第25話 見つからない場所
いきなり「倉庫見学をしたいんです!」なんて言えるわけもなく。
ましてや、その理由が人工石を製造していそうな機械がありそうだから、なんて信じてもらえるわけがない。
けれど、確信だけはある。考えれば、考えるほど、港の倉庫以外に選択肢がないような気がしたからだ。
(なにかいい方法はないかなぁ……)
マーケットから帰ってきてからというもの、私は倉庫のことばかり考えていた。
密売人からザイス副長のしっぽを掴めなかった以上、他に打てる手があるとするならば、証拠の確保しかない。指をくわえて待ってなんかいられないし、魔石への信頼を失墜させるような事件が起きてからじゃ遅すぎる。
一刻も早く人工石を作る装置を見つけないと、次にどんなことになるかわからない。
けれど、立ち並ぶ倉庫を見歩いてもいい免罪符が思い浮かばなかった。
魔石の研磨を続けながら、チラリと横目で先生を見る。
そこで、ひねり出した考えが『魔石探し』だ。マーケットのときもそうだったけれど、先生の魔石に対する探求心は、私の比じゃない。珍しい魔石なら目をキラキラさせながら、採掘場や地層の状況を店主に聞くくらいだ。
銀蘭鉱を見たあとも、あっちこっちと楽し気に歩き回っていた先生を思い出す。
だから、倉庫に眠っているかもしれない珍しい魔石を探している、っていう名目で渡り歩く案を立ててみた。
先生についてきてもらえれば安全だし、もしかしたら一緒にザイス副長を捕まえることができるかもしれない。この前、密売人を捕まえた魔術があれば、すぐに無力化できるだろう。
そんな算段をつけて、一か八か思い切って聞いてみる。
「先生」
「なんです?」
先生は作業中の手を止めて、私のほうを振り返る。
ほんの少し、嘘が混じった提案にちょっと心が痛みつつも、話してみることにした。
「あの、倉庫巡りってしてみませんか?」
「倉庫巡り……ですか?」
「えっと、その、今日のマーケットでも珍しい魔石があったじゃないですか。で、次のマーケットを待つよりも、直接、倉庫に行って探すのも楽しそうだなぁって。それに、その……ハフェンブルク家の御用達証明書があるじゃないですか、あれを見せれば、自由に見せてもらえそうかなーなんて」
提案に乗ってもらえるかわからなくなって、段々と声が尻つぼみになってしまった。
先生は私の言葉を吟味するように、少しだけ沈黙する。私の真意なんてすぐに見通してしまうかもしれない。
「うーん、確かに、面白そうですけど……アテもなく歩くのは、ちょっと無謀なのでは?」
「うっ、そっ、それなら、シャルロッテお嬢様に口利きしてもらうっていうのはどうですか? 先日の豪華客船でのドレスに魔術付与つける話とか、私、マナーのお礼もきちんとできていないので」
頭をフル回転させて、何とかして先生を引っ張り込もうと試みる。
勝手に行くわけにはいかないからこそ、諦めきれなかった。
「……わかりました。それなら行きましょうか。手配をお願いしてもいいですか?」
「もちろんです!」
思わず、ホッと息をつく。
先生は何か少し言いたげな様子だったけれど、私は笑顔でごまかして、魔石の研磨作業に戻ることにした。
――気づいてるかもしれない。
けれど、先生はそれ以上何も言わなかった。
見つけたい気持ちと、嘘をついてしまった後悔が混ざり合って、チクチクと胸を刺してくる。
もしかしたら、倉庫じゃないのかもしれない。
そんな淡い希望を抱いてしまうくらいに、先生の顔を見ることができなかった。
*
シャルロッテお嬢様に伺いを立てたところ、あっさりと話を通してくれた。ドレスの話が効いたらしく、ついでにオーダーももらえたので、結果オーライだ。後日、倉庫を案内してもらうこととなった。
「お嬢様からお話は聞いております」
深々と頭を下げてきてくれたのは、ハフェンブルク家の倉庫番だ。長く務めている方で、四十代くらいのガッシリとした体格で、港にいるせいか日に焼けて色黒だ。伯爵家の倉庫を一手に任されているためか、身なりはきちんとしてるけれど、強面でちょっと怖い。
「今日はよろしくお願いします」
先生と一緒に頭を下げれば「先生が、ユリアンのことを……?」と惚れ薬事件の話を持ち出した。
ハフェンブルク家の人たちにとってみれば、一大事だったに違いない。私たちは頷く。
すると、破顔して、先生の手を掴んだ。
「先生方が助けてくださったんですね! ありがとうございます! いやー……ほんと、お嬢様に余計な虫がついたと、使用人一同、頭を抱えてたんですよ!」
倉庫番は、先生の腕をブンブンと引きちぎりそうな勢いで振るう。
先生はされるがままで、口を挟む隙がないくらいだ。
そのまま倉庫番は、いかにユリアン様が自分たちの眼鏡にかなわなかったか、歩きながら語りだす。
どうやら、典型的な貴族のお坊ちゃまだったらしく、使用人を見下すような態度で辟易していたそうだ。
「この港の倉庫は、我々ハフェンブルク家のものといっても過言ではありません。何なりとお申し付けください。魔石もお安く手配いたします」
その言葉通り、倉庫の入り口のほとんどにハフェンブルク家の紋章がつけられていた。ついでにいうと、先日のマーケット運営も担っている。本当にアルフヘイムの港を牛耳っていて、ユリアン様とエルザの末路に同情したくなってきた。
「ハフェンブルク家以外の倉庫ってあるんですか?」
「もちろんありますが、端の方であまり使われていませんね」
その言葉に、ヒヤリと背筋が冷たくなる。
「それって……ギルドとかですか?」
思わずじっと倉庫番を見つめてしまう。心臓が激しく脈を打ち、耳鳴りがする。
彼は少しの間を開けてから、ゆっくりと口を開いた。
「国や他の貴族が大半ですね。ギルドは……あったかな」
首をひねって悩むところから、魔術士ギルドが大きな倉庫を持っているという予想は外れたみたいだ。
来て早々に問題が解決できて、肩に入っていた力がドッと抜ける。
やっぱり、先生に嘘をつくもんじゃないな、と改めて思ってしまった。
ふいにその先生を見ると、穏やかな表情を浮かべていた。
まるで、今までの行動を全部見通していたかのようで、ちょっとだけ複雑な気持ちになる。
「じゃあまずは、うちの一号倉庫から見てもらいましょうか」
ガラガラと大きな鉄の扉が開かれる。
木箱が山のように積み重なり、奥には巨大な棚がひしめき合うように並んでいた。
中に入って見れば、その堅牢さに気づかされる。レンガは耐火性に優れていて、倉庫向きの建築材料として有名だ。仮に人工石製造機があって、爆発が起きたとしてもビクともしないため、周りへの被害は最小で済む。だからこそ『ある』と踏んでいたけれど、倉庫番の人が無いに等しいというのであれば、疑う必要も消える。
「魔石はこの区画ですね」
いくつか仕切りがある道を抜けて辿りついた先にあったのは、同じように木箱と棚がぎゅうぎゅうになっている場所だ。
さっそく先生と私と手分けして、棚や木箱を見て回る。大体のものに名札があり、普段から使うものばかりで物珍しいものは無さそうだ。他の倉庫にも、少しあるようなので、日を改めて行くことになった。
「あ、その日はフェリクスに呼ばれてる日ですね……」
「じゃあ、私が倉庫を見に行きますよ。お昼ごろに騎士団の詰所で合流でいいですよね」
何気なく言ったけれど、ふいに、一人でも大丈夫だろうか、と脳裏をよぎる。
予想が外れたとはいえ、先生は許してくれるだろうか。
「そうしましょうか」
あっさりと頷かれて、私一人で倉庫に行くこととなった。
次回は、倉庫番がもう少し奥の場所を案内してくれるそうだ。
海が近いその場所は、濃密な潮の匂いが漂っていた。
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