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7話 強者とは


「《反響定位(エコロケーション)》…南東で2部隊がやり合っている、エヴァン、ジョイ、行くぞ、両取りだ」

「「イェス・サー」」



「《反響定位(エコロケーション)》…南東に2部隊が戦闘、そこに北東から1部隊が急接近。西に3部隊います、残り3部隊は確認できません」

「ありがとうございます、ラトナ様……ちょうどハイジさんが仕掛けたポイントの近くです、西を取りに行きましょう」

「おうけぃ」



 6日目。

 最後の10部隊、各々の方針のもと、戦いを選ぶもの、潜み生存を狙うもの。

 どれが正解か、それが分かるまでそう遠くない。


 旧市街中央部には街一番の広場があった。広場を囲うように、戦いを選んだ強者たちの戦いの炎が燃え上がる。

 また、どこかで茨が、中央への進出を阻むように、道を塞ぐ。


 それらはまるでこの広場で相まみえる二人の邪魔をさせないようにするため。

 それはこの戦場におけるラストダンスの舞台を整えるため。


「ハイジ…お前に詫びよう、お前は戦士だ」

「フィリップ殿下にそのような評価頂くのは、光栄ですね」


 爆撃が広場に落とされた。地に落ちた瞬間、眩い光と爆風が吹き荒れ、轟音を発する。

 それを合図代わりに、地面を蹴り、駆ける


 刹那の魔力の揺らぎ、光の弾丸が爆煙を貫き、王者を襲う牙と化す。

 しかし、肉をえぐることなく、光で覆われた拳で打ち払われた。


(…あれが王子の《付与(エンチャント)》)


 任意の属性、特性を選択し、それを自らの肉体に付与する。

 攻撃魔法ではない、防御魔法ではない。

 それはあくまでも支援魔法だ。

 だがフィリップという男は、この支援魔法をもって最強まで上り詰めた。

 その魔法を最強の武器に仕上げ、この男は《王者》の二つ名を自分のものにした。


 類まれなる観察力で瞬時に適切なエンチャントを付与により、異なる局面、場面に適応していく。

 また、長時間の戦闘に耐えうる魔力量とタフネスは、この男を象徴する一番の脅威。

 フィリップという王者は、負けない。


(…訓練で一回勝ったなんて酒場のおっさんの自慢話みたいだな。後世では信じてもらえないだろうな)


 ハイジにとって一番やりたくない戦いとは、シンプルな肉弾戦によるごり押し。

 ナーガとの訓練を経て、魔力操作大幅向上による魔力効率や発動スピードの向上と、定石通りの戦闘に囚われない自由な戦い方で、一定の戦闘能力を獲得。

 しかし、依然として魔力量の絶対数は僅少のままだ。シンプルな攻撃によるごり押しで防戦一方に回っては、すぐさま魔力量が底を尽き、敗北が確定する。


 当然フィリップは最善の選択を取り、最悪の未来をハイジに押し付ける。

 魔法によるけん制や、獲物による殺傷もない。

 己の拳で砕きに行く。


 防御魔法が次々と砕かれていく。


(やっかいだな本当)



「《ソニックストライク》」

 最速の突きがクリスタルを砕く。

 上空へと飛翔する8つの光。


「よくやった、エヴァン。だけど悪いな、最後の戦場にいくぞ」

「イェス・サー」



 見上げれば、南東から2つの部隊の消失が確認できる。

(あちらは早いな…こちらも急がないと!)

「ゴードンさん一気に畳みかけます!」

「合わせるぜぇルディぃ!」

「手伝うね、《グラビラ》」


 指定範囲にて一定時間の高重力域を生成。

 2名を足止めに成功し、その間を縫うようにルディとゴードンは駆け抜ける。


 後方の術師は二人の動きを止めるべく、《パラライズ》を詠唱。

 しかし、ラトナが瞬時に《ディスペル》で麻痺を解除。


 術師を背後に寄せ守ろうとする大楯持ち、それをゴードンは《破滅槌(デシメート)》で盾を砕き、盾持ちの意識を奪う。


 術師は、迫るルディに対して《グラビラ》を発動し、ルディは高重力に阻まれる。

 術師は《強化活性(ライズ)》を発動しその場を離れようとした。

それを防ぐべく、ルディは《強化活性》を左手に集約し、盾を術師に向けて投擲。

 しかし術師に盾が当たることなく、後方に飛び離脱をした。


「行かせるか!《神の投擲槍(ブラフマン)》!」

 ルディは空いた左で隠し持った、スペア用の飛炎砲を取り出し、飛び去った術師に向けて、光の弾丸を一閃。

 そして、4つの光が空へと飛びあがった。


「…ふぅ間に合いました」

「おいおいルディぃ!それ、どうしたんだよ!」

「今朝、ハイジぃさんから貰ってきました、僕なら使えるだろうって」

「だからって直ぐには使いこなせねぇだろぉやるなぁ!」

「ハイジ君はルディ君を本当に信頼しているんだね」


 旧市街の北部から2つの部隊分の光が上がった。

 その直後、亜竜の豪砲が北部から轟き、また1つの部隊が返って行く。


「これで私たちと、王子の部隊のみですね」

「さっさと終わらして、ハイジぃに加勢しようぜ」

「はい!頑張ります!」



(5、7、8…これで残り2)

「考え事とは余裕だな」

「?!」


 防御魔法を砕かれたが、前と異なり、爆発を伴う破壊だった。

(爆発のエンチャントかな…当たり前のように光の弾丸効かないし、やっぱり■■を当てるしかないか)


「更に上げるぞ」

 光がフィリップの全身を更に包み込む。

(二重付与?!それは無茶だろ)


 フィリップの速度は、先ほどと比べものにならない域まで上がる。

「くっ」

 神速の拳が襲う。

 防御魔法だけでなく、両手の飛炎砲で防ぐ。

 しかし、どれも無残にも砕かれ、拳は腹部に直撃。

 意識は一瞬遠のき、身体は大きく後方に吹き飛ばされる。

 かつて直撃した《エアバレット》とは比べものにならない威力。


 態勢を立て直すもの、意識が朦朧。

 血の味を感じ、直後、赤い液体を吐く。

 幸い、吐血により意識を少し取り戻した。


(銃が、ごめんね技術部…仕方ない、短期勝負で決める)


 魔力の神髄、魔力とは世界に満ちているもの、魔力とは世界に全力で存在しているもの。


(《強化活性》…)

 刹那の魔力の揺らぎ、魔力を全身に張り巡らす。

 しかし、巡らせるだけで、その効果を発現しない、必要な時、必要な箇所に発現させる。

 これにより、《強化活性》のデメリットである常時発動による魔力消費を各段に低減。

 魔力の少なさを補う最善の運用。

 言うは易く行うは難し。

 緻密な魔力操作を戦闘と同時並行で行うのは至難の業。


 魔力貯蔵器か必要な分を供給する。その意識では速度の低下、ラグにつながる。

 予め全身魔力を循環させ、必要に応じてそれを使う、いや使うという意識でさえ効率的ではない。

 魔力とはそこにあるもの。無意識の領域まで魔力操作を高め、最高効率を導き出す。最高効率により、魔力ロストは限りなく0に近づける。


 当たり前のようで忘れていた感覚。

 いつのまにか魔力は道具に成り果てた。

 魔力とは世界に全力で存在している。


 己の弱さに向き合い続けたハイジだからこそ掴んだ魔力の神髄。

 ナーガという魔道の核心に出会たからこそ掴んだ魔力の神髄。


「魔力の粒子まで操作するその最高効率の魔力操作…恐ろしいな…ならば俺も俺の神髄を見せよう…《三重・付与》」

「…殿下もたいがいですけどね」

「ゆくぞ!」


 竜虎相まみえる。



「エヴァン、ジョイ、畳みかけろ」

「「イェス・サー」」

「《五重・サラマンダー》」

 5つの炎の玉が、命を吹き込まれ、まるで炎の竜の如く、空を飛翔する。


「ゴードンさんこちらへ!《ホーリーシールド》!」

「うわぁ!!」

「《防御展開》《マキシマ》!」


 火の竜は一同を襲来。

 ルディとラトナの防御魔法をもって防ぐが、炎熱や爆風まで防ぎ切れない。


「…《ハートビート・マキシマ》」

「おぉぃラトナぁ…無茶するなよ…」

「みんな頑張ってる、私も…それにすぐ来るよ…うっ、ごめんね魔力があやしいかも」

「…来ました」


 東側から2名の盾持ち剣士と、軽装備を纏う短剣両手持ちが全速力で接近。

「僕がドワーフをやる、ジョイは少年を」

「おうけいエヴァン」


「ラトナぁ!下がってぇ!」

「《シールドバッシュ》」

「うわぁ!!」


「俺っちに、付いていけるかなぁ坊や!《強化活性》!」

「…くっ《ペーシェンス》!」


 ルディとゴードンはかろうじて凌ぐ。

 二人が稼いだ隙を活かして、ラトナは後方に下がり、体制を立て直すことを試みる。

「…ポーション、それに早く戻らないと」


 東側の建物屋上から、ジョーダンが飛び降り、空中で魔法を放つ。

「時間を与えるとでも?《サラマンダー》《エンハンス》《パラライズ》」

 炎の竜、雷を纏った。

 炎は再び襲う。ルディとゴードンの上空を超えた。

 ラトナは《防御展開》を発動し炎の追撃に対処できたが、雷への対処は出来ずにいた。


「ラトナ様!」


「後方は叩いた、ジョイ、ドワーフに集中、俺がガキぃを抑える」

「イェス・サー!」

「くっ、待て!」


「お前の相手は俺だ、《フレイム・ウォール》」

 ゴードンとの間に炎の壁が築かれた。


 炎をもって、戦場を制圧した男。

 目の前には王者の右腕。

「…どうも」


(あれだけ魔法連発したんだ、魔力はそう残ってないはず…)

「直に叩くとしよう、《強化活性》」

「近接?!」


 強化魔法を発動後、目の前の男はもう懐まで接近した。

 横薙ぎの蹴りが襲う。咄嗟にルディは盾で防ごうとするが、盾ごと吹き飛ばれる。

 男は横薙ぎの蹴りの勢いを殺さずに、身体を回転させ、回し蹴りを繰り出す。

 男の回し蹴りは腹部に直撃し、後方に大きく吹き飛ぶ。


(術師じゃないのか…ぐっ)

 態勢を崩されたルディは防ぐ術もなく、強化魔法を持ってダメージの軽減が精一杯。

 咄嗟の判断で意識を刈られることだけは防いだ。


「…《破滅槌》!」

 ルディは地面に目掛けて剣を叩きつける。

 砕かれた地面は疑似的な目隠し、煙幕を生み出す。


(今の内に飛炎砲で…)

 煙幕を貫く一閃。

 それはルディからではない。

 光の弾丸はルディを貫く。


「ぐっ?!」

「自分たちだけの専売特許だと思ったか?」

 煙幕から男が再接近。

 顎を打ち抜く上段蹴り。

 ルディの視界は暗転する。



「どうした!受け続けるだけとは、以前のお前に逆戻りか!?」

「くっ」

 フィリップの拳を受けては流す。知覚強化に魔力を注がなければ眼に追う事さえ出来ない神速の拳。

 破壊の拳、広場に設置された過去の遺物やモニュメントなどを容易く打ち砕いていく。

 全てを躱すことは出来ない。

 致命傷となる部位への打撃は全力で回避し、避けられない部位はピンポイントで《強化活性》を発現し耐久性を強化。

 一つの判断ミスが一瞬の死へと導く。

 それが絶え間なく浴びせられる。


 ハイジはただフィリップの連撃を黙って受けている訳ではない。

 予め設置した数々の《茨の(ドーネン・)抱擁(ユングフラウ)》のポイントまでフィリップを誘導している。

「《起動》!」

「ぬっ?!」

 茨はフィリップの四肢に纏わり、神速を停止させた。


(最後の一発…)

 魔力配分は威力に全振り。

 止まった的ならば、外しようがない。

「魔力圧縮弾装填…《神の投擲槍(ブラフマン)》!」


 一閃。

 光の弾丸は王者を貫かんとする。


「《エンチャントシフト》!《破壊(デストロイ)》シフト《金剛(ダイヤモンドクラス)》!」

 フィリップはハイジの最大火力を、エンチャントの属性変更で対応し、受け止めた。。

 光の弾丸は茨をも巻き込み爆散した。

 拘束を解かれ、機を逃さずフィリップは光の残滓の中を突っ切る。

「《エンチャントシフト》!《金剛(ダイヤモンドクラス)》シフト《破壊(デストロイ)》!」


 フィリップ自分の眼を疑った。

(なぜ?)

 目の前の男は、自分自身の最大火力である飛炎砲を手放した。


 そして左手は掌印を結ぶ。

 刹那の魔力の揺らぎ。

「…《羅刹(ラクシャ)》」


 破壊の光を纏うフィリップの右手を、見えざる剣によって切断。

(獲った!)


 しかし、王者は止まらない。


 破壊の光を纏っていない左手をもって、ハイジへ振りぬく。

 ハイジは攻撃にすべての魔力を回していた。

 自分を守るために回す魔力はなかった。

「ぐはっ!」

「なめるな!俺が腕一本ごときで止まると思うか!」



「シルバーメイン副官、ドワーフも抑えました」

「ジョーダンよ、殿下に加勢するか?」


 王者の右腕は中央部の広場へ視線を向けた。

「…いや、我らの主の勝利を待とう」

「「イェス・サー」」



 意識が朦朧する。

『お前は弱いな』

(うるさいな…)


 思い出す古めかしい建物。

 目の前には、剣を携えている少年。

 少年の周りには無数の魔法の剣。



 フィリップは治癒魔法で止血し、応急措置を施した。

 そして、左手に付与術を発動。

 何度も打ちのめされても尚、立ち上がろうとする男。

 過去にどれほどこの男は倒れたか。

 しかし、いつだって挫くことはなかった。


「貴様に最大の敬意を示そう…《五重・付与》」

《破壊》、それは触れたものを破壊させる力。

《反魔》、それはあらゆる魔力を中和する力。

《金剛》、それは最高硬度の力。

《神速》、それは最速の力。

《剛力》、それは純粋な暴力。


「…くっ、いくぞ!ハイジ!!」

 王者は駆ける。

 死に体の男を、確実に屠る一撃を叩き込む。


 男は抵抗することもなく、王者の拳を受け入れた。


 そして掌印を結ぶ。

 片手ではなく、両手。

「魔法…と、は…想像の…世界」

「何を、言っている?」


「…《羅刹(ラクシャ)の雛鳥(・シスパクシ)》」


 上空に無数の魔法の剣が顕現。

 それらは自分もろとも、王者を貫く。



 広場を囲う炎と茨が消え去り、広場へジョーダンたちは駆けつけた。

 広場に片腕を失った主と、地に伏した男。

 無数の魔法の剣が我が主や、地面に突き刺されていた。


「フィリップ…生きてるか」

 ジョーダンは何よりも、自分の主の生死を案じた。


 王者は左手でクリスタルを持ち上げ、ジョーダン達に向けた。

「クリスタルに切り傷…」

 魔法の剣は確かにクリスタルに当たっていた。

 しかし、壊すには至らなかった。

「この男は…俺との闘いの中でも、チームの勝利を狙った。食えないヤツだ」


 王者はクリスタルを強く握り、砕いた。

「完封なき勝利以外はいらん」


 そして、8つの光が空へ打ち上げられた。


 旧市街には、最大多数の爆撃が降り注ぎ、残った獣たちを葬り去った。


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