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22話 竜とは


 2年ほど時を遡る。


 ワジャ中部、旧ヨグヤカルタ王国宮殿、現中部ワジャ総督府。


「はじめましてだ東の商人、我は中部ワジャ総督、ヨグヤカルタのスルターンのガジャマダだ」


 ワジャ伝統の衣装を纏いし、そして豪勢な魔鉱石を加工した装飾品で全身を包む老齢の男性。

 男性はオラニエ語ではなく、ワジャ現地語を使用していた。


「…改めまして、東の商人代表、及びリバ大陸代表団の兵士長のハイジ・トヨウチでございます。ガジャマダ陛下、この度、謁見の機会を賜り、誠にありがとうございます」


「ワジャの王族がなぜ、マンティアン王国の手先になっているか、そう顔に書いておるな」

「あっいえ、ご無礼、失礼しました」


 1000年前、マンティアン王国がワジャ侵攻を開始し、いくつもの王国や民族が滅ぼされた。しかし、500年間唯一マンティアン王国に抗い続けた国と地区があった。それがヨグヤカルタ王国と、東の都市バスルバヤだ。


 そして500年前、二国はリバ大陸の覇者と手を組み、マンティアン王国に抵抗した。しかし虚しくもマンティアン王国には勝てず、リバの覇王は死に、ついにはヨグヤカルタ王国とバスルバヤはマンティアン王国に下った。


 マンティアン王国は、中部以東ワジャの統治の困難さをよく理解しており、ヨグヤカルタ王国を存続させ、ガジャマダ王を中部ワジャ総督に任命し、バスルバヤはマンティアン王国出身で固め、ジャヤカルタとともに、東西からヨグヤカルタ王国を挟むように統治していた。


「我らは夢を見ていたさ、竜王こそが我らの解放者、だが我らは敗北した」


 しかし、更に疑問が拡大した。

 ヨグヤカルタ王国とバスルバヤの戦力を持ってすれば、マンティアン王国に対抗出来たはずだ。敗北とは行かなくても、善戦は可能なはず。では敗北したか。


「覇王ラージャは病に侵せていた、ワジャ奪還時にはもう、立つ事すら難しい状態と我らの一族では言い伝えられている」


 ナーガの余命は僅かだった。

 リバ大陸統一に命を燃やし、更に西への進軍まで成し遂げた。

 しかし、それらを実行するには大きな代償を伴うものだった。


 ナーガが繰り出す、《終焉》、あの破壊に光は本来、リバ大陸古代の王族に伝わる最終奥義。王族一族全員の命を、蒔として焼べ、最後の燈火の一撃を与える破壊の力だ。

 ナーガは自身一人だけで、かつ黄金の鍵の力をふんだんに活用して、破壊の光を繰り出していたのだった。


 旗頭亡き集団に、マンティアンは負けるはずがなかった。


「民を思うたよ…このまま白の奴らに全て任せ、鳥籠の中の楽園を民に与えようとな。お主らの最初の王も同じ事を考えたのではないか」

 ヨグヤカルタ王は、500年間戦いに明け暮れていた民を憂い、マンティアンに下ることを決めた。

 こうしてまた500年が経ち、再び、東から希望が現れた。


 支配され滅びる運命に抗う者。


「しかし葛藤ないと言われればそれは違う。もう一度民を戦場に戻すのかと、民の顔を見た。


 誰一人、この500年の仮初の楽園に満足する者はいなかった。


 民を見て、戦士の血が滾ったさ…そして我は決心した、もう一度この大地に血を流そうとも、今度こそ解放を勝ち取る」



「仕事完了だぜぇハイジぃ!」

「お疲れ様ゴードン、あとは俺たちに任せて、避難しな」

「あいよぉ!」


 相棒を見届けた後、意識を戦場へと戻した。


「しっかりと追い込んでよ…」



「しょ、少佐!後方より、ヨグヤやバスルバヤの、反乱軍が押し寄せています!」

「南北も、敵勢力と思われる船団からの攻撃が止みません!そして届かないです!」


 白い騎士は戦場を四方八方見渡した。


(ちっ…やるしか、ないか)


 白い騎士は両手に魔力を集約。そして魔力を氷の大地に発散した。

「《召喚》!」


 魔法陣からは緑色の液体で充満され、小竜を閉じ込めているガラス張りの容器。

 そして、もう一つは、白色の棺。

 その棺に入っているのは…


 棺を中心に、巨大な魔法陣が展開された。


「覇王よ、ラージャの名を与えられた王よ、魂亡き肉体に、お前の魂を戻してやる!


 お前の故郷で今一度、蘇れよ!《召喚》《竜の憤怒》!

 

 出でよ!この世界を完膚なきまでに破壊する権化、《覇王黒竜・ラージャ・ナーガ》!」


 魔法陣が消え去り、無限の巨剣が空を舞う。

 棺から、魂亡き朽ちた肉体が宙に浮き出て、巨剣は亡骸を刺した。

 刺し傷からやがて禍々しい光が溢れ出ていた。


 亡骸と剣を粉砕し、中から顕現するは、巨大な黒竜。


『Graaaaaaaa!』


 それは、かつてワジャ大陸を、マンティアン王国軍を蹂躙した破壊の竜、本来の姿を取り戻した。破壊の竜は再び現代に降臨した。


「蹴散らせ!」


 竜の鉤爪から繰り出される斬撃は兵士を切り刻み、そして、竜は破壊の咆哮で船団を次々と撃墜、竜は戦場を蹂躙していく。



 火竜連峰、マンティアン王国ですら、未だ開拓出来ずいる、魔境の地。

 防御魔法を展開しなければ、今にでも身体中の水分が奪われていく、火の竜が住まう領域。


 その連峰の麓、ヨグヤカルタとバスルバヤの丁度中間に位置しており、マンティアン王国の監視が届かない地にて、王たちが集った。


「お初に目にかかる方もいるが、改めて自己紹介させて頂く、リバ大陸西部を治めるウェスト・ドラガン国王のドラガン・ムルジャだ。


 今日はワジャの未来について話し合おうと感がている」


 王たち、リバ大陸を代表する王たちや、ヨグヤカルタのスルターン、バスルバヤの反乱軍代表を筆頭として、他には、黒魔術の聖地マダラ島のエルダーや、ラヤ島からの亡命、各地の有力者が集っている。


「第一に、マンティアン王国からの解放、独立を達成していく。


 そして第二に、列強諸国に二度と侵略されない、力を他国に提示し、抑止力を示す」


 スルターンが挙手。


「理想論だな…しかし、力とは何か。それ次第で我らは、この戦いへの参加を改めなければならない」


「ヨグヤカルタのスルターンの案じる通り…ではこれを見て頂く」


 魔法の揺らぎ。

 どこからか魔法陣が展開され、使い魔が顕現。

 そして使い魔は、とある映像を映し出す。


「…これは」

「これならば…」


「これは1年ほど前、我らの地に侵略した白い軍勢との闘い、その際に顕現したリバの守り神」


 映っているのは、あの氷獄の戦いの終盤で、戦場を平定した黒竜。


 竜山では、冥土につながる門が設置されている。リバ大陸では、冥土に封印されている黒竜の魂を解放し、黄金の鍵の力で黒竜に魔力を供給し、いわば巨大兵器を運用している。


「まて…その黒竜はマンティアン軍で最近確認されている黒竜と同じではないか」


「実際に戦場にたった我らの戦士に説明を代わって貰うとしよう」


 ドラガン王の背後から、渡華人混じりの、人懐っこい笑みを浮かべる青年。


「リバの守り神と、マンティアン軍の黒竜は同一ものであり、その正体は、覇王ラージャ・ナーガであります」


「なんだと?!」


 氷獄の戦い、その際に冥土から分割された、ナーガの魂の一部が、白い騎士に奪われた。


 マンティアン王国は、500年前から今に至るまで、時期は不明だが、火竜連峰にあるナーガの墓から、その遺体を持ち出したと思われる。

 元々マンティアン王国はナーガの遺体を使い、黒竜を開発し、戦場に黒竜を投入していた。氷獄の戦いにおいても、白い騎士は最後に複数の黒竜を召喚した。


 ナーガの魂はいわば魔力の根源、遺体に刻まれた力と併せて、マンティアン王国は、覇王黒竜の再現を試みたのだった。


「来るべき戦いで、黒竜を取り戻します。竜山で封印されている黒竜の魂、そしてナーガの魂と遺体を、本来あるべき姿にまとめ上げ、500年前の黒竜を復活させます。


 黄金の力も供給すれば、その黒竜は一国すら吹き飛ばす力になります。

 七つの黄金が集った時は、氷獄の悪魔を一掃しました。


 全てが揃った竜ならば、それはきっと、大いなる力となるでしょう。」



 東西、異なる場所から、同じ魔力が発動され、共鳴した。


「「《黄金の恵(ハルタ・エルドラド)》《起動》」」


 ハイジとジョーダンは、黒竜の顕現に合わせて、黄金の鍵の力を解放した。


「「《戦士に必要なのは武器、精神、そして家族の見送り》」」


 黄金の魔力、それらを戦場へと送り出す。


「「《戦士は絶え間のない斬撃も受ける、戦士は手先もがれようとも立ち続ける》」」


 氷の大地にて戦っているリバの戦士たちもれなく全てに黄金の魔力が纏わった。


「「《地母神の祈祷(ドア・デウィ)》」」


「きたきた!」

「これで白の悪魔だろうが、なんだろうが」

「俺たちは戦えるぜ!」


 戦士たちは雄叫びを上げた。


「タイチョーからの餞別だ!オメーら気合入れてけ!」

「「「オッス!」」」

「いくぜ、《共鳴詠唱》!」


 ハイジ隊の戦士たちは共通の魔法を詠唱した。

 そしてそれら一つに集い、共鳴し、膨大な魔法へと成り上がった。


「「「《防御展開》《マキシマ》」」」


 魔法の壁が、黒竜を囲み、黒竜の攻撃に耐え抜く。


「オレオラ!俺らの竜の方が強かったぜ!」


 

 巨大な茨が黒竜を包み込み、その巨躯を抑えつけた。

 黒竜の咆哮や、斬撃は魔法の壁に阻まれた。

 黒竜の翼は複数の光の弾丸で貫かれた。


 黒竜はやがて、地に伏せようとした。


 何故だ、何故だ!今戦場に君臨しているのは竜の中の竜、黒竜だぞ。

 奴らは人間のまま、竜を殺そうとしているのか。

 黒竜は雄叫びを上げた。


「…足りないのか、竜よ、いいだろ」


 光の剣は、白い騎士の手の中で砕けた。

 白い騎士は黒竜を操る魔法を発動させ、手を掲げる。

 白い騎士の指示に合わせ黒竜は白い騎士へ意識を向けた。


「竜よ…くれてやるよ」

 黒竜は、白い騎士を飲み込んだ。


『Grrrr…』

 黒竜は、白い魔力に包まれていく。


『Graaaaaaaa!』

 黒竜の全身に白い模様が浮かび上がり、そして竜の周りに光の巨剣が表れた。

 光の咆哮が再び、戦場を蹂躙していった。


「…ごめん、母さん」



「なぁ…お前はもう大事な身分だ。そう簡単に戦場に出るな」

「くくくっ、こんな魂が躍動する戦場はそうそう無いだろ?一度だけだ許せ」

「ったく、ほら、返したからな」


 黄金の鍵を受け取った。



 乱戦極まる戦場にて、屍を颯爽とすり抜けていく、韋駄天。


(ナーガ…今解放するよ)


 刹那の魔力の揺らぎが今、戦場に舞い戻ろうとした。


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