15話 守りたかったモノ
キルシュ・プラの詰所にて負傷者を運び終えた後、神官と薬師に負傷兵の治療を全面的に任せた。治療分野に関しては全くの専門外だ。
今回の北部前線奪還作戦では北部部隊の約六割は、重症軽症問わずに生還出来た。白い騎士と新種の白い悪魔との対峙を加味しても、良くこれだけ残ったと言える。
ハイジ小隊の新設部隊が新技術で粘ってくれたが大きな要因だ。しかし、残念ながらハイジ小隊とてm被害はゼロに抑えられなかった。
そして、最後の”アレ”が無ければ、一割も生還出来なかったはずだ。
雑務も完遂したのちにキルシュ・プラを散策した。
無理もないが、町中は竜の話題で持ち切りだ。
「あれは竜山の守り神だって」
「返ってきた兄ちゃんに話を早速聞いたけど、竜神様のお陰で前線基地を取り返せたんだって!」
「よかったよ本当、北部が崩壊したときはいよいよここも終わりかなと心配していたよ、ほらうち子も生まれたばかりだし、親がもう年で動けなくてさ」
最後に竜が放った光は、どういう理屈か分からないが、白い悪魔の軍勢や騎士が召喚した黒竜を屠った。 ウェスト・ドラガン、いやリバの民は誰一人、竜の光で傷つく事は無かった。
散策しながら先程までの出来事を整理して、様々な考察を行おうとしたが、どうも頭が上手く回らない。
白い騎士との激闘で武器が激しく消耗したため、ゴードンに修理を依頼した。
「うーん、もう新しく作った方が良いぜハイジぃ」
「…だよね」
《羅刹》の魔法による剣操作、それに対応する剣の製造は簡単ではない。
魔力の通りをよくせねばならず、材料調達も難しい。切れ味とのバランスも考慮しなければならない。
それ故、おいそれとは簡単に新しく作ることは出来ない。
奪還作戦では強行行軍だった事もあり、干し肉やら非常食しか取っておらず、キルシュ・プラに帰ってから食事を取ってない事に気づいた。
ゴードンを連れて行きつけの飯屋に向かった。
褐色肌の美人な店員が運んでくれた、天牛のスパイス煮込みが一生忘れられない味の店だ。褐色肌の美人店員なんて居ただろうかと観察したら、北部基地の看板娘のキヤだった。
「あれキヤちゃん、副業?」
「ここ、父の店です隊長、今日はお手伝いです、秘密にしてくださいね?」
お茶目なウィンクで秘密の共有を強いるその魅惑、キヤちゃん結婚しよう。
「あっ隊長、天空寺院で行わる御霊祭り、私も連れて行ってくれませんか?」
「天空寺院の…御霊祭り?」
◆
御霊祭り、それは死者を弔う儀式。魂の儀により、死者の魂がアンデッドや死霊にならないよう巫女たちによる儀式。
リバ・アガ村で行われた鎮魂祭も御霊祭りの一つだ。
今回の大規模戦闘によって、大量の死者を弔わなければ二次被害が発生する。
竜山の天空寺院にて大規模な御霊祭りを行うことにより、それらを対処する。
また、武勲を挙げた人に、王自らが叙勲を授ける式典でもある。
その夜、質素な街が特徴であるキルシュ・プラでは考えられない、祭り騒ぎとなった。露天で何やら調理している者、酒場で飲み交わす者などなど、活気溢れる街の熱が感じられる。
死者を弔う際には、盛大に葬送、それがウェスト・ドラガンの風習だ。
「さてと、御霊祭だっけ、行きますか」
北部基地で手配された豪華な馬車にのり、天空寺院に向った。
◆
天空寺院までの間、部下達との交流も忘れない。
「あっ昨日、キヤちゃんに会ったけど、本当可愛いね。皆が結婚したいって思うのなんか分かるよ」
「タイチョーはやはりそう思うか!あの子はウェスト・ドラガン一番の美女でっせ」
「タイチョーはやっぱり話が分かる奴だぜ、うんうん」
「うちのカミさんなんてと比べられんねーよ、キヤちゃんの美しさは」
「今度二人でお茶する約束だけど、今から緊張しちゃうよ。やっぱ美人過ぎるとちょっと萎縮しちゃうよね。我ながら情けないよ、自分が」
「そうですよねタイチョー、実際にキヤさんと喋ると、あまりの美しさにこう… 言葉がでなくて」
「タイチョーも以外と生方な所があってアッシは安心したぜ、ヘヘッ」
「いやぁ、全くだよね」
「「「… ん?」」」
天空寺院まで距離はトーヤ・プラ程の距離は無いらしいが、暇なものは暇なので、兵士たちとの会話で部隊の連携を深める。
なんて出来た隊長だ。
「ちょ?!痛いよ!何するのさ!?」
「てめぇやっぱりここで〆る!」
「一生ついていくって言いやしたが、もう我慢ならねぇ!」
「出来るヤツぁはそうやって、ヤル事をヤルんだな!そうだよな!!」
「いやいやお茶ぐらい良いじゃないか!いきなりセクハラをしだす君達と比べて健全だろ?」
「タイチョーをどこかに埋めます?そうしませんか?そうしましょう!」
「アッシらはアンタの事を見損ないましたよ!死にさらせこの悪魔め!」
「だあ!やってやろうじゃねーか!君たちに、白い悪魔より恐ろしいって、もう一度叩きこんでやるよ!」
第一印象は最悪な思い出を築いたが、死闘を経てお互いを認め合い、今では戦友と呼べるまでに至たったハイジ小隊には強固な絆が築かれた。
◆
竜山の麓にある町に到着し、ここから天空寺院までは徒歩と告げられた。
竜山の麓には小規模ながら、集落が存在する。他のウェスト・ドラガンの街とは異なり、雰囲気はリバ・アガに近いと感じた。
(町といより、村?)
リバ・アガでもみた伝統的な衣装を身にまとう住民から聞こえる会話は理解出来ない言葉だった。
「ね、あの人達の言葉、何語を喋っているの?」
「あれは古代リバ語でっせ。アッシもさっぱり分からんすわ。ウェスト・ドラガンでも一部の人しか話せないし、リバ・アガなら喋れる人は多いって聞いてやすが」
「古代リバ語ね…」
天空寺院に入るには、どうやらドレスコードが存在するらしい。
男性は上半身裸またはシャツに似た伝統衣装を身に着け、下はバティック素材を用いたスカート風の布を巻いて専用のベルトで固定するのが決まりだそうだ。
女性はバリエーション豊富な柄のタイトのなブラウスを身に着け、下は男性と同様のスカートだが、より体のラインが出るデザインの物を着用する。
このリバの伝統的衣装はウェスト・ドラガンとリバ・アガの街中でも見かけたが、そちらはもっとカラフル色彩だった。
神聖な場所ではより落ち着いた色彩の物を着用するのがマナーだそうだ。
この度天空寺院で行われる御霊祭りは、一応死者を弔う儀式であるため、周囲の人たちは黒色または白色のものを着用している。
芸術的センスは皆無と自覚しており、黒色のシンプルなシャツと、植物モチーフのバティック柄のスカートを選び、無難なチョイス、これが大事だ。
「うん、馬子にも衣裳だね!」
「それ自分で言います?タイチョー」
◆
天空寺院に入るには、どうやら事前に専用のお祓いやら儀式やらが存在するらしい。
ハイジ小隊まとめて儀式を受ける。全員地面に跪き、首を垂れ、手を組み、頭より上まで掲げる状態をキープする。
そして目の前でよぼよぼの老婆が古代リバ語であろう言葉を唱えている。
老婆は呪文を唱えながら一番で跪くアンジュの手と頭に目掛けて水と花びらをかけた。
老婆に合わせて、周りに待機していた褐色美女の巫女たちも手分けして、兵士達と自分に水と花びらをかけた。
呪言と水と花びらかけを終えても、なんだかんだ水で体を清めるだー、煙でなんちゃらこうちゃらと細々した決まりを終えて、やっと天空寺院に向かう。
しかし、本当の試練はこれのようだ。
なんと先ほどの儀式を行った場所から更に1800段の階段を上り、天空寺院に向かわなければならない。
◆
何とか1,800 段のゴールが目の前まで迫った来てるようだ。どうやら自分だけでなく、流石の兵士達も表情の硬さを隠せないようだ。
いつの間にか合流したキヤ、彼女は全く問題ないようだ。
「「情けない男はイヤやね」
「キヤちゃんは元気だね…」
「ほら隊長、天空寺院は初めてですよね?後ろを振り向いてください」
「…後ろ?」
階段上りで気付かなった。
「…すごい、ね」
「どうですか!これが、皆さんが、命を懸けて守ろうとしたものです!」
振り返ればそこには、リバの広大な大地。
夕暮れ時もあり、青と橙の色のが照らす大地のコントラストがその壮大さを強調した。
大地には人が必死に今を生きている証である、灯火の明かりが、まだらに点灯している。
更に目の前には、曇でその全貌が隠されているが、その荘厳さを感じるには、不足はない霊峰が映っていた。
◆
「やっと到着したか」
目の前には巨大な割れ門が聳え立っている。割れ門から伸びるように城壁が連なれ、端は山にまでめり込んでいる。
どうやらこの門をくぐるようだ。門をくぐり少し歩く。
ふと後ろを振り返った。そこには先程みた光景が、威風堂々と構える割れ門から覗く光景はもまた、その幻想を強いアクセントを加えた。
割れ門と、天空寺院の本堂と見られる建物の間の広場にて、死者を弔うようだ。広場は扇形の野外劇場に似たデザインとなっている。
ハイジ小隊は右端後方の位置が指定された。本堂の入り口にはラトナとドラガン王が着席されている。
ラトナはこちらに気付き、ラトナに対してややぎこちなく手を振って挨拶した。
ラトナは控えめな手振りと微笑みで応えてくれた。その際に、横からは太ももを強くつねられ、後方から臀部を複数名に蹴られた。
何故だ。
◆
儀式が始まる。
舞台上には焚き火が燃え盛る。
焚き火を囲うように、多数の男が胡坐をかき座っている。
男たちは両手を頭上に左右に揺らしながら、古代リバ語の言葉を繰り返し叫ぶ。
そして、伝統衣装をまとう踊り子の女性が焚き火の周辺で舞を披露する。
踊り子の舞に合わせるように袖から、中国の唐獅子に似た、リバの森の聖獣の着ぐるみ擬きが、舞に加わる。
◆
舞を終えて、次に舞台上に運ばれるのは竜の像。
それは、氷原の戦いを終結させた、あの竜に似た像だった。
竜像は焚き火の上に配置され、やがて業火に焼かれたように、燃え盛る。
あの時の竜の叫びを思い浮かぶ。
『聞け我らの豪咆を!受けるがいい、この悲痛の業火を!』
「咆哮、叫び…か」
竜は何を訴えようとしたのか。
竜は何を伝えようとしたのか。
隊の兵士たちを見渡す。
少なくとも、竜が守ろうとする者はこうして生きている、
先程みた、リバの大地も無事だ。
竜は何故叫ぶのだろうか。
「ナーガ…君は何故、そう悲しそうに叫ぶのか」
◆
その後、武勲の表彰式が執り行われた。
ドラガン王自ら褒美を授けた。
呼ばれた者は舞台上まで赴き、王のまで跪き、褒美を受け取る。
隊長格や部隊を代表する者たちが呼ばれ、更にマーレオネの支援郡の代表である獣人の男も呼ばれた。金封や武器、またはそれ以外のもの、それぞれが異なる褒美を授かった。
「ハイジ小隊、ハイジ・トヨウチ!」
「はい」
そして自分の番が訪れ、舞台上に上り、王の御前で跪く。
ラトナと目が合った。お茶目にもウィンクを頂いた。
殺気を感じた。後方、具体的に言うと右端後方から特に殺気が強く感じる。
「ハイジ、北部前線基地崩壊の報せを届けた事、また此度に氷原での活躍をにより多くの同胞の命が今もこうして紡がれた事、これらを多い評しよう」
「陛下の御心のままに」
「その前にだ、少年。まずはドラガンの王として礼を言わせて貰おう。余所者である”あの少年”が、リバの大地を、そして民を守ってくれた。心から感謝する」
王は、少年と呼んだ。
「… えっ、あ陛下、いいえ、一兵士ごときの自分にそんな畏れ多き事を」
目の前に立つ男が、王たる所以を知った。
「あの日の返事をしよう、少年、お前は英雄になれる」
その言葉は、何よりもの褒美であった。
「ハハ…」
ドラガン王は言動に振り回される。
背後にいるラトナも笑いを堪え切れない様子だ。
◆
ドラガン王からの表彰の後に、王の付き人から個別に金封も頂く。
(うぇ、何だこの額… )
その額に驚きを隠せない。
そして御霊祭りの、”御霊会”が終わり、次に”祭り”が始まった。
豪華な食事が運ばれ、兵士達はそれらを有難く平らげる。隊員に逆アルハラに対して、隊長として威厳を見つつけた。何とか身体はアルコールに耐え抜き、逆に兵士達は自爆に追いやった。
宴はまだまだ続くようだ。
◆
割れ門入口付近で腰を掛けた。
騒ぎ声や音楽の音が鳴り響き、背後の広場の宴はまだまだ終わりそうにない様子だ。
1,800 もの階段が目下に連なり、竜山の麓まで続いている。
これから町に戻る際に、下りとはいえ、再び修行を避けなければならないと思うと億劫になる。とはいえ、目の前に広がる広大なリバの大地、荘厳な霊峰アグンの光景は、甚く気に入った。 街の明かりが、最初に見た時より増えており、人の温かさをこの山頂からでも感じられた。
「如何ですか?お美しいでしょ?」
「…ラトナ、様。こんな所で何を」
振り向くとラトナが立っていた。
もう夜だという事もあり、流石に肌寒く感じるのか、黒色生地をベースとした花柄模様の布をコート代わりに肩掛けしたラトナ。
そしてラトナは、となりに座る。
「様はいらないよ、ハイジ君。今だけでも、二人の時だけでも」
「そうだったね、ラトナ」
お互いの顔を見て、お互いは苦笑う。
両膝を曲げ、胸に寄せるラトナ。膝を両腕で囲い、そこに頭を預けた。
「大人てる巫女のラトナ様よりは、こっちのラトナの方がいいね」
名前を呼ばれると、目を細めはにかむ。そして膝にうずくまる彼女。
その仕草は、王の隣で堂々とした彼女、いやこれまでの凛とした彼女から想像できないくらい、幼く見え、また年相応に見えた。
「…… って、飲みすぎじゃないラトナ?ははは」
「もう!今子どもっぽいって思ったね?ハイジ君!いいんです、どうせわたくしはお子ちゃまだから」
顔を背き、口を尖らせ拗ねる彼女。
「… だってぇ、おじ様がすごく飲むんだもの」
小声で、消えそうな声で弁明する彼女。
「ラトナが好きなココナツジュースでも飲めばよかったのに。凄く美味しそうに飲んでいたじゃないか」
顔を背いており、どんな顔をしているかは分からないが、耳が赤くなっている事だけどは分かる。
こちらを向き、睨むラトナ
「……いじわるだね、ハイジ君」
「あの…その…」
しばらく拗ねる彼女を宥める事に時間を費やした。
◆
霊峰の息吹だろうか、風の音が聞こえてくる。
沈黙の時間が流れ、二人で目の前に広がる大地を見ていた。
月明りでリバの大地、荘厳な地は明るく照らされていた。
「綺麗だね」
「えっと、ハイジ、君、それはその」
「本当美しいね、ここからの景色!… ってラトナどしたのそんな固まって?」
こちらの顔を見て、固まる彼女。そしてまた、彼女の白い肌が赤く染め上がる。
今度は真正面で直接見る事が出来る。
彼女につられて、こちらも顔を赤く染める。
再びうずくまる彼女。
「ちょっとなんでそんなに照れるのさラトナ。こっちまで移るよ… 」
彼女に見られないように、片手で顔を覆う。
うずくまる彼女は、少しだけ顔を傾けてこちら除く。
そんな彼女はを気付く訳もなく、こちらは顔を逸らしているのだ。
「知らない… 」
◆
「ラトナさま、そろそろお暇の時間ですよ」
宴は終わりのようで、従者たちが彼女を向かいに来た。
従者は訓練団時代に居た取り巻きだ。
そして隊の兵士もこちらを呼びに、向って来るのが見えた。
そろそろ天空寺院からお暇する時なのだろう。
「ではわたくしはこれで失礼致しますわ。ハイジ…殿」
「自分も失礼します。ラトナ…様」
お互い少しぎこちなく、別れの挨拶を告げる。
連行もとい、迎えられたラトナはカデから注意されている風景はなんとも微笑ましい。
「ラトナさま、すこし飲みすぎですわ」
「今日はいいんですよぉカデ」
「ラトナさまの呂律が…」
もう一度目下の光景を眺めた後、隊に合流。




