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ep Radja Naga 4


 黒竜に跨り、戦場を駆け抜けた。


 中央からの侵攻――マンダラの地を侵略せし者たち。

 始まりの王の死から五百年が経った今も、この大地に平和は訪れない。

 いずれの国も黄金の玉座を求め、覇を競い続けていた。


 我らマンダラはただ、西の白き死からリバの大地を守りたいだけだ。

 なぜ同胞同士で剣を交えねばならない。


「……」


 思いは馳せども、届くことはない。


 戦場に響くのは、戦士たちの怒号。


「殺すぞ!」

「やっちまえ!」

「西の蛮族が!」

「なんだと!」


「……バハ、焼け(バカール)


 黒竜が空から黒炎を吐き出し、敵を焼き尽くす。

 その直後、少年の面影を残した剣士が、竜の背から飛び降りた。


「……おい、来やがったぞ!」

「ひけ、引けぇええ!」

「いや、こっちの方が数は多い、押せ!」


 剣を抜く。


 鞘を放り、空いた左手で印を結ぶ。

 魔力が揺らぐ。


「……《羅刹(ラクシャ)》」


 左手で敵をなぞる。


「な――」

「ぐっ……!」

「がっ……!」


 一閃。

 前面にいた敵の胴体が、上下に断たれた。


「マンダラ軍、押し込むぞ!」

「ナーガ王子に続け!」

「「「おお!」」」


 十五の歳となり、マンダラ王の命により東方からの侵攻を食い止める役目を与えられた。

 リバ中央の国家群、さらには境を接するアバド皇国との戦いに明け暮れる日々。


 五年前、氷の大地で初めて人を斬ってから――今に至るまで。

 どれほどの同胞を斬り捨ててきたのか。


 魔法に目覚め、その力は飛躍的に増した。


 この手で、どれだけの屍を積み上げてきたのか。

 血に染まったこの手で、あの優しく細い髪に触れてもいいのだろうか。


 剣を持たねば、あの笑顔は守れない。

 剣を持てば、あの人との距離は遠ざかる。


 魔力が揺らぐ。大地を蹴り、黒竜へと飛び乗った。


 戦場は、平定された。


 剣を掲げ、叫ぶ。


「我らの地に、二度と踏み入れるな!」


 西部から歓声が沸き上がった。



「ヴァスキ王、ナーガ一同、ただいま帰還いたしました」

「大義であった」


 宮殿では、ナーガ率いる戦士団の戦勝式と論功行賞が執り行われた。


 王の宰相にして、幼少期の指南役であった老将(爺や)が口を開く。


「この五年、無敗の剣聖ナーガ王子。貴殿の奮闘により、我らマンダラの地は守られ続けた。陛下もお認めであらせられる。よってこれを賞し――」


 言葉は続くが、形式に過ぎない。


 やがて、王が問う。


「何か望みはあるか?」


 本来ならば、


「いいえ、ございませぬ。すべて陛下の御心のままに」


 と辞退するのが作法である。

 無欲と忠誠を示し、その後に王が褒美を下す――それが伝統だった。


「長き戦いを成し遂げたお前に、我らの約定を果たそう」


「はっ」


「マンダラ王国、ヴァスキ王の名において宣ずる。

 次期王の地位をナーガに譲り、さらにナーガと、リバの管理者たるリバ・アガ筆頭巫女レネイ・シアとの婚姻をここに定める」


「……王の、地位を」


 無形の衝撃が宮殿の間を駆け巡った。


 中立を守り続けてきたマンダラ王の生前退位。

 それも、わずか十五の王子へと譲るという決断。


 そして、古より続くリバ・アガの筆頭巫女との婚姻。


 リバの黄金は、今ひとつ空席となっている。

 西方で勢力を拡大しつつある今、剣聖を頂点に据えるという王の思惑。


「重荷か、我が息子よ」


 父の顔を見上げる。

 そこにあったのは野心ではなく、親としての想いだった。


 思わず、笑みがこぼれる。


「ヴァスキ王、望外の栄誉にございます。身の引き締まる思いです」


「後は任せたぞ」


 式典は幕を閉じた。

 それは確かに、未来へと踏み出す一歩だった。


 思い浮かべるは、白く細い指先、真っ直ぐに伸びた艶のある黒髪、そして笑うと細まる優しい目。幼少から見続けたあの純白の巫女。


「君に会いたい」


ずっと書きたかった世界をこうして形に出来ただけで自分は嬉しかったのですが、まさか初投稿作品がもうすぐPV500行くとは思いませんでした。読んでくださってありがとうございます。


引き続きナーガの物語を書き上げますので、少々お待ちください。

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