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8話 君は強い


 古代の街並み。

 もう今では見慣れたもの。


「なんだ、あの羅刹は…俺様から何を学んだ小僧」

「頑張ったと思ったけどな…ていうか、今日くらい休ませてよ」

「ならん、あの様で俺様が許すと思うか、あの程度のガキなら最初から切り刻め」

「簡単に言わないでくれる?!」



 長期戦闘訓練から数日、かつてない程の大規模かつ長期間の訓練という事もあり、各部隊には長期休暇が与えられた。


 死人が出ても可笑しくはない戦闘だったが、開拓者訓練団専属の精鋭僧侶たちの活躍もあり、各団員は無事訓練を終えることが出来た。

 腕を切られた某王者は、綺麗な切断面だという事もあり、何事もなく腕は元通りに。

 一応心配で見舞いに行ったが、なぜか従者たちから止められ、しばらく会うなと厳禁された。


 長期戦闘訓練の結果としては、フィリップ隊に次ぐ高評価を獲得。

 結果として、生存能力に関しては一定の評価を得ているが、フィリップ隊ほど部隊討伐数を伸ばせていない為、次席という評価に落ち着いた。


 個人としては、部隊戦略と各戦闘の指揮において高い評価を得ている。

 戦闘面においても課題とされていた継続戦闘能力では特に問題ないと、以前の評価をマイナスからプラスにまで伸ばせた。


 高評価だけではなく、開拓者訓練団では課題の洗い出しも実施してくれる。


 部隊としては、ロングレンジを担当する術師の場面制圧力が弱い。

 ラトナは僧侶であり、どちらかというと支援役。本来遠距離戦闘を担当する自分が担うはずの役割を、各種諸々の戦況により、無理に術師ムーブをして貰った。

 隔攻撃魔法などのレパートリーは少なく、場面を動かすに至らないが、敵に不利を出来る限り押し付ける事は出来たことは評価されている。

 しかし、最後の戦闘、某王者の右腕のような本職相手ではどうしても押されてしまった。


 そして、前線。主にアタッカー不在が響いた。前線の火力不足により、条件がフラットな戦闘ではどうしても押し切る事ができない。こればかりはゴードンを刈り出した自分の人望のなさのせいで、ゴードンの評価を下げてしまった。

 ゴードンは職人職だ。本人の適正とハイジ隊の事情もあり、なんとか前線をお願いしているが、本来であれば後方支援だ。


 ルディに関しては、文句なしの高評価だ。最年少参加者であるにも関わらず、堂々たる戦闘を見せ、かつエースの動きを全うした。

 最後は自力の差が出てしまったが、その点は若さを考慮して特に減点とはならなかった。あえて課題として挙げるならば、個として火力がもっと欲しいという点のみ。


 自分の課題は、フィジカルと多様な攻撃手段。

 殿下とのタイマンで嫌というほど突き付けられたフィジカルの差。攻撃手段の多様化、現在の戦闘スタイルを維持するならば、より多数の手札を用意するべきだ。飛炎砲が対策されたら、別の手段。

 近接戦闘も引き続き修練に励め、とありがたい個票だ。


 こうして各々がフィードバックを受けており、4者4様の反応を示した。

「うぅ…僧侶ですぅ…僧侶ですぅ…」

「あちゃ~オイラぁだいぶボロカスだなぁ!ガハハ!」

「二人には申し訳ないと思っているよ…戦闘以外で点を稼がないとね」


 全体通しての評価では大幅プラスのはずだが、一名のみ、未だ消化しきれずに居た。

「…ごめんなさい」


 数日前の頼もしさはどこに行ったのかやら。

 そんな少年の姿を見て、年長者3名は思わず苦笑い。

「ルディ君はすごく頑張ったと思うよ、私」

「そうだぜぇルディぃ!お前はすげえんだぁ!」

「でも…」


「ルディ、俺の二つ名は知っているな」

「えっと…ゴニョゴニョ無しですか?」

「そそそ、そうだ!玉無しだ!!」

「ぼかしたのに…」

 友人2名は思わず吹き出してしまった。


「そんな玉無しの俺が、この評価だ」

「本当凄いです」

「なぜここまで評価を上げたか、分かるか」

「…弱点を克服したからですか」

「そうだ、ほかにまだある」

「…わかりません」

 たいていの問には何かしら答えをひねり出す少年。

 今回の問に関しては本当になぜなのか、分からない様子だ。


「ひとつは、やり続けた事、積み重ねだ、諦めろと何度も諭されたがそれでも諦めずにやり続けた」

 友人たちは大いに頷いてくれた。


「最後は」

「最後は…」

「気づき、だね」

「気づき、ですか?」


 窓から小竜が隊室に入り、揚げバナナを貪りながら近づいてゆく、そして少年の頭上に座る。

「うわぁ!えっモンスター!!」

「ガキ、俺様をそこらの雑魚と一緒にするな、平伏せ」

「ええ喋った!しゃべりましたよみなさん!!!」

 小竜と邂逅に戸惑いを隠せない少年の年相応の様を見て、思わず可笑しさを感じてしまった。


「この竜のおかげで、魔道の神髄、強さに気付いたよね」

「えっ?」



 場を隊室から訓練場に移す。


「ルディに魔道の神髄を見せよう!ではどうぞナーガ様ぁ~」

「俺様がな…まぁいい、身体借りるぞ小僧」


 小竜は魔法の粒子へと身体を変貌させ、そして身体を取り憑かれた。


「ハイジさん…大丈夫ですか?」


 殺意にまみれた魔力が放たれる。

 いや放ってはいない、いやでも感知できるくらい、目の前の男から魔力が溢れ出ている。自分が知る人物から決して感じることない、魔のそのものが目の前に現れる。


「ハイジ…さん?」

「剣を構えろガキ、魔道の神髄を見せてやる」

 思わずルディは抜刀。しなければ死ぬ、という恐怖にかられた。

 そして《強化活性》を発動した。

 突如、ボルテージ最高潮の戦場に引きずり込まれた。


 目の前のハイジらしき人物が掌印を結んだ。

 刹那の魔力の揺らぎ。

「《羅刹(ラクシャ)》」

「…?!」

 咄嗟に《防御展開》を発動した。

 どうやらそれは正しい判断だった。守り壁が砕かれた。

 男は急接近。剣を振りぬく。本能で受けてはダメだと、ルディは剣を受け流す。

 男の剣戟は止まらない。

 《強化活性》を五感に大きく配分。


「筋は悪くない」

「ぐっ!」


 刹那の魔力の揺らぎ。

 それを見逃さないルディは《防御展開》を発動。またもや光の壁が砕かれた。

(ノーモーション?!掌印無しでもできるの?!)

 男は不適の笑みを零した。

「ほう…防ぐか、小僧よりやるではないか。ではこれはどう防ぐ」


 男は剣を地面に刺す。空いた両手で掌印を結んだ。

 刹那の魔力の揺らぎ。


「《羅刹の雛鳥(ラクシャ・シスパクシ)》」

「おいおい!ナーガぁ!」

「ナーガ様?!」


 無数の魔法の剣が上空に顕現。

 そして絶え間なく斬撃を浴びせる殺意の雨を降らす。


「ククク面白いガキを拾ったもんだな…もう良いぞ小僧」


 地面に膝をつくルディ。周囲には守りの光壁。崩壊を免れない、今にでも砕かれそうな光の壁。魔力を大部分注ぎ込んだ、四方八方全方向の守りの壁をもってしても、無数の斬撃を防ぎ切れずにいた。

 全身に切り刻まれた傷跡。しかし、徐々に塞がれる。

 ルディは一瞬の状況から、耐久性を《強化活性》で上げ、斬撃を《防御展開》でいくつか防ぎ、捌き切れない分を回復魔法で凌ぐ判断を下した。


「うわルディ大丈夫?!やり過ぎだよナーガ!」

「うるさい、小僧と出来が違う、この程度でこのガキは死なん…それより約束の高級揚げバナナを追々忘れるなよ、忘れた暁にはわかっているな」

「あ、はい」


「《ハートビート》《マキシマ》…大丈夫ルディ君?」

「…」

 少年からは返事がなく、少年の瞳孔は大きく開いたまま。


「これが気付き…これが魔道の神髄ですかハイジさん」

「いやここまですると思ってなかったよ?」


「…魔力の流れが読めませんでした、それは魔力を流すという工程が無かったから、魔力は全身にあらかじめ循環し、必要な分だけ使う事で効率が…掌印に詠唱、確かに古い技術だけど、型にはめて効率化している…だから魔法の質が現代魔法より上…剣は…多分の素の技術か…」


 少年はぶつぶつと、切り刻まれた経験を無駄なく反芻していった。1から10を知るこの少年には畏怖の念に包まれることが何度あったことか。


「ありがとうございますハイジさん、ラトナ様も回復ありがとうございます」

「結局伝えたかたった事は、積み重ねと閃きあればどうとでも強くなれるってこと、それより医務室いくよルディ」

「はい!」



 ルディの治療を終えて、再び隊室へ。

 高級揚げバナナを高級座布団の上で嗜み尽くす小竜。


「それはそうと、ラトナとゴードンは戦闘部隊から抜けるよ」

「えっそうなんですか?!」

「無理言って専門外に刈り出したのはあるし、それに俺たちの代はあと1年ちょいで訓練終了だしね。専門の方に時間割けてほしいよね」

「そうですか…寂しくなりますね」

「いや部隊には残るよ、それに俺は残るし」

「あっそれはありがたいです」

「そういう事で、ハイジ隊改め、ルディ隊として再出発!よっ隊長!」

「頑張って~ルディ隊長」

「うおぉ頑張れよぉルディぃ隊長!」

「それは聞いてないです!!」

「俺も俺で、やりたいことあるし、それにもう変更手続き済ませたから、決定事項ね」

「そんな!メンバー、メンバーはどうしましょう!」

「まぁ頑張って探して」

「うわあああ」


 少年の未来に栄光あれ。



 1年と少し時が流れ、開拓者訓練団の修了式が執り行われた。

 明日以降、各団員はそれぞれの道を歩む。


「ひっくひっく…ハイジさん…ラトナさまぁ…ゴードンさん」

「泣くなよルディ、情けない隊長見たら隊員が不安になるだろ?堂々としような!」


「…どの口が言ってんだろうなぁラトナぁ」

「…介抱代請求してもいいかな私」

(聞こえているよ君たち)


「クサノフもカヤンも、ルディをよろしくね」

「「はいハイジさん!」」


「じゃあね、またどっかで会おう!」


 こうして、数年に渡る訓練期間を終了した。


「そういえばハイジさんたちって何するんだルディ」

「あっそれ、アタシも気になる~ハイジさんとか何処でも引く手あまたそう~」

「えっと、ラトナ様は故郷で巫女になるでしょ、ゴードンさんは実家のギルドでしょ、ハイジさんは…」

「「ハイジさんは…」」

「ウェスト・ドラガンの軍人になるんだって」

「「ウェスト・ドラガン軍?!」


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