21話 再び氷上の戦いへ
空を見上げれば、火の彗星の如く、自軍の戦力が塵芥になっていった。
大型航空機はリバの海へと墜落していく。
着水すると否や、大地さえも飲み込む、深きものの一つがその姿を現世に表した。
深きもの、「冥水鯨バハムート」。
深きもの、現世には干渉せず、されど領海に足を踏み入れた物は、後方もなく、その魂の一欠片まで飲み込み、輪廻さえも許さぬ。
真のこの世の成らざるものが戦場に現れ、場は静寂に包まれた。
「ちっ…いいさ、3年前の戦力より数倍は用意した…今日こそお前らを根絶やしにしてやる」
白い騎士は、竜に跨り、氷上を這う。
「マンティアン王国軍よ!我らの竜の一撃をもって、あの忌々しき黒き壁を粉砕する!竜に続けえ!」
白い騎士は光の剣を高く掲げ、自軍を鼓舞していった。
「「「おお!!」」」
「…さぁ、忌々しい、我に流れる血よ…その力で同胞を屠るがいい」
光の剣は砕き、白い騎士は空いた手を胸に当てた。そして魂の奥底に眠っている、小竜に魔力流し込み、震撼させた。やがて、その鼓動は絶え間なく響き渡っていく。
「…うおお!」
白い騎士の叫びに同調して、黒竜は叫ぶ。
竜の頭上に、光が集約した。
竜は光を飲み込んだ。
「今迄と同じだと思うなよ…お前らの誇りをもって、自壊しろ!《終焉》!」
そして、この世の全てを破壊する光が、黒竜から放たれた。
天地、蒼海さえも揺るがす轟鳴が、一面銀世界に響き渡っていた。
破壊の光は、リバの守り、黒氷壁へと放たれた。
◆
「…ほう、仲間ごと破壊する気だな」
前方に禍々しい魔力が、遥か遠くのこの黒氷壁まで伝わった。
「ファーガソン団長、少し指揮をお任せしても?」
「構わんよ」
「感謝する」
ジョーダンの足元に魔法陣が展開され、やがてジョーダンは中に舞った。
黒氷壁の頂きをも超えた、西の果てを一望出来る、空まで舞い上がった。
思い浮かべるは、あの堕天使が見せた、黄金の恵み、それの使い方、その魔力の真髄。
魔法とはイメージの世界。
「王者らにも出来たんだ、俺に出来ない訳がない…《黄金の恵》《起動》」
左手に、黄金の鍵が構築されていく。
黄金の鍵を掴み、そして巨大な魔力が流れ込んだ。
「クハハハ!これは素晴らしいな!王者め、なんて物を俺に預けやがる!」
黄金と紅蓮の、巨大な魔法陣が空に描かれた。
男の真髄は炎。
「今なら出来るだろ、俺の頂きを見せてやる…《 忘れられしき、クナの教え 原始の畏怖 拝火信仰をひと時も忘れぬ臣民に応えよ 闇を焼き尽くす焔の旧神 》…《召喚》《劫火鬼アグニ》」
魔法陣から、深紅の体に炎の衣を纏いし二面二臂の鬼神が顕現した。
『地母神の魔力か…』
「…くっ、地母神?何を言っているか分からんな…うぐっ、黄金の制御がこんなにキツイとは脳がやられる…何食わぬ顔でやりやがってあいつら」
『…汝、何を望む』
「破壊竜を撃ち落としてくれ」
『良いだろう』
『破壊神シワの子よ哀れな…せめては一息で父なる大地へ還そう』
鬼神は前方の黒竜に照準を合わせた。
死してなお、その御神体を兵器として扱われる黒竜を魔力の底から憐れむ鬼神。
鬼神は両手広げ、黒と紅蓮の魔法陣を展開。
『火神の咆哮』
黄金纏いし炎が黒竜へと放たれた。
破壊の光と、黄金纏いし神の炎がぶつかった。
◆
爆炎と怒号が鳴り響き、前方から強烈は突風が、我が身を飛ばさんとした。
少ない悪魔の兵士が海へ流されては帰ってこず、先行していた悪魔は一つ残らず灰と化していた。
「くそっ、また黄金の力か!」
いくらナーガのが合ったとしても、続けて《終焉》を繰り出すのは出来ない。それは敵も同じ。
大陸内内通者一族(情報源)によると、本来の黄金の力から7分割されており、最大出力は出せない。しかし、国宝で決して世に出される事のない黄金の鍵、近年にして、一部の国が積極的に前線に活用している。特に最果ての国や、新たに黄金の継承者に選ばれた王国、その二国との戦場では黄金がいつ使われても、可笑しくはない。
再び光の剣を生成。
「全軍!前に出るぞ!」
「「「は、はっ!」」」
撃ち止められたとして、その進軍を止めることはない。
(大技なくとも黒竜を止める術はない)
◆
『なんだ、もう終いか地母神の民よ』
「生憎、魔力は有限でね…」
『…久方の現世、まぁよかろう』
鬼神は黄金纏いし黒炎に包まれ、やがて灰と化した。
そして黄金の鍵は砕け散った。
ジョーダンは司令部まで舞い戻った。
「申し訳ない、ファーガソン団長、しばし休息をとる」
「任せなさい、お主はようやってくれた」
指揮権を団長に預け、ジョーダンは眠りに着いた。
「若いものにばかり、働かせるのは行かんだろう…気合入れるのじゃよ」
「「「はっ!」」」
司令部に詰めている各兵士は、老兵の言葉に身震いを隠せずいられなかった。
◆
白い軍勢は壁の目前まで、前線を押し込んでいた。
東の敵兵は黒き壁を活かしながら、白い軍勢の進撃に耐え忍んでいた。
(…なんだ、なぜ)
東の敵兵は、白い軍勢に対処してはいるものの、積極的反撃を仕掛けては来ない。
黒き壁や、眼の前の竜山を活かせれば、いくらでも白き軍勢の数を減らす事が出来るだろう。現に、大型航空機を撃ち落とした竜山からの光線は、最初以降見られていない。
(…まさか誘っているのか?)
よぎるのは最悪の事態。
しかしその思考はすぐさま放棄した。
南北には、先程その恐怖を知らしめた、深きものが潜む蒼海。
西には、マンティアン王国軍が既に抑えた、港。
港を抑えるに当たり、ワジャ最東部の周辺も抑えた。特に、生き残りの民が住まう半島、リバとの接触が確認されているあの集落への警戒網を敷いている。
しかし消えぬ雑音。
東の商人、その正体とはまさしく今の眼の前で対峙している、東の大陸の悪魔たち。東の商人の支援により、ワジャ各地で独立の反乱の動きが活発化していった。
またもや、よぎる最悪の光景。
切り刻まれ魔力の粒子と化した黒竜。
『またネ』
そして独特の訛り混じりのオラニエ語で言い残し、虚無の空間へ入り去っていた忌々しき青年。
「まずい、司令部が!」
白い騎士は進軍を止め、西へと振り返った。
そして、黄金の魔力の揺らぎを、西から感知。
司令部が陣取っている無人の港の上空に黒竜が顕現。
黒竜の頭上に、光が集約した。
黒竜は光を飲み込んだ。
この世の全てを破壊する光が、無人の港へと放た。
そして、深きものが潜む、南北の蒼海から、無数の砲弾、魔法の弾幕が襲いかかった。
「何が起きている…」
◆
深きものが潜む蒼海、その海原を自由気ままに徘徊する、大船団。
その船頭に立ち、氷上を眺める、海の荒くれ者の頂点。
「デンバザールめ…こんな楽しいを隠し持っていたとはなぁ、本当フィリップに感謝だぜ!これで俺達はもっと旅出来る!野郎ども!気合入れてけよ!」
「「「アイアイキャプテン!」」」
「海は誰のものか、見せてやろうじゃねーか」
◆
「司令部を叩いた…よし、ゴードン開けるよ!」
『あいよぉ!まずはヨグヤだぜぇ!』
左手に握る黄金の鍵から、魔力を受け取り、右手の先へと流し込んだ。
ワジャ大陸の中部、ここより遥か西で、友人の、いや、同じ魔法を感知し右手で掴み取った。
「《冥道》《開門》!」
掴んだ先に冥府の門を開く。
そして冥府から、大軍の軍靴がワジャ大陸最東部に轟く。
「ヨグヤ解放軍の皆さん!東へ!東へ進んで下さーい!」
大軍を率いる長が、ハイジへと近づいていった。
「1000年の我らの恨みを果たす場、それを設けてくれて、感謝するぞ東の商人」
「いえいえ…まだまだ働いてもらいますよ!」
使い魔から、友人の声が戻った。
『ハイジぃ!クリスタル砕いたぜぇ!やっとバスルバヤついたぁ!』
「よくやった相棒!ヨグヤの軍が出て切ったら、そっちの門も開けるよ!」
『あいよ!』




