3話 それはそうとして、弱いな
遠征訓練帰還から翌々日。
遠征の論功が行われた。
想定していた遠征工程を辿ってきたか、兵站は適切だったか、遠征中の戦闘など、多岐に渡る遠征部隊全体の評価や各部隊の評価などが教官及び各部隊の隊長が論功に当たっていた。
ハイジ隊に下された評価として、準備計画、兵站ともに好評、ただし戦闘面において長丁場となる遠征において約1名の長期戦適正が疑問視された。
部隊の評価は全体として合格点、しかし、上級訓練課程後期ではより厳しい採点が執られ、早急に対処が求められる。
論功と基礎訓練ののちに、ハイジ隊室にて、今後の対策を議論している。
「もう一人隊員を増やそう、部隊の編制的に術師を探すのが良いと思うんだ」
「ハイジぃとオイラぁで前線張りつつ、ラトナぁともう一人後方って所だね」
「戦闘はそれで良いのですが、支援業務はどうしましょう。ハイジ君が兼任する体制だと、結局ハイジ君が戦闘技術を伸ばす時間が取れないと思うのですが」
「俺とラトナも事務関連やってもらっているし、かと言って兼務出来る術師って貴重でハイジ隊に来てくれるか…」
「「うーん」」
上級訓練後期課程では、各部隊の再編が認められ、また下級訓練団員の中から一部の訓練生をスカウトして参画させても良い規定だ。
通例では既存部隊で同期同士の再編が多い。
下級団員からスカウトしても、連携再構築、下級生ならではのスキル面の未熟さで下の子を入れる部隊は少数だ。
「オイラぁも亜人連中から声かけてみるよぉ」
「私も声をかけてみますが…」
「うーん俺は俺で同期たちに声かけるし、下の子リストアップとスカウトをしてみるよ」
部隊の今後の方針を話し合い、あーだーこーだーと悩んでいる三者を横目に、小竜はふかふかの座布団の上で揚げバナナを嗜んでいる」
「おい小僧」
「スカウトに、教授に頼まれた機構の設計書の見直しに、下級団員訓練の手配に…忙しいんだけどナーガ」
「お主らはなんで自ら手間を増やすんだ」
「戦闘面で評価上げられないから、ちょっとでも部隊全体のために色々手出しているんだよ!もういい?!」
「戦闘面で評価上げればいいだろう」
「ちょっ、ナーガぁ!」
「ナーガ様それは…」
拳に力が入り、思わず作成中の大事な書類をしわくちゃにしてしまった。後から、後悔するだろうな。
「それが出来たら苦労しないだろう?!」
「出来るだろ」
「…はぁ、何言ってんのさ、知っているだろ、俺は魔力が劇的に少ないんだよ、だから戦闘面で役に立つのが難しいんだ。なんとか戦士の剣士職で前線は張っているけど、限界迎えているんだよ」
「小僧、火継国の出身だろ、魔力少ないのは知っている」
「ひつぎ?…あぁ日出國ね、よくわかったね俺があの島出身なのが」
小竜は揚げバナナに伸ばした小さい手を引っ込めた。
羽をぱたぱた羽ばたかせ、座布団からゆっくりと浮上し、怒りを露にする方へ進む。
「俺の目的に支障きたしても困るなぁ…ふーん、良い機会だ小僧、俺様と戦え」
「何言ってんの?いやだよ!」
「稽古つけてやると言っている、もう一度魔道の神髄を見せてやる」
小竜は身体をもとの魂に近い形へと変貌させ、ハイジへと取り憑く。
「ちょっナーガ?!」
◆
リバの古代の街並み。
「またここか…ここって昔のリバなの?」
「俺の故郷を映したのだろうな、魂の世界なら現世に影響はないだろ」
あの人見た少年の姿。
今度は剣を抜いている状態だ。
「安心しろ羅刹は使わん」
「剣だけね…へぇ、すごいナメてるね」
「十分だ、こい」
(ナーガから仕掛ける気配がない、ならば)
腰に掛けた剣を抜き、魔力を身体中に巡らせる。
(《強化活性》…ナーガは相変わらず魔力の流れが読めないね)
強化魔法をかけた後、少年から刹那の魔力を感知。
その一瞬を合図代わりに、足先へ魔力を集中させ、地面を蹴る。
遠くない二人の距離を縮め、すかさず剣を振りぬく。
剣を振る腕には少なくない魔力を流し込み、太刀の威力を増幅させた。
ナーガは少しの動作、こちらの全力の太刀を受けた。
剣がぶつかり合い、澄んだ音が響いた。
雑念を掃う。
受けられたらまた、剣を浴びせるのみ。踏み込んでは引き、踏み込む。
ナーガは変わらず最小限の動作で受けた。受けては流し、逸らしては受ける。
(ペース配分間違えたな、魔力が心もとない…)
「宝の持ち腐れだな。火継の武人なら目でとらえず、魔に溺れず、一撃で仕留めるとされている」
「過去の話かい?あの島には古臭い頑固な鍛冶師しかいないよ」
それまで受けに徹したナーガ、突如反撃に出た。
こちらの剣に合わせて剣で受け流しつつ、その勢いを生かしたまま剣を吹き飛ばした。
「拾え」
「くっ」
背を向け、剣を拾う。
後ろから襲うようなことはしないだろう。
振り向き直せば、ナーガからは落胆の表情が感じられる。
「無駄が多いな小僧、いや現代の魔道の中でも出来た方だ。だがまだだ」
「これ以上の魔力効率とか、簡単に言ってくれる」
「お前は何に囚われている」
「何言っているのさ」
「誰の姿を追っている」
「?!」
黒き竜の豪砲、それらの業火、決して忘れないあの日。
そしてあの大きな背中。
「お前はソレではない、お前が進むべき魔道はそれではない」
「なっ」
「真面目にやれ、さもなくば、貴様の魂ごと、切るぞ」
刹那の魔力のゆらぎを感じた。
ナーガの剣は一瞬にして距離を縮め、喉元を貫かんとした。
剣筋に剣を置き、ナーガの剣が届かないように逸らした。
こちらに剣を振り下ろすために突きのために伸ばした剣をそのまま引いた。
三度、魔力のゆらぎ。
これまでの剣と比較できない殺意に塗れた大振りの剣が襲う。
これを受けては剣を砕かれ、肉を絶たれる。脚部に全力で魔力を流し、後方に飛び込み、剣を交わす。
(《強化活性》と似た魔法を使っているのは分かるが、流れが読めない、ナーガはどうやって素早く魔力を流しているんだ)
戦闘のさなか、ナーガを観察することをやめなかった。
神髄とは何かは分からないが、ナーガが一流だという事は嘘ではない。
ならば食らいつく。
ナーガから目を離さない俺を見て、ナーガは笑みをこぼす。
「クククその目だそれこそ武人の目………良いだろう助言をくれてやる、いうなれば魔はどこにでもある、血は心臓から供給されるが、血は全身にある」
ナーガの魔力、言葉、その生き様は今までの自分の積み重ねてきた点を、線へと繋いでくれた。
「現代を生きろよ小僧、過去はもう過ぎたことだ」
魔法とはイメージの世界。
魔力とは、心臓の下みぞおちのやや上に魔力貯臓器からの供給や全身への循環。
いや、魔力とは世界に満ちているもの。
魔力とは世界に全力で存在しているものだ。
「いい、それでいい」
ナーガから、これまでにない喜びを見られた。
「ありがとうナーガ、俺を否定してくれて…俺はまだ強くなれる」
「ゆくぞ小僧」
◆
目を覚ますと、最近よく見る白塗りの天井ではなく、良き友人とともに過ごしてきた見知った部屋の天井に加えてその友人たちの顔が映っている。
かの自称王は揚げバナナをまた貪りつくしている。
「はぁ…それそうとして、お前は弱いな、小僧」
「うるさい、いつか見てろよ」
剣を腰から外した。
「ゴードン、ラトナ、方針変更だ。出来れば前線を張れる人を探してほしい。下級生でも良いよ」
「そらぁ良いけどよぉハイジぃ…」
「失神明けですから無茶しないでハイジ君。それにどこに行くの?」
「あぁえっと、ちょっと技術部に!!」
あれほど億劫だった技術部への訪問は、久方振りに感じた高揚感、喘息前進で駆けていく。
「「何したのナーガぁ(様)」」
「いや切り刻んだだけだが」
「「やめてぇ(下さい)」」




