してきた。リボンも着いている。
成一は美鈴の顔をチラッと見た。
「チョコレートだよ」
「あ、あぁ…サンキュー」
成一は美鈴に軽くお礼を言ってチョコを受け取った。
内心貰えるか不安になって居た成一にとって美鈴からバレンタインのチョコレートを貰えた事はかなり嬉しい事だが成一はさっきの美鈴の話が気になった。
「なぁ美鈴、4歳の時って…」
「成一、もうすぐアルバイトの時間だから急いだ方が良いかも」
美鈴に言葉を遮られてしまった。
美鈴はそう言うと早歩きで歩き始めた。
成一も続いて歩いた。
(美鈴?)
成一の気のせいかも知れないが前を歩く美鈴の後ろ姿は何処か寂しそうに見えた。




