5話 出来る管理職はお膳立てが上手い
過去の遺産、忘れられた旧市街。
その外れにある広場にて、大規模キャンプが設けられている。
120名程度の二個小隊規模が整列。
その前線には教官らしき人物が立つ。
「今から7日間の長期戦闘訓練を開始する。各自指定の魔術師の前で待機し、一斉に転送魔法で部隊同士等間隔を旧市街にてランダムに放り出す。」
各部隊が縦に整列し、先頭には部隊長が立っている。
教官の説明を聞いているのか聞いていないのか、ハイジの意識は旧市街の方に向いている。
「おいハイジぃ…なにキョロキョロしてんだよぉ、ちゃんと聞かないとドヤされるぞぉ」
「ん?ああ、ちゃんと聞いているよ」
「本当かよぉ」
「こちらのクリスタルを破壊された際は部隊脱落とします。またこのクリスタルが破壊された時には部隊全員が強制転移されます。
「生存時間、討伐部隊数に応じて評価をしていく。時間経過とともにモンスターを輩出、または爆撃を投下し活動エリアを制限していく。どうしても緊急の時はクリスタルを破壊して自衛を図りなさい。貴君らの検討を祈る」
初めて訪れた場所なのに、どこか懐かしさを感じる。
荒れ果てた街、古めかしいリバの建築物。
あの少年はここに居たのだろうか。
◆
「ハイジ隊だな、物資リストを出せ…ふむ、確かに受け取った。では準備は良いな」
「はい」
指定された魔術師まで向かい、各種書類の提出もした。
物資リストがなぜ必要か、恐らく兵站計画も評価基準の一つで、戦闘貢献期待が低い後方支援部隊員のための評価制度だろう。
「打ち合わせ内容覚えているね」
「あいよぉ」
「うん」
「は、はい!」
空に合図代わりの赤い火花が打ち上げられた。
「ハイジ隊、転送するぞ」
「行くぞ」
「「「はい」」」
◆
街の北側に位置する、旧市街を見下ろせる丘に佇む神殿。
かつてはこの街の祈りを集約した場所。
神殿の屋上、そこには黒塗りの短剣が刺さっていた。
その短剣付近に、4つの魔法陣が突如浮かび上がり、4名の戦闘員を顕現した。
「うえぇ…転送魔法はいつまでたっても慣れないわアタシ、嵐の時の船旅みたい」
「高度な転送魔法を一般訓練兵に使うたぁ贅沢なもんだよなぁ」
「実験込みの訓練らしいよ、私たち実験体代わりじゃないかな」
「おっ良い場所に転送したぜ、一度周りを見渡してどうするか決めるか」
「「うぃーっす」」
部隊の指針を出した男、屋上から旧市街を観察する。旧市街の東部、早速戦闘を開始した部隊が見られた。
また東部の戦闘に対して漁夫の利を目指し、東へ移動を開始する影も見られた。
「よーし、お前ら、早速だが東へ行くぞ!美味しいところをかっさらいに行こうぜ」
「?!隊長伏せて!!」
「え?」
術師の部隊員がそう叫びながら同時に強力な防御魔法を展開。
無情にも防御魔法が砕かれた。
「どこから?!」
「南です!!」
「はぁ?」
はるか南から2つの輝き。
「た、退避!!」
と指示。
しかし、神速の光は見逃さない。
1つ目の光は再度術師の防御を破壊。
そして最後の光は、クリスタルを砕く。
4つの魔法陣が再び顕現。
魔法陣から4名を包み込む光を展開。
その光は上空へ飛び上がり、旧市街離れまで飛翔した。
◆
4つの光が旧市街の離れまで飛んでいった事を確認し、樹齢数百年はくだらない大木の頂点付近から飛び降りる。
「1つ取った。でもごめんみんな、3発使ってしまった。ラトナ、充填頼むね」
「わかった」
「奇襲にしては上出来だぜぇハイジぃ」
「すごい…これがアバド皇国最新式兵器の飛炎砲ですか…」
「これはね、試作長距離狙撃器『クォデネンツ』だよ、技術部から試せって押し付けられた。良い報告が出来そうで良かった」
飛炎砲を分解し、収納していく。
「よし予定通り、混乱が起きる序盤を凌いで、有利な位置を確保するよ」
「「「了解」」」
◆
一閃、そして二閃、三閃。
見上げれば嫌でも目に入る忌々しい光、忘れはしない、光から溢れた魔力の残滓。
そして、旧市街の外れに向かって4つの光が飛翔した。
「ちっ、あの野郎のか……おい、東の奴らを片付けるぞ」
「「「イェス・ユア・ハイネス」」」
◆
「ストップ」
一同建物と建物の間で停止し、周囲を警戒。
旧市街南から中央に向かって北上。
旧市街の中央部からやや南よりの位置、そこに2階建ての大型建物が目の前に。周りには崩れ朽ちた屋台らしき残骸が見える。
恐らく市場の役割を果たしていたのだろう。
数百年前から高層建ての建築を築ける技術力、この場所は可能性に満ち溢れた場所と読み取れる。
現在地から東側に、細長く高い建物が見える。
「ラトナ、あの高い建物から、魔力感知を頼むね。ゴードンも一応護衛に」
「わかった」
「あいよぉ」
友人二人、指示通りに素早く行動を開始。
荷物を置き、各種武具のみをもって移動したところ、こちらの意図をくみ取ってくれた。
「ルディ、なぜここで、だと思う」
「…」
少年は口に手を当て思考する。幼さがまだ抜け切れていない顔つきだが、不思議と頼りなさは感じられない。
「ここは街の中央からやや外側に位置しています。最初の数日はここをベースにして戦って、後半戦は外側からあと入りを目指したいのではないでしょうか?」
笑みを浮かべてしまった。
思わず少年の頭を乱暴に撫でる。
「ラトナたちの報告次第だが…今から2回か3回ほど戦う事になると思う」
「ここで戦闘起きるという事は、同じ考えの、実力のある部隊という事ですね」
「出し惜しみはしないよ、頼むね」
「はい!」
数分後、ルディは友人2名の方向に振り向いた。
「合図来ました…えっと、2、ですね。1つは西からです。」
「2回なら良かった」
自分には聞こえないが、ルディだけに分かる合図が送られた。
おそらく、全員合わせても数名とルディだけが分かる合図。
高音を発信する魔法だ。人は加齢を重ねる度に、一定の高音を聞こえなくなるとされている。
そこでルディの年齢のみが聞こえる音域を予め設定し合図代わりにした。
荷物を建物内に隠し、その中から赤い短剣を取り出した。
魔力を込め、短剣を2階建ての市場に向けて投げ、建物の壁に刺さった際に砕け、赤色の煙をまき散らした。
「いくよ」
「はい!」
少年とともに、赤の目印に目掛けて駆けていく、そして友人2名の方角から見知った魔力が感知。
◆
2階建ての市場、周囲から視線が遮られる2階奥の部屋を拠点として構える。
市場は最適な場所だった。高い位置から周囲を確認可能であり、また旧市街の中央部からさほど離れていないポジションとなっている。激しい位置取りが予想される中央へいつでも襲撃をかけることが出来、外側から中央に向かう部隊の撃退にも対応できる。 さらにこの建物は周囲からの射線を遮る構造を持っており、拠点防衛戦にも活用できて、理想な的な拠点となっている。
「うっし!周囲警戒していこう、建物内から四方警戒しよう」
俯瞰すれば、南北に伸びた長方形の形している市場、2名は南側に移動。
「うん?なんかうるさくない?虫?」
「いや聞こえないが…?」
「あれまた聞こえた、ってこれ魔法だ!隊長たちを呼べ!」
◆
ルディは合図を再び受け取った。
「ラトナ様とゴードンさんは南の2名に行くそうです」
「ルディは先行して突撃」
「了解です!」
「二人と合流するまで、倒さなくていいからなんとかして全員引き付けて、」
ハイジと離れた後、ルディは《強化活性》を即座に発動。
特に脚部に魔力を多く流し込み、加速をしていく。
◆
西側の窓から少年は突入し、左手に構えた縦を押し付けた。
受けはしたが、想像以上の少年の力に押され、後方に吹き飛ばされ態勢を崩した。
「はぁ?!ガキじゃねーか!」
「油断するな!力はあるぞ!」
ルディはすかさず、もう一人に目掛けて盾を押しつけていく。
「はあ!《シールドバッシュ》!」
飛ばされた仲間の反省を生かし、防御魔法と強化魔法を受けて、少年の攻撃を凌いだ。
「盾持ちには物量!釘付けにしてくれ!」
更に後方から、建物の北側で四方を警戒した仲間が合流。
術師らしき男から、無数の炎の矢が放たれた!
戦士との鍔迫り合いで制限されたルディに襲い掛かる炎。
(これは防げない!)
「うおおりゃあ!」
ルディが突入した窓から同じくゴードンが飛び入り、火の玉をハンマーで掃って行く。
そして勢いを殺さず、ルディと対面している戦士に追撃。
「《破滅鎚》!」
ハンマーは戦士の防御魔法と、仲間の支援による追加の防御魔法ごと粉砕し、戦士を壁にめり込ませた。
「ありがとうございますゴードンさん!」
「目の前に集中だぁルディ!」
「すみません!」
「やってくれたな!《パラライズ》!」
「うっ!」
「やべっ!」
術師の麻痺魔法で二人は硬直。
その機を逃さずに、残りの2名が撃退に駆ける。
「《ディスペル》」
ルディとゴードンの後方から、ラトナの支援が届いた。
そしてつかさず、敵の妨害魔法を繰り出す。
「《グラビラ》」
1名を重力付与魔法で足止め。
そしてもう一名をゴードンが抑える。
「ルディ君!術師がクリスタルを!私を信じて突っ込んで!」
「はい!」
ルディは《強化活性》の魔力を、脚部と剣を握る右手に集約。
「くそが!」
術師は弾幕用の魔法を連続で使用。全てを交わし、そして交わし切れない攻撃は後方のラトナが防御で防ぐ。
ルディは仲間を信じて駆けていく。
「貰います!《ソニックストライク》!」
片手剣突撃支援魔法を繰り出し、術師が腰にぶら下げたクリスタルを貫かんとしている。
「お前みたいな近接バカの対策をしてないと思うか!馬鹿が!」
術師は杖から剣を引き抜いた。
それは暗器。
ルディの射線上に振りぬかれた隠し兵器。
ルディの剣より先にルディの東部に直撃する距離に置かれた。
術師が距離を縮められば何もできない、そんな定石を覆すための反撃。
(誘われた?!やばい魔法で動きが!このままだと…食らう)
目の前に、一閃、術師の剣を砕く。
「は?!」
整えられた盤上。
仲間からの信頼、少年は逃さない。
「はあ!!」
クリスタルは砕かれ、目の前の光が上空へ飛翔。
「やった!…じゃなくて、次の部隊来ます!」
「ううん」
「空みてみ、ルディぃ」
「え」
西の空を見上げれば、8つの光が、遠く、一つの場所に集っていく。
◆
女の眼は翡翠色に輝く。
それは生来の色ではなく、魔法による輝きだった。
「前方の2階建て…で戦闘開始されました。一人ダウンしました」
「展開が早いな、こちらに存在に気付いて短期勝負か、ならば乗ろう、仕掛けるぞ」
「「「了解」」」
4名は迷彩がらの服装を纏い、周りの風景に溶け込んでいく。
身柄を軽量にし、速度を重視した部隊編成だ。
感知魔法も展開をし周囲警戒も怠らず、建物と建物の間を縫って素早く駆け抜けていく。
刹那の魔力の揺らぎ。
「《茨の抱擁》《起動》」
「回避!!」
周囲の草むらから、複数の茨が襲う。
2名の拘束に成功。
「散!」
部隊長と生存一名がお互いから距離を取り合い、お互いを支援できる角度まで広がる。
隊員に向けて3つの光が襲う。 脚部を打たれ、機動力を奪われた。
(この光、転送直後のものと同じ)
部隊長の男は迅速に光の許へ。
2発の光、初速は早いが、出所さえ分かれば回避は容易い。
横に回避。
刹那の魔力の揺らぎ。
再び茨が襲う。 しかし、茨は男に届くことない。
隊員の防御魔法によって事前に塞がれた。
男は暗器を投げた。
また、機動力は奪われたが地に伏せている仲間からも、魔法や暗器などを繰り出した。
「俺たちを舐めるな!」
魔法は防御魔法で防ぎ、暗器は回避、また回避しきれない分は手元の武器で弾く。
(崩した!捉えたぞ、これで詰みだ)
光を放った男は両手の武器を離した。
(は?なぜ…」
左手は掌印が結ばれた。
「一手の差だね…《■■》」
かすかに観測できる、見えざる■は男の踵骨腱を貫き、行動不能を強いた。
そして右手にははっきりと目視できる魔法の■。
■はクリスタルへ振りぬかれた。
◆
すぐさま、地面に放り投げた飛炎砲を拾う。
瞬間的な《強化活性》を発動し、建物の屋上まで飛び上がった。
ゴードンとラトナがそれぞれ敵を抑え、本丸をルディに打たせる動きを見せた。
術師の不自然な魔法の乱打。
「誘われたな」
銀の弾丸を飛炎砲に装填。
眼球への《強化活性》の供給。
そして飛炎砲へ魔力を流し込む。
魔力は速度への分配を最重視。
「魔力圧縮弾装填…《神の投擲槍》」
一閃、剣を砕き、そして見上げれば、空には8つの光が集っていく。




