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23話 剣聖と魔力無し


 一つ、それは《破壊》の力。それは、暴力を突き詰めた魔法の力。

 二つ、それは《崩壊》の力。それは、絶えず自壊を促す魔法の力。

 三つ、それは《剛力》の力。それは、力のみで圧し潰す魔法の力。

 四つ、それは《爆噴》の力。それは、限界の先で爆ぜる魔法の力。

 五つ、それは《神速》の力。それは、最果てに届かせる魔法の力。

 六つ、それは《反魔》の力。それは、世界をも否定する魔法の力。

 七つ、それは《最大》の力。それは、至天の座をつかむ魔法の力。


 そして、八つ。


 それは黄金に輝きしき、リバの奇跡。

 それは、あらゆる奇跡を起こす、真の継承者でこそその神髄を発揮させる。


「《八重・付与》」


 魔力の躍動。


 黄金にを纏いし、七色の魔力。

 それは天を貫く、王者の神槍。


「……《付与の(エンチャント・)(ジャヴェリン)》」


 黄金を纏いし、七色の魔力は、氷獄で君臨している黒竜へと飛翔していった。



 八つの光が黒竜に直撃。

 黒竜は雄叫びを上げた。


あの人(王者)は本当、前線に出ないで欲しいよねったく」


 左手で手刀の掌印を結ぶ。

 そして右手は黄金の鍵を握ったまま、掌印を結ぶ。


 黄金の魔力、それは奇跡を超えた神の力。

 リバを守る、奇跡の力。


「…君もこうやって、同じ魔法を使ったのかな、ナーガ」


 魂の奥底に思う浮かぶは、古代のリバの家屋に、剣を握る褐色肌の青年。


 魔力の神髄を魂で何度も掴んできた。

 魔法とはイメージの力。


 魔法の剣を生成し、そして切り刻む魔法。

 掌印と、詠唱を省略しない、完全発動の魔法。


 全てを載せた、魂の魔法。

 刹那の魔力の揺らぎ。


「《羅刹の雛鳥(ラクシャ・シスパクシ)》……《マキシマ》」


 イメージするのは、氷獄での、剣聖が見せた魔法。

 無限の魔法の剣が上空に浮かんだ。

 魔法の剣は、黄金の魔力で包まれていた。


 そして無限の剣は、黒竜を絶え間なく切り刻んだ。


「…まだだ」


 あの日の剣聖は、もう一つ、羅刹の可能性を見せた。

 無限の剣の後に繰り出された、紅蓮の羅刹。


 刹那の魔力の揺らぎ。

 それは、かつて小竜が見せた、羅刹の真髄。

「確か…こうだよね、《羅刹の(ラクシャ・)赫翼(ラクタ・パクシャ)》」


 一振りの巨大な羅刹の剣、それは紅蓮の魔力を帯びた。

 紅蓮の剣は、黒竜へと落とされた。


 黒竜を切り刻んだ後に、その役割を終えた砕け散った無限の剣の残滓。残滓は黒竜の周りに充満。

 紅蓮の剣の火炎が剣の残滓に伝播していき、全てを焼き尽くす爆炎へと転移していった。


 氷の大地には爆炎と断末魔が轟く。


 そして、黄金の鍵は砕け散った。



「ヤバイヤバイ!」

「タイチョーやりすぎですって!!」

「お前ら全魔力を防御に回せ!黒竜を囲め、漏らすなよ!俺らまで死ぬぞ!」

「「「オッス!」」」



 爆炎が消え、黒く焼け尽くされた巨躯の塊へと駆けていく。

 よく知っている魔力、魂の残滓が目の前だ。


 思い出せ、魂を掴むあの感覚。


 手には魔力が集う。


 氷の大地を強く蹴り、飛翔し、その魂を掴んだ。


 そして世界は反転する。



(これは…)


 東部ワジャの都市、バスルバヤの歓楽街。

 マンティアン人が夜の誘いに乗り、夜闇へと消えて去った。


 銀がかった髪に、白い肌の幼児を抱く、良く焼けた肌の女性、その親御は同じ目の色をしていた。


 銀髪の少年は、同胞から石を投げ込まれ、赤い血を流した。少年は泣く事は無かった。


 僅かな明かりの中、良く焼けた肌の女性に抱擁され、微睡ながら、英雄譚を聞かせられていた。


 少年はやがて青年となり、反対を押し切り、戦いの道へと進んだ。


 青年は、魔法の剣を振り抜こうとした。

 しかし、同胞の涙の訴えで、振り抜けずにいた。

 青年は叫び、剣を振り抜いた。

 血にまみれた両手を見ては、眼の光を曇らせた。


 白い鎧を纏いし姿を女性に見せた、女性は誇らしさではなく、恐怖の眼で青年を見つめた。


 青年は大軍を率いて、東へと進軍した。


「これは…君の」


 背後には白い肌の銀髪の少年がいた。


「…どうすれば良かったのだろうな」


 目の前には、ワジャの民やリバの民と共に、マンティアン王国軍と戦う白い騎士。


 少年は首を振った。


「俺は…君を忘れない、白い騎士」


「…ふん」


 少年は光の塵へと化していった。


 そして再び世界は反転する。



「ハイジタイチョー、なんか光になったと思ったら消えたけど…」

「タイチョー…死んだか」

「おいおいあのタイチョーが簡単に死ぬかよ!」



 見渡せば、古代リバの風景。

 草木、華に覆われた玉座、そして鎮座する焼けた肌の少年。


「元気?」

「第一声はそれか…500年よりかは短い、夢の中だ、問題はない」


 少年は立ち上がり、剣を握った。


「黄金を使わないのか小僧」

「使わないよ、使わずして、今度こそ勝って見せるさ」


 少年は不適に笑った。


 両者、左手で手刀型の掌印を結ぶ。

 刹那の魔力の揺らぎ。


「「《羅刹(ラクシャ)》」」


 両者の間で、魔法の剣がぶつかり合い、砕け散った。


 刹那の魔力の揺らぎ。

 全身へ魔力を流し込み、肉体活性を促進する強化魔法。現代の戦闘での基礎魔法。

 両者は足先へ魔力を集中させ、地面を蹴る。

 遠くない二人の距離を縮め、剣を振りぬく。


 剣を振る腕には少なくない魔力を流し込み、太刀の威力を増幅させた。

 剣がぶつかり合い、澄んだ音が響いた。


 剣を受けられたらまた、剣を浴びせるのみ。踏み込んでは引き、踏み込む。

 受けては流し、逸らしては受ける。


「多少は剣の腕は上げたようだな」

「…君は王である前に、剣聖だったね」


 剣を受けては弾き、距離を取ったその隙を逃さない両者は、己の魔力を刹那に揺らす。

 掌印も詠唱もない。

 再び、魔法の剣がぶつかり合い、砕け散った。


「少し魔力を上げたか小僧?」

「この3年で多少はね」


 両者、魔法を込めた剣を一閃振り抜いた。

 ぶつかる剣は、砕け散った。


 両者距離を取り、すかさず両手で掌印を結んだ。

 両者左手は同じ掌印を結んだ。

 しかし、右はそれぞれ異なる掌印を結んだ。


 刹那の魔力の揺らぎ。

 左手は人差し指と中指による手刀の印。

 右手は拳を握っているが、人差し指だけは少し突き出した。

「《羅刹の雛鳥(ラクシャ・シスパクシ)》」

 少年の上空には無数の剣が顕現。


 ここは魂の世界。

 あるとイメージすれば、それは最初からそこに存在する。

 七つの剣が地面に突き刺さっていた。


 刹那の魔力の揺らぎ

 左手は人差し指と中指による手刀の印。

 右手は同じ手刀の印、それを右の印と交差させた。

「《羅刹の(ラクシャ・)剣舞(ナティヤ・サストラ)》」 七つの剣は宙を舞った。


 魔法の剣が、絶え間なく飛翔し、切り刻もうとした。

 七つの剣が、宙で舞い、魔法の剣を撃ち落していった。


 やがて剣は両者の中間地点で砕け散った。


 刹那の魔力の揺らぎ。

 左手は人差し指と中指による手刀の印。

 右手は指を広げ、逆位置で手刀に添えた。

「「《羅刹の(ラクシャ・)赫翼(ラクタ・パクシャ)》」」


 魔力の残滓や、羅刹の魔力を帯びた鉄の粉塵に火炎が伝播していき、全てを焼き尽くす爆炎へと転移していった。


 やがて爆炎は消え去った。


「ほう…赫翼(ラクタ・パクシャ)までも身に着けたか」

「まぁ一応見せてもらったからね、自分なりに再現してみたさ」


 少年は剣を再び握り、距離を縮めようとした。


 匣を投げ、魔力を送った。

「《茨の抱擁(ドーネンユングフラウ)》《起動》」


 匣から茨が湧き出て、少年へと襲い掛かった。

 少年は茨を、切り刻んだ。


 銀の弾丸を飛炎砲に装填。

 そして飛炎砲へ魔力を流し込む。

「魔力圧縮弾装填…《神の投擲槍(ブラフマン)》」

 一閃、少年へと光の弾丸が襲来。


 刹那の魔力の揺らぎ。

 少年は両手で掌印を結んだ。

 左手は人差し指と中指による手刀の印。

 右手は同じ手刀の印、それを右の印と交差させた。

「こうだったな…《羅刹の(ラクシャ・)剣舞(ナティヤ・サストラ)》」

 宙を舞う実体の剣は、光の弾丸を切り落とした。


「…やってくれるね」

「小僧に出来て、俺様に出来ない訳が無かろう」


「ナーガはやっぱ強いね」

「…良い機会だ、俺の魔道の神髄を見せてやる、構えろよ」


 少年の頭上に光が集約した。


「ちょそれはやり過ぎじゃない?!」

「くくく…お前も出来るだろ、出来なければ魂ごと消えるだけだ」


 黄金の鍵を形成し、それを掴む。

 頭上に光が集約した。


「「《終焉(テラ・アクヒル)》」」


 全てを破壊する光が、両者によって放たれた。



『あらあら…あの人はなんて楽しそうなの、うふふ』

「ハイジ君ったら、はしゃぎ過ぎちゃって、黄金になにかあったら、ムルジャおじ様に怒られちゃうよ…」

 

 高原一面を見渡せれば、原初の暮らしを営んでいる、古き良き生活を送っている村人。そして、苔がむす、古代リバの寺院に守れた墓標。

 湖の水面に映るは、氷獄の風景。

 そして古代リバの建物に、二人の男。



「…最後だ小僧、構えろ」

「…」


 魔力を揺らがせ、地を蹴り、剣を振り抜いてはぶつける。

 澄んだ音だけが、この場で響いていた。


 この時間がいつまでも続けば良いのに。


 絶え間の剣戟に耐えられず、剣は砕け散った。


 両者左手で掌印を結んだ。


「「《羅刹(ラクシャ)》」」


 剣はぶつかる事は無かった。


「…?!」


 ナーガの羅刹の方が速度に勝っており、今に身体を切り刻もうとした。

 しかし、その羅刹は切り刻む事無く、すり抜けていった。


 そして、もう一つの羅刹が、ナーガに直撃し、貫いた。


「これは、レネイの魔法か」

「…《虚化》だよ」


 その空洞を埋めるように、魔力が繋ぎ止めた。


「レネイの魔法か……なぜ泣く、小僧の勝ちぞ」

「おれ…もっと、ナーガにさ、教えて貰い、たいしさ…また4人で、冒険とか、してみたいしさ…これで、終わりなんて、さ」


「…西を冒険したか、小僧」

「西…?ああ勿論いったよ」

「そうか…俺様は結局、辿り着けなかったな」


「リバ大陸にはな、原初の守り神、旧神、妖精の楽園や霊峰アグンの主、お前はまだ会ってないだろ」

「…」


「北には、お前の故郷、火の国があるそうだ、綺麗な桃色の花を咲かす国と聞いた」

「故郷…火の国…」


「西に行けば鉄の竜が地を這うと聞いたな、南に行けば氷獄と比べものにならない、氷の大地があるらしい。


 お前は、俺様が辿り着けなかった場所に辿り着いた。

 お前はまだ先に進める。お前はまだ見ていない世界がある。

 お前は、強い、お前がなりたかったものに、きっと成れる。


 進め、俺が進めなかった分まで」


「…分かった」


「これで最後だ、さらばだ小僧」

「さようなら、ナーガ」


 少年は小竜へと姿を変え、そして光の塵となっていった。


『…ああ、ゴディ坊の揚げバナナを最後に食べたかった事が、心残りだ』


 光の塵は、ひとつ残らず、空へと飛翔した。


「最後の言葉がそれって、ははは…それくらい、いくらでも添えてやるよ」


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