23話 剣聖と魔力無し
一つ、それは《破壊》の力。それは、暴力を突き詰めた魔法の力。
二つ、それは《崩壊》の力。それは、絶えず自壊を促す魔法の力。
三つ、それは《剛力》の力。それは、力のみで圧し潰す魔法の力。
四つ、それは《爆噴》の力。それは、限界の先で爆ぜる魔法の力。
五つ、それは《神速》の力。それは、最果てに届かせる魔法の力。
六つ、それは《反魔》の力。それは、世界をも否定する魔法の力。
七つ、それは《最大》の力。それは、至天の座をつかむ魔法の力。
そして、八つ。
それは黄金に輝きしき、リバの奇跡。
それは、あらゆる奇跡を起こす、真の継承者でこそその神髄を発揮させる。
「《八重・付与》」
魔力の躍動。
黄金にを纏いし、七色の魔力。
それは天を貫く、王者の神槍。
「……《付与の槍》」
黄金を纏いし、七色の魔力は、氷獄で君臨している黒竜へと飛翔していった。
◆
八つの光が黒竜に直撃。
黒竜は雄叫びを上げた。
「あの人は本当、前線に出ないで欲しいよねったく」
左手で手刀の掌印を結ぶ。
そして右手は黄金の鍵を握ったまま、掌印を結ぶ。
黄金の魔力、それは奇跡を超えた神の力。
リバを守る、奇跡の力。
「…君もこうやって、同じ魔法を使ったのかな、ナーガ」
魂の奥底に思う浮かぶは、古代のリバの家屋に、剣を握る褐色肌の青年。
魔力の神髄を魂で何度も掴んできた。
魔法とはイメージの力。
魔法の剣を生成し、そして切り刻む魔法。
掌印と、詠唱を省略しない、完全発動の魔法。
全てを載せた、魂の魔法。
刹那の魔力の揺らぎ。
「《羅刹の雛鳥》……《マキシマ》」
イメージするのは、氷獄での、剣聖が見せた魔法。
無限の魔法の剣が上空に浮かんだ。
魔法の剣は、黄金の魔力で包まれていた。
そして無限の剣は、黒竜を絶え間なく切り刻んだ。
「…まだだ」
あの日の剣聖は、もう一つ、羅刹の可能性を見せた。
無限の剣の後に繰り出された、紅蓮の羅刹。
刹那の魔力の揺らぎ。
それは、かつて小竜が見せた、羅刹の真髄。
「確か…こうだよね、《羅刹の赫翼》」
一振りの巨大な羅刹の剣、それは紅蓮の魔力を帯びた。
紅蓮の剣は、黒竜へと落とされた。
黒竜を切り刻んだ後に、その役割を終えた砕け散った無限の剣の残滓。残滓は黒竜の周りに充満。
紅蓮の剣の火炎が剣の残滓に伝播していき、全てを焼き尽くす爆炎へと転移していった。
氷の大地には爆炎と断末魔が轟く。
そして、黄金の鍵は砕け散った。
◆
「ヤバイヤバイ!」
「タイチョーやりすぎですって!!」
「お前ら全魔力を防御に回せ!黒竜を囲め、漏らすなよ!俺らまで死ぬぞ!」
「「「オッス!」」」
◆
爆炎が消え、黒く焼け尽くされた巨躯の塊へと駆けていく。
よく知っている魔力、魂の残滓が目の前だ。
思い出せ、魂を掴むあの感覚。
手には魔力が集う。
氷の大地を強く蹴り、飛翔し、その魂を掴んだ。
そして世界は反転する。
◆
(これは…)
東部ワジャの都市、バスルバヤの歓楽街。
マンティアン人が夜の誘いに乗り、夜闇へと消えて去った。
銀がかった髪に、白い肌の幼児を抱く、良く焼けた肌の女性、その親御は同じ目の色をしていた。
銀髪の少年は、同胞から石を投げ込まれ、赤い血を流した。少年は泣く事は無かった。
僅かな明かりの中、良く焼けた肌の女性に抱擁され、微睡ながら、英雄譚を聞かせられていた。
少年はやがて青年となり、反対を押し切り、戦いの道へと進んだ。
青年は、魔法の剣を振り抜こうとした。
しかし、同胞の涙の訴えで、振り抜けずにいた。
青年は叫び、剣を振り抜いた。
血にまみれた両手を見ては、眼の光を曇らせた。
白い鎧を纏いし姿を女性に見せた、女性は誇らしさではなく、恐怖の眼で青年を見つめた。
青年は大軍を率いて、東へと進軍した。
「これは…君の」
背後には白い肌の銀髪の少年がいた。
「…どうすれば良かったのだろうな」
目の前には、ワジャの民やリバの民と共に、マンティアン王国軍と戦う白い騎士。
少年は首を振った。
「俺は…君を忘れない、白い騎士」
「…ふん」
少年は光の塵へと化していった。
そして再び世界は反転する。
◆
「ハイジタイチョー、なんか光になったと思ったら消えたけど…」
「タイチョー…死んだか」
「おいおいあのタイチョーが簡単に死ぬかよ!」
◆
見渡せば、古代リバの風景。
草木、華に覆われた玉座、そして鎮座する焼けた肌の少年。
「元気?」
「第一声はそれか…500年よりかは短い、夢の中だ、問題はない」
少年は立ち上がり、剣を握った。
「黄金を使わないのか小僧」
「使わないよ、使わずして、今度こそ勝って見せるさ」
少年は不適に笑った。
両者、左手で手刀型の掌印を結ぶ。
刹那の魔力の揺らぎ。
「「《羅刹》」」
両者の間で、魔法の剣がぶつかり合い、砕け散った。
刹那の魔力の揺らぎ。
全身へ魔力を流し込み、肉体活性を促進する強化魔法。現代の戦闘での基礎魔法。
両者は足先へ魔力を集中させ、地面を蹴る。
遠くない二人の距離を縮め、剣を振りぬく。
剣を振る腕には少なくない魔力を流し込み、太刀の威力を増幅させた。
剣がぶつかり合い、澄んだ音が響いた。
剣を受けられたらまた、剣を浴びせるのみ。踏み込んでは引き、踏み込む。
受けては流し、逸らしては受ける。
「多少は剣の腕は上げたようだな」
「…君は王である前に、剣聖だったね」
剣を受けては弾き、距離を取ったその隙を逃さない両者は、己の魔力を刹那に揺らす。
掌印も詠唱もない。
再び、魔法の剣がぶつかり合い、砕け散った。
「少し魔力を上げたか小僧?」
「この3年で多少はね」
両者、魔法を込めた剣を一閃振り抜いた。
ぶつかる剣は、砕け散った。
両者距離を取り、すかさず両手で掌印を結んだ。
両者左手は同じ掌印を結んだ。
しかし、右はそれぞれ異なる掌印を結んだ。
刹那の魔力の揺らぎ。
左手は人差し指と中指による手刀の印。
右手は拳を握っているが、人差し指だけは少し突き出した。
「《羅刹の雛鳥》」
少年の上空には無数の剣が顕現。
ここは魂の世界。
あるとイメージすれば、それは最初からそこに存在する。
七つの剣が地面に突き刺さっていた。
刹那の魔力の揺らぎ
左手は人差し指と中指による手刀の印。
右手は同じ手刀の印、それを右の印と交差させた。
「《羅刹の剣舞》」 七つの剣は宙を舞った。
魔法の剣が、絶え間なく飛翔し、切り刻もうとした。
七つの剣が、宙で舞い、魔法の剣を撃ち落していった。
やがて剣は両者の中間地点で砕け散った。
刹那の魔力の揺らぎ。
左手は人差し指と中指による手刀の印。
右手は指を広げ、逆位置で手刀に添えた。
「「《羅刹の赫翼》」」
魔力の残滓や、羅刹の魔力を帯びた鉄の粉塵に火炎が伝播していき、全てを焼き尽くす爆炎へと転移していった。
やがて爆炎は消え去った。
「ほう…赫翼までも身に着けたか」
「まぁ一応見せてもらったからね、自分なりに再現してみたさ」
少年は剣を再び握り、距離を縮めようとした。
匣を投げ、魔力を送った。
「《茨の抱擁》《起動》」
匣から茨が湧き出て、少年へと襲い掛かった。
少年は茨を、切り刻んだ。
銀の弾丸を飛炎砲に装填。
そして飛炎砲へ魔力を流し込む。
「魔力圧縮弾装填…《神の投擲槍》」
一閃、少年へと光の弾丸が襲来。
刹那の魔力の揺らぎ。
少年は両手で掌印を結んだ。
左手は人差し指と中指による手刀の印。
右手は同じ手刀の印、それを右の印と交差させた。
「こうだったな…《羅刹の剣舞》」
宙を舞う実体の剣は、光の弾丸を切り落とした。
「…やってくれるね」
「小僧に出来て、俺様に出来ない訳が無かろう」
「ナーガはやっぱ強いね」
「…良い機会だ、俺の魔道の神髄を見せてやる、構えろよ」
少年の頭上に光が集約した。
「ちょそれはやり過ぎじゃない?!」
「くくく…お前も出来るだろ、出来なければ魂ごと消えるだけだ」
黄金の鍵を形成し、それを掴む。
頭上に光が集約した。
「「《終焉》」」
全てを破壊する光が、両者によって放たれた。
◆
『あらあら…あの人はなんて楽しそうなの、うふふ』
「ハイジ君ったら、はしゃぎ過ぎちゃって、黄金になにかあったら、ムルジャおじ様に怒られちゃうよ…」
高原一面を見渡せれば、原初の暮らしを営んでいる、古き良き生活を送っている村人。そして、苔がむす、古代リバの寺院に守れた墓標。
湖の水面に映るは、氷獄の風景。
そして古代リバの建物に、二人の男。
◆
「…最後だ小僧、構えろ」
「…」
魔力を揺らがせ、地を蹴り、剣を振り抜いてはぶつける。
澄んだ音だけが、この場で響いていた。
この時間がいつまでも続けば良いのに。
絶え間の剣戟に耐えられず、剣は砕け散った。
両者左手で掌印を結んだ。
「「《羅刹》」」
剣はぶつかる事は無かった。
「…?!」
ナーガの羅刹の方が速度に勝っており、今に身体を切り刻もうとした。
しかし、その羅刹は切り刻む事無く、すり抜けていった。
そして、もう一つの羅刹が、ナーガに直撃し、貫いた。
「これは、レネイの魔法か」
「…《虚化》だよ」
その空洞を埋めるように、魔力が繋ぎ止めた。
「レネイの魔法か……なぜ泣く、小僧の勝ちぞ」
「おれ…もっと、ナーガにさ、教えて貰い、たいしさ…また4人で、冒険とか、してみたいしさ…これで、終わりなんて、さ」
「…西を冒険したか、小僧」
「西…?ああ勿論いったよ」
「そうか…俺様は結局、辿り着けなかったな」
「リバ大陸にはな、原初の守り神、旧神、妖精の楽園や霊峰アグンの主、お前はまだ会ってないだろ」
「…」
「北には、お前の故郷、火の国があるそうだ、綺麗な桃色の花を咲かす国と聞いた」
「故郷…火の国…」
「西に行けば鉄の竜が地を這うと聞いたな、南に行けば氷獄と比べものにならない、氷の大地があるらしい。
お前は、俺様が辿り着けなかった場所に辿り着いた。
お前はまだ先に進める。お前はまだ見ていない世界がある。
お前は、強い、お前がなりたかったものに、きっと成れる。
進め、俺が進めなかった分まで」
「…分かった」
「これで最後だ、さらばだ小僧」
「さようなら、ナーガ」
少年は小竜へと姿を変え、そして光の塵となっていった。
『…ああ、ゴディ坊の揚げバナナを最後に食べたかった事が、心残りだ』
光の塵は、ひとつ残らず、空へと飛翔した。
「最後の言葉がそれって、ははは…それくらい、いくらでも添えてやるよ」




