2話 そんな偉かったんかワレぇ…
「そいで、この空飛ぶトカゲ、えっとナーガぁだっけか、がラトナぁのご先祖と関わっているかもってことか?」
「そう、かも…?」
「無礼ぞ土豚、俺様を誰だと思ってやがる、この至天にして孤高なる、我がドラゴン姿をトカゲ風情と一緒にするなど」
「ほい、揚げバナナぁ」
「そんなもんで釣られる俺様ではな…なんだ、上手いぞこれ。おい土豚もっと寄越せ」
◆
遠征訓練も無事を終えて、特別に各訓練生には1日の休暇を与えられる。各位各々が休暇を楽しむ中、ゴードンと竜とともに教授の研究室に向かう。
「おいゴディ坊、もっと揚げバナナを俺様に寄越せ」
「それ高いんだぞぉナーガ、チマチマ食ってくれよぉ」
開拓者訓練団には、遠征訓練に参加していない若い連中のみが残っており、基礎的な訓練を受けているようだ。
「学びの場か…平和を享受しておるな」
「じじいくさい事いうね、ナーガ」
◆
教授の研究室に入る。
「教授戻りました、頼まれた観測もやってきました」
「おやおかえり、それはそれは助かるよ。どうじゃ現場で見て何か意見あるかい」
「魂を活用するなら、鎮魂祭のように儀式を用いて、そして専門職のえっと例えばシャーマンとかを精錬に組み込んだ良いかもですね。あの魂の活発化は今の技術じゃ再現難しいです。」
「ふむ…リバ・アガの連中を借り出すとしようかの」
「ああそれと教授、お聞きしたいことがあるのですが」
「はてはてなんじゃ」
◆
「ナーガとレネイ、久しい名を聞いた…当人はなんて言っておる」
「一部の記憶だけがあり、その他は無いそうです」
「欠けた魂か、ほれちっと待っておれい」
教授は研究室の奥に配置されている資料庫に向かった。足音から、随分と奥に閉まっている資料をお探しのようだ。
教授の手には、鉄鎖で結ばれている分厚い本を置いた。まるで二度と開けてはいけない、その厳重さから伝わる。
「遠い昔の話じゃ、今の若い世代には固く禁じられている故に知るものは少ない」
「えっそれ僕は聞いていい話ですか?」
「賢人の責務は知を後世に残すこと。何を残すかはワシらが決められるのじゃ、少し時間がかかるが話すとしよう」
教授は杖を用いて、茶器一式を動かす魔法をかけ、ティータイムの準備をした。
(賢人って自由だな…)
◆
リバ島の民はかつて、ワジャ大陸からの移民だった。
移民を率いる後に、「始まりの王」と呼ばれる者は、ワジャ大陸からリバまで民を率いて大移動を行った。
古代から神々の島と呼ばれるリバにて、神々からの神託を受け、始まりの王はリバの黄金を授かった。
黄金の力は偉大で、民を統一させ、平和の楽園を築いたのだ。
王の死に伴い、リバの黄金は力を失い、7つに分割されてしまった。
王の死後、猛者たちがリバ各地に散らばり、国を築いてきた。
奇しくも、始まりの王の願いに反して、リバ島では黄金を巡り戦国の世が数百年続く。
7つの黄金はその時代のもっとも偉大な七王に授かる。
「ここまでは誰もが知る歴史の話じゃ、ナーガという名は、この大陸を唯一統一した覇王の名じゃ」
「…覇王」
「ここからの話は禁忌じゃ、ゆえに他言無用で頼むぞい」
◆
始まりの王の死後500年ほど、リバ大陸は戦乱の世となっている。
国が興っては国が滅び、民族が栄えては民族が滅びる。
永遠に終わらない悪鬼羅刹、戦いの修羅が蔓延る世となっている。
リバ大陸西部、現代のウェスト・ドラガンが支配している土地にて、
小さな国家、『マンダラ王国』があった。
マンダラ王国は小国ながらも、類まれな戦闘力を保有し、他国の侵略を退け続けた。
マンダラ王国は自国の繁栄にのみ集中し、戦乱の世の覇権争いには参加しなかった。
マンダラ王国には、優秀な跡継ぎが居た。
若干15歳にして、『剣聖』と呼ばれる王子が居た。
名は、アナアグン・ワヤン・ナーガ・マンダラ。
後に、『覇王ラージャ・ナーガ』と呼ばれる男。
「ラージャ、ナーガ…覇王ですか」
「ナーガという名は今じゃ禁忌の名じゃ。名付けにも許されぬ、そういう呪いが残されている」
またマンダラ王国には「始まりの王」から続く、西方襲来に対する古代の守り手としての責務があった。
各国も、大陸の守護を担うマンダラ王国に手を出さずにいた。
マンダラ王国は、大陸の管理者リバ・アガとは深い関係を築いていた。
結びつきを強化する目的で、マンダラ王国の王子はリバ・アガの巫女と婚姻関係を結んだ。
巫女の名は、イダアユ・カヤン・レネイ・シア。
後にラージャ・ナーガの妃となる方だ。
また、彼女の死が、大陸の未来を決定づけた瞬間と現代では評価されている。
「レネイ…ナーガがラトナを見て、口にした名前ですね。それにレネイって、神職層の官職名ですよね」
「そうじゃ、その名は、ナーガと異なり、現代に至るまで残ったのじゃ」
マンダラ前王は生前退位をし、ナーガへ王位継承。戴冠とともにレネイと結ばれる。
それらに伴い、マンダラ王国はリバ・アガとは同盟国となった。前王と同様の施策を執り、リバ大陸の守りに徹したナーガ王。
「ここまで聞いて、特に問題のある人物だとは思えませんが…」
「止められなかったのじゃ、どうしてもあの人を見ると」
「始まりの王」死後から500年、節目の年であり、例年と比べ大規模な鎮魂祭がリバ・アガで執り行われた。
大陸各国の王たちが集い、御霊祭が行われた。
事件が起きた。
儀式の途中、レネイが突然死。
またマンダラ前王やその他、マンダラ王国の関連者やリバ・アガの神職たちも死んだ。
神殿は騒ぎに包まれた。
これを機に、ナーガ王は怒り、狂い始め、覇道を歩まんとする。
リバの覇権争いに沈黙を貫いたマンダラ王国は剣を抜いた。
東へ東へと、大陸を蹂躙し始め、数年以内に、始まりの王を除き数百年の間に誰もが成し遂げる事が出来なかった大陸を制覇した。
始まりの王と同じく、リバ大陸を制覇したものには、7つの黄金が集いリバの黄金となり、黄金は覇者へ授かれる。
栄えるも滅びるもその黄金を持ってすれば容易い事。
覇道の末にナーガが成し遂げたかった事、そしてナーガ王は宣言した。
《 我は覇王なり、全軍、魔大陸へ進軍せよ 》
「…ナーガ王のその後は?」
「魔大陸にて全滅、と記録されておるな。死後、マンダラ王国関連は禁忌として扱われ、後世には名すら残さないと、リバ大陸が決めたのじゃ」
「…500年後に、なぜナーガが蘇ったのでしょうか」
「死者蘇生なんぞは実現しておらぬし、かの魂がナーガとも断定できん。ただ、お主、そしてラトナ姫とともに、くれぐれも気を付けるのじゃぞ」
「ええ」
◆
上級訓練団員に上がった際に、を組むことが求められ、集団行動経験を蓄積する。
上級訓練課程では部隊単位での訓練や、下級訓練課程への助力参加も義務付けられている。
どのような組み合わせか各隊が独自に決められる。
バランスの取れた戦士、術師、僧侶、後方官の隊もいれば、戦士4名、技術者4名などの尖った部隊もある。
ハイジ隊の構成員は3名、魔力無し戦士、王族僧侶、誇り高きドハーフ職人といういびつな構成だ。
魔力無しの自分がネックとなっており、組む相手が見つからないのが最大の理由で、問題児が集まっただ。
一定の成績を収めた上位部隊には隊個別部屋が与えられる。
ハイジ隊は戦闘面において目立った成績を残せていないが、技術面や下級生指導、訓練機関の運営において一定の評価を獲得している。
そのハイジ隊の隊室。
「過去の記憶は何故か思い出せん、思い出そうとするとその場面が突然黒塗りにされ見られないといった所だ。そういう制限が掛かっているだろう。
ただ、500年彷徨い続けレネイを探している、これだけだ、覚えているのは。俺様に過去の事聞いても答えられんぞ」
「ナーガぁ、そんなぁお偉いさんなんかよぉ、失礼かましているオイラぁ処刑されちゃうよぉハイジぃ…」
「俺様の偉大さに恐れおののいたか、殊勝である」
「ナーガが歴史上のナーガ王とは決まっていないでしょう…こんな小トカゲがさ」
「小僧、もう一度切り刻もうか」
「レネイ様の直接の子孫はいないと、村でもそう言い伝えられています。嫁ぎに出てからご子息は居ないはずです。
それに私の血筋は、レネイ様とは違う系譜を辿っていると聞いていますが」
教授曰く、ナーガの血は断絶したとされている。
「俺様が間違えるはずがない。娘にはレネイの魂を感じた。
この500年、彷徨い探し続けたが、一向に見つけられなかった。この俺がレネイの魂を間違える訳がない」
3者困惑しながらも、ナーガの言葉には耳を傾ける。
「まぁでもよぉ~小竜が人間の言葉を喋るのも変だしぃ、あながち嘘でもねぇんじゃねーか?」
「ナーガ様の魂がハイジ君に憑依したことも事実ですし…」
「ナーガの強さ、あれは紛れもない強さだし…」
「「「うーん」」」
「今、娘からレネイの魂が感じられない理由は分からんが…500年でやっとつかんだ道筋だ。これを逃す気はない。餓鬼ども、俺様に手を貸せ」
「「「えぇ…」」」




