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魔力雑魚の俺が英雄になるまで  作者: いずやゆうじ
The Roar of Ice and Dragon
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16話 愛しい君へ花束を


 戦いが終えたとて、明日にはまた戦いが始まる。

 負傷兵の見舞い、部隊再編補充計画、ウェスト・ドラガン軍の技術向上訓練。

 特に、ハイジ小隊の活躍により、新技術の評価は高まっている。全部隊への技術指導を担う事になった。


 新技術の普及に大いに期待されているウォタファー、本人留める為の中立都市との交渉は難航していたが、どうにか、まとまったらしい。この時勢だ、技術流出は一番の御法度だ。


 隊長として、新たに補充される新人の訓練に着手しようとした。

 特に第3部隊は、部隊長であるトラオレ部隊長が殉死、先駆けて軍勢に対応した事もあり部隊の損耗が一番激しい。


「えっ護衛、ですか」


 作戦室にて、今後の方針打ち合わせの最中、ファーガソン司令からそう命じられた。


「指名だ、行ってきなさい」

「は、はぁ…」



 ゴードンと馬車に乗り、リバ・アガに向かう。

 リバ・アガに向かう前には一度首都、アムドラ・プラに寄る必要がある。

 今回の護衛対象のお迎えだ。


「いやぁまた皆と冒険出来てオイラぁは嬉しいぜ」

「「…」」


 ウェスト・ドラガンには、護衛対象を馬車に乗せた後、すぐ出発だ。


 道中に何度かオークやゴブリン、また初めて遭遇した狼型モンスター「リバーズ・ロンリー・ウルフ」に遭遇した。

 中部と違い、西部のモンスターは一貫して猛者ばかりだ。

 一角大熊と同等の獣がそこら中に徘徊している。

 それ故、他国は西部への手出しは困難としている。


「「オイラぁも昨日の祭り行きたかったぜぇ~」

「「…うっ」」


 修了式依頼の友人たちの集まり。

 しかし、その、昨日の祭りの余韻が未だ残っている。


「この馬車、暑いね」

「そうですね、窓開けましょうか?」

「いや寒いぞ?」

「窓開けては風邪を引きますよラトナ様」


「「ぐっ」」


 顔も見れない。



 1年とちょっと前、一度訪問したリバ・アガの首都、クマラ・プラに到着。

 補充と、リバ・アガの戦士数名を引き連れて、再び馬を走らせた。


 リバ・アガ首都から北方向に向かう。

 霊峰を更に超えた旧都、高原にある村が今回の目的地だ。


 山道の勾配が徐々に急となり、目指す高原に近づく事が分かる。周りの樹木の数が見るように減っており、高度の場所まで移動した事を示す。


「…これは、天空寺院の時とはまた違った絶景だな」


 バドゥール高原、霊峰連山に連なるカルデラ地帯だ。

 高原の先には大きな湖、バドゥール湖と呼ばれているものが存在している。


「綺麗でしょハイジ君、ここが私たちの故郷ですわ」


 現在いる高原から更に奥に進めなければならず、手前の湖まで移動し、そこから船で向かう。バドゥール村は原初の暮らしを営んでいる、古き良き生活を送っている。

 ラトナが来ると分かるや否や、村人達は歓迎の儀を催す、とまで騒ぎ立てた。何とか村長を鎮めさせる事が出来た。


 湖に到着し、船に乗り移って湖を移動する。向かうは北部、トラルナング村だ。


 船旅という程のもでもないが、水中からモンスターが襲われたらどうするか少し不安に思ったが、リバ・アガの従者達による魔法で水中のモンスターに深いな音を流せ、襲わせないようにしているようだ。水中対策の手段が全くないため、ありがたい事だった。


 そして、目的地であるトラルナング村の港と呼ばれていたであろう場所に到着した。

 そう、トラルナング村はもう崩壊している村だった。目の前に広がるのは崩壊した、苔に覆われた集落の跡だ。


「ハイジ殿及びゴードン殿、どうかここから先、ラトナ様のお守りを何卒宜しくお願い致します」

「「「よろしくお願い致します」」」

「任せてよ」

「うんうん、ラトナ;あさまぁはオイラぁ達が必ず守るよ」


 ここから先は、一部しか入る事が許されない禁忌の地「古森凄幽トラルナング」。

 嘆きの巫女、レネイの血縁に連なる者を連れて行かなければならない。


 この崩壊した村の先に、目的地がある。



 突入して数分後に、猿型モンスター「エンシェント・エイプ」目視20体程が襲来。

 右手の武器を一時片手剣から無限短剣に切り替え、約20体の敵集団を《羅刹の剣舞》で対応。


 ウォタファーが予備の短剣を準備してくれた。出来る技術屋だ。


「ラトナいいよ、これくらいの傷なら」

「久しぶりにやりたいの、ハイジ君」


 そんな二人を見て、やっと何かを察した友人。


「えっオイラぁってもしかして邪魔?」

「なっななななに言ってんのゴードン?」

「ぜぜぜぜん全然居て、嬉しいよゴードン君?」

「…ほーん」


 友人の眼は細まっていくばかりだ。



 突入から1時間弱が経過。序盤こそは猿型モンスターの襲来が中心であった。

 後半からはアンデット型モンスターが出現。アンデット系の対策は予測していなかった為、一時撤退。

 安全地帯にて、ゴードンとラトナに武器の聖属性付与の措置を施して貰った。

 アンデット系モンスターは素早さと攻撃力こそ大した事がないものの、その不死性と物量が非常に厄介だった。しかし、対抗属性の聖属性を用いた事により、不死対策は完璧に対応しつつ、物量に関しても不死性能なくしては愚鈍な部類のモンスターに成り下がった。


 森の中を進む。

 時折、朽ちた集落があり、所々には人の骸、それも頭蓋骨が大量に並べられた。

 ラトナは骸に対して、古代リバ語の言葉をかけていった。

 ゴードンとともに、自分の祖先に祈りを捧げるラトナを見守っていた。


「リバ・アガにはね昔、風葬の風習があるの。今は行われていないけど、他の村では未だその風習が残っている場所もあるの」


 そして森の深部に到達。

 魔力の滾り、魔力が充満していた。


「…恐らく最奥部に到達したかな、初代の嘆きの巫女を守っていた獣が居ると思う」


 森を抜けるとバドゥール湖が見えた。樹木などは生い茂っていない。

 そしてすぐ傍には、天空寺院程の大きさではないが、割れ門が見えた。


 ラトナこちらを目視した。

 この先に最後の番人がいると、そう告げる眼だ。


 苔に覆われた門をくぐると、広場が見える。

 そして奥には朽ちかけている寺院があり、更にその奥には山奥に繋がる石の階段が見える。階段の先に目的地がある、と事前に聞いている。


 しかし、寺院の前には一匹の獣、黒色の横縞が目立つ獣が横たわっていた。

 中央部では虎と呼ばれる、猛獣型のモンスターだ。正確な体長は計りえないが、知っている虎という生き物の倍じゃ済まない大きさの獣だ。


『……レネイ様の魂を感じる…あぁ懐かしいの』

 獣は巨体を起こし、真っ直ぐラトナを見る。


「そのレネイ様の子孫が、そこを通りたいんですけど!通して貰えますか?!」

『かっかっか!レネイ様の忘れ形見であっても、この場を守るのが我の役割だ。許せ、通りたくば我を倒してみせよう』

「あとちょっとだったのに」

「何で交渉できると思ったのハイジ君」


 古森凄幽トラルナング最終試練

《墓守の古虎 リバ・カ・ティグリス》


「対獣系統との戦闘注意点はなんだっけ?!ひっかき、噛みつき攻撃だよね?!」

「あーあとブレス攻撃も注意だぜぇハイジィ!」

『《猛虎・連弾》』

「全部同時に来ているんだけど!」


 虎は幻影の分身体を繰り出す。

 本体はひっかき攻撃や嚙みつき攻撃、または突進攻撃などの物理攻撃を主体に襲い掛かる。幻影の虎は、口から光線を射出する攻撃も繰り出す。


『小童!その程度でレネイ様の忘れ形見を守れると思うか!』

「このネコジジイ…好き放題言ってくれるね!」

『500年の想いを受けるがいい!《猛虎・鳴動轟咆》』

「範囲攻撃?!…ラトナ!」


 虎の不可避の咆哮は等しく襲う。

 それはこの戦地に立っている、ラトナも例外ではない。しかし、ラトナにはその痛みが届くことはなかった。

 一人の青年が彼女の前に、彼女が傷つく事が無いように、虎の威光をその身で受け、彼女を守ったのだ。


(あぁ…また貴方は、傷つくと分かっても、また貴方は、誰かを守るのですね)

 

 彼女は想う。

 青年はいつだって誰かの為にその剣を振るう。

 氷の大地では誰かを守るために、青年は白き死にすら立ち向かった。


 彼女は思う。

 誰が青年の為に剣を振るうのか。

 自分に出来るのは借り物の力を用いて、彼を救う事だけだった。


「大丈夫?ラトナ」

「…はい、大丈夫だよ、ハイジ君」


 ならばせめて、自分だけでも、彼を支えよう。

 ならばせめて、自分だけでも、彼を守ろう。


「《ハートビート》《マキシマ》」

「悪いね」


 彼はこれからも留まる事無く、進むのだろう。



『見事だ小童。次は我身をもって、この想いを刻もう』

「…手加減してよジジイ…《強化活性》《ペーシェンス》」


 虎の突進による噛み付きを避けるのは容易な事ではない。

 ならば駆ける。虎にスピードを乗算させる猶予を与えない為にも、追い詰めるに限る。

 

 虎の爪から繰り出される攻撃は脅威だ。

 しかし、避けさえすれば大きな隙を突くことが可能。

 ならば避ける。前方の足の動作を見逃さない。

 不可避なら剣で受け、流す。


「…《羅刹(ラクシャ)》」

 

 虎には絶え間ない斬撃を浴びせる。

 たとえ力量差があると知っても、百や千、いや万もの斬撃を虎に与えれば、きっといつか必ずは地に伏せる。


『かっかっか。誠に見事と言わざるを得ないな、小童』

「アンタは強かった。まぁ後は若い者に任せてよ」

『ならば守ってみせよう。レネイ様の意思を継ぐ者を、我らの代わりに』


「……長い時間、よくぞ我一族の聖地を守ってくださいました。わたくしは貴方を誇りに思います」

『…勿体無きお言葉、我らは主人すら守れない無力なる獣…』



 虎が守っていた門をくぐると、そこには山に続く階段が配置されていた。

 

 階段を上る。果てには、バドゥール高原一面を見渡せる開けた場所までたどり着く。


 その先には墓標が立っていた。今回の依頼は、墓参り、の護衛だった。


 ラトナは墓に近づく。

 墓には名前が刻まれていた。古代リバ文字。


「レネイ・シア、500年前のリバ・アガの巫女、嘆きの巫女と呼ばれていた方ですわ」


 ラトナは花束を取り出す。花を添え、レネイを弔う。


 そして、魔力の揺らぎ。

 墓から魔法陣が紡がれていく。


「うわわぁ何だぁ?!」

「ラトナ?!」

「…これは、降霊魔法」


『《Summon》《Walling Widow》』


 魂に直接、その呪詞が流れ込んだ。

 魔法陣はラトナを包み込み、一際輝く魂がラトナへと取り憑いた。


 魔法陣は消え、ラトナはその場で伏せる。


「…ラトナ?」


 ラトナが状態を起こす。

「……Om swastyastu、Sira adane?」

「へ?古代リバ語?ええと、ゴードン、パス」

「オイラぁも分かんないよぉ!」


 ラトナは杖を支えに立ち上がる。

「あら、■■■語の方が良いのかしら。てっきりリバの子かと思って、ついリバ語で話しちゃったわ」

 ラトナの声だが、先ほどまでの彼女とは雰囲気が全く異なる。

 口調も立ち振る舞いも。


「レネイ様、でよろしいのですかね」

「あらあら、わたくしの事を分かるのね」

「名前だけです、それで何故、現世に?」

「ふふふ、愛しい私の、お日様の魔力を感じたの、それで会いに来たの」

「…ラージャ・ナーガですね」

「ええ…愛しい愛しい我が君よ」


 レネイは遠く、西の方向へ視線を向ける、探し続けた愛しい太陽が沈み行く方向へ。



「あら、もう時間が来たみたい。今は多くを言えないわ…でもお願い出来るかしら、我が君の友人へ」

「ナーガの為ならば」

「そうね、あの人の魂を自由にして欲しいの。きっとまだ囚われているの」


 あの竜をまた思い浮かべた。

 竜は今でも嘆き叫んだ。きっと、魂の一部は今でも西に。


「そして、いつかあの人のお墓に、お花を添えて頂けないかしら?」


 彼女は笑う。

 レネイは光に包まれていく。

 周囲の魔力が消え去っていく。

 光は儚くも空へと消えゆく。


「ありがとう、後、可愛いわたくしたちの子にもよろしくね」


 レネイはそう言い残し、帰るべき場所へ帰った。


 そして魂に置き土産が残された。


『ナーガと魂を結びし貴方…これは、いつか、貴方の助けになると思うの』


 《虚化》、それはあらゆる攻撃が当たらない状態になる魔法。

 《冥道》、それは冥府の道を繋ぐ魔法。


(なんだ…この魔法は)



 ラトナはおぼろげに、友人たちの声が聞こえる。


「ゴードン、この魔法さ……《羅刹》以上だよ」

「あまり他の人に……方が良いぜハイジィ」

「…だよね」


 ラトナはどうやら眠っていたようだ。

 ゆらゆらと揺られていった。

 ラトナは暖かいと感じた。そして気づく、これは青年の背中だと。


「レネイぃ様の頼みどうする?ナーガのお墓って、多分西の大陸だぜぇハイジぃ?西の大陸って行けるのかなぁ」

「陛下とかに嘆願出来るかな…あっ、ラトナ起きた?」


 ラトナは羞恥心が芽生えた。よりにもよって、この青年に背負われたのだ。

 青年には幼い自分を見せたくない、少女と思われたくない。


「まだ寝てて大丈夫だよ。魔力切れで疲れたでしょ」

「…」


 ラトナは無言で彼の背中に顔をうずくめる。

 ラトナは今の自分の顔を見られたくない、見せたくないのだ。でもちょっとだけ、もう少しだけこのままで、と少女は思う。


「ん?ラトナ?…まぁいいか。もうすぐだから、まだ寝ててよ」

「…ジぃ」

「なんだよゴードン」



 そして、帰り道の馬車の中。


「…歴代の巫女たちも幾度か降霊を試みて叶わなかった、レネイ様ですか」

「ナーガの事を頼まれたんだ」

「ちょっくら西に行ってくるぜぇラトナぁ!」


 竜の叫び。

 そして、きっと、白い騎士によって西の魔大陸に連れ去られた小竜。

 あの召喚された黒竜も、どこかあの小竜に似た雰囲気。


「ナーガは…必ず取り戻すよ」

「…ナーガ様をよろしくね、ハイジ君、ゴードン君」


 いざ西の大陸へ。


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