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4話 玉無しじゃないよ?本当だよ?


 枝と枝が絡み合い月明りさえ遮る。

 湿った土に、腐り果てた葉っぱが混ざり合って出来た森の匂い。

 その匂いだけでなく、かすかに獣の匂いも感じられる。


「ハイジぃ…なんでここ何んだよぉ…モンスターならそこら辺のゴブリンでも良いだろう…帰ろうよぉ…」

「あぁもう付いてこなくて良いって言ったじゃないか…それに、この森のアイツに試さないと意味ないでしょ」

 二人は、夜の森に紛れる声やり取りを交わした。


 今日の森は静かだ。

 ヤツが徘徊している。ヤツを警戒してか、その他の生き物は息を潜んでいる。

 今日は静かだ。


 乾いた枝や葉っぱ、どちらかは分からないが、踏まれる音がした。

「来た…ゴードンはここで待機」

「ハイジぃ…早く戻ってくれよぉ…」


 水辺は月明りに照らされている。

 いくら森と言えど、水を遮ることはない。

 いくらモンスターといえど、水分を定期的に補給するはず。


「…いくよ」

 腰に携えている得物に手をかける。

 それは剣ではない。



 刹那の魔力のゆらぎ。


 ヤツは察知した。

 ヤツは吠えた。

「グオオオ!」

 この森の猛者、「一角大熊」

 巨体の隅々まで魔力を行き渡せる、そして繊細な魔力操作を可能とする一角。その一角は、魔力操作だけではない、周囲の魔力感知に活用され、臆病なまでの敵への警戒心。

 それゆえにヤツは負けない、引き際を知っている。


 刹那の魔力。


 自身を這うハエ程度だが、ヤツにとってはなぜか不快に感じる魔力。自分を殺さんとする魔力。

 他なら大抵無視する微弱な魔力、でもヤツは決して見逃さない。足が地面にめり込むほど踏み込んだ突進、どれほど魔力が注ぎ込まれたか。

 魔力の発生場所に、自慢の魔力を纏うかぎ爪で刈り取る。


「…グゥ?」

 いつものように、肉がつぶれる、または肉を切り裂いた時のあの手ごたえが感じられない。

「…お前なら外さないよな、だからお前はこの森の猛者なんだ。まぁでも、この程度の速さなら行けるな」


 不快、不快。

 ハエ程度の魔力が、払えない、潰せない、食えない。

 何故だ。


 ならば殺す。

 ぐちゃぐちゃにして殺す。


 「一角」に魔力が集約。

 その先端には光り輝く魔力の塊を生成。

 それはまるで獲物を仕留める槍。

 「一角大熊」はその魔力の槍を放つ。


「悪いな、一角大熊」

 刹那の魔力、いや魔力の爆発を感じた。

 そして、一閃。


 槍は光の弾丸とぶつかり合う。

 槍は無常にも砕け散り、光の弾丸は「一角大熊」の頭部を貫く。

 一角大熊はもう二度と、魔力を感じられない、感じる必要もない。


「うおおハイジィ!やったぁやったぁ!すげぇよぉすげぇ!」

「…うん、これなら、やれるね」



「玉無し、俺様は忠告したはずだが…」

「玉はありますって…魔力が無いんですよ。いやちが、魔力はある」


 今日は定期的に行われる模擬戦闘訓練。 個人の評価向上にダイレクトに関わる訓練である。

 特に自分は上級訓練課程に突入以降、芳しくない成績ばかりで、いよいよ教官から一定の成果を出さねば、技術職へ転向の回答期限が近づきつつある。


「ゴードン君、ハイジ君は本当に大丈夫なの?あの日以降、技術部にこもりっきりだし…」

「まぁみててよぉ、ラトナぁもびっくりしちゃうぞぉ」



「ハイジぃ、今日はアレ使わないのかぁ?剣だけで良いのかぁ?」

「うん、今日は剣がメインだしね。逆に言えば、剣を軸にすれば他はなんでもいいんだよ、魔法とかね」

「ふーん」

「それに…まずは剣と魔法のみでやってみたいしね」



「双方構え!」

「技術部とつるんで何か小賢しい事企んでいるの知っている、もっと向き合えよ自分に、それでも戦士か」

「へーそこまで嗅ぎ付けているのですね殿下、魔力操作もそれくらい繊細ならもっと強くなると思いますが…」

「…良いだろ、引導を渡してくれる」


(これくらい挑発すればいいか)

 荒々しい魔力が流れ、手先で渦巻くように留まっている。


(うお王子恐ええ…ていうか戦闘前に魔法の事前発動いいの?)

 審判を務める教官をちらと見たが、我を関せずのスタンスで目を閉じた。

(…さいですか)


「始「殺す!《エアバレット》!」め!」

 前回より多くの魔力を注ぎ込んだ最速汎用風魔法エアバレット。近接職にとって扱いやすい魔法であり、また魔力操作次第で威力、速度、範囲をカスタム出来、戦士職にとって必須魔法となっている。

《エアバレット》を放ったのち、ノータイムで《強化活性(ライズ)》で距離を縮める。

「初手ならなけなしの魔力で防げるか?!玉無し!!腕ごと叩き切ってやる!」


 上段からの斜めの大振り、腕及び剣先に魔力を乗せ、殺意を込めた一撃を繰り出す。

 刹那の魔力のゆらぎ。


「そんなちっぽけな魔力じゃ防げるか!!剣ごと叩き切ってやる!」

 振りぬいた剣は、剣とぶつかる感触。

 しかし剣は肉どころか、剣すら破壊することなく、受け流され地面にめり込む。

「なに?」


 そして、腹部の痛み。

「うぐっ!」

 蹴られたと認識した同時に、身体が宙に浮くことを認識。

(なんだ、蹴られた?)

 宙に舞った体はやがて地面に乱暴に着地。鈍い痛みが襲う。


 体勢を立て直し、状況を把握。

(剣は、くそっ手放した…ヤツは、向かってきやがる!)

 けん制用に、《エアバレット》を数回放った。威力を犠牲にした、弾数重視の弾幕目的だ。

 ただ、自分が下に見ていた相手が、それらを躱し、こちらに確実に近づいてゆく。

(なんだ?魔力は感じられるが、読めない…)

「なんなんだ!お前は!!」


 無数の弾丸を無情にも当たることはなかった。

 大振りの剣が襲う。


 とっさに、拳へ魔力を流した。拳は光に覆われ、それをもって反撃に出る。

(しまった…この魔法はダメだ!)

 無理矢理魔法を解除した。

 魔法の強制解除には少ないダメージが脳に直撃する。


 それでも男は絞りに絞った魔力で《防御展開》を展開し、剣から身を守る。

「ええい!」

 しかし、捌き切れず、体制を崩してしまった。


「《エアバレット》」

 身体が後方に吹き飛ばされ、意識が遠のいた。

「くそ…が……」


「勝負あり!勝者、ハイジ!」



 勝者に向けられるは歓声ではなく、ざわめき、疑念。

「おい、本当にあの魔力なしか?」

「魔力の流れを読めたか?まったく見えなかった」

「発動スピードが段違いだ、それに魔力効率も…」

「殿下が負けた…」


 友人の居る場所まで向かう。

「なんか警戒されちゃったね」

「ハイジ君…なんかコソコソしていたのは知っていたけど、びっくりだよ…すごいね」

「へへへぇすごいでしょぉ、でもまだまだあるんだぜぇラトナぁ!」

「なんでゴードンが得意気なんだよ…」


 隊室が配置されている建物の屋上に目を配らせる。

 小竜が見下ろしていた。

 どうだと言わんばかりに、小竜に向け拳を突き出した。

 そんな自分を、友人たちは微笑ましく見守った。



 模擬戦闘を終え、教官からの個票を受けた。

 初めて高評価を得た。

 これまでは魔力無し戦闘において一定の評価を得たが、魔法を絡んだ無差別戦闘において魔力の少なさがネックとなり、評価を獲得するのが難しかった。この一戦で課題を克服したこともあり、教官としては評価しない訳にはいかない。

 開拓者訓練団の教官だけあり、この一戦で新たな課題の洗い出しもしてくれた。短期勝負や単体ではなく、長期戦や多対戦などでどう対処するか、前者と異なり後者の戦いは別物となり、より自分の短所である魔力の少なさが響くものとなっている。


 そして1週間後に大規模訓練が告知された。7日間の長期戦闘訓練が実施される。

 旧市街地の一角を用いて、部隊毎によるサバイバル訓練を実施。生存日数及び他部隊撃退数などが試される。

1週間の準備期間が設けられ、各部隊が対策を講じる時間が与えられる。


「では、ハイジ隊新隊員メンバーをご紹介します」

「ハハイ!!自分、下級訓練団員の、えっと、ルドルフ・ウォルテマーデです!お気軽にルディと呼んでください!」

「ルディ君にはね、俺の代わりに前線を張ってもらいます。剣盾持ちの剣士職で、来週の訓練にも早速参加してもらいます。ルディ、ちょっと大変だけど部隊の連携とか深める訓練を、来週までに徹底的にやるよ」

「ハハ、ハイ!」

「ははは緊張しなくてもいいんだよ、頑張ろうね」

「ハイ!」

「では元気に行ってみよう!」

「オ、オー!」


「「ちょっと待った!」」


 新米団員とうまく打ち解け、今後のハイジ隊の未来に向けて、最高のスタートを切ろうとした矢先。

 何が問題だろうか。


「誰だよぉこの子!!あっよろしくルディぃオイラぁゴードンはゴードンっていうよぉ」

「ゴードンさんよろしくです!」

「まだ若いよハイジ君?!ルディ君わたしはラトナ、よろしくね」

「ハイ!いいえ!!よろろしくです!ラトナ様!」

「いやだから新戦力だって」

「「展開が早すぎる!」」



 ナーガのしごきを経て、自分のスタイルを改めた。

 それに伴い、ハイジ隊に必要な戦力が変化した。


 ハイジ隊は教官からの依頼で下級訓練課程における訓練の補助など多数請け負ってきた。

 その中で、下級訓練団員の一人、ルドルフ・ウォルテマーデに目を付けた。まだ開拓者訓練団に入団し2年程度の若干15歳の秀才。

 まだ荒削りながら、仲間を守る力がある盾職。

 更に回復魔法も身に着けており、持久戦には持って来いのフォワードだ。


 早めにつばをつけて、今から鍛えれば、上級訓練課程に突入する頃には大化けする人材と評価している。

 ルディは今のハイジ隊に必要な戦力だ。


「オイラぁも下級生を見たからなんとなく知っているけどよぉ、でもなんで下級生からなんだぁ?この前の模擬戦の後で、同期からも声かかったんだろ?そっちの方が即戦力だ思うぜハイジぃ」

 ルディが少し落ち込んだ。


「あっルディ君が悪いってことじゃないからね。ただ、ルディ君も若いし、長期戦闘訓練は大丈夫かなって、無茶させたら流石に悪いなって私たち思ったんだ」

 ラトナがすかさずフォロー。気配りが出来ると事はさすが僧侶


 ハイ…アリガトウゴザイマス…恐縮デス…と、ボソボソとつぶやくルディ。

 ルディもまだ思春期真っ最中、綺麗なお姉さまに照れを覚えだす年頃でもある。


「最大の理由は2つ、模擬戦後に申し込む同期は採用したくない。もう一つ、ルディは魔力無しの俺に対しても舐めてかかってこなかった。この2つが重要だったね」

 下級訓練での補助の際には、少なくない下級団員から疑念の目を向けられている。

 魔力無しの教えなんて意味あるのか?と。


 下級訓練課程では基礎を身に着けるため、無差別戦闘訓練はあえて少なくしている。より基礎となる戦闘技術を磨くための期間だ。

 その中でもルディは純粋に強くなるために、真っ直ぐな目で観察し、時にはアドバイスを求めたりしていた。

 また、下級訓練団員の中からも、ルディの人柄の良さはよく耳にしている。


「ルディは良い子だなぁってなんとなく覚えてるよオイラぁ」

「それで~ハイジ君~最大じゃない理由は?」

にやにやとしながら、その部分にしっかり反応した友人に思わず悪い笑顔をこぼしてしまった。


「実力だよ」


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