12話 白い騎士
前線基地と中継基地の中間地点で一個旅団が陣形を整える。各兵士は獲物を握る力を緩める事無く、意識を目の前の、先ほどまで居た、前線基地へ向ける。
この世ならざる叫び声とともに、白い死の軍勢が基地破壊し、突破していく。
「今だ!発動!」
後方に待機している50数名の術師が一斉に詠唱を開始。
「「「《無限炎獄》《マキシマ》」」」
魔法陣が前線基地から現れ、獄炎の壁を形成。
「「「ヴァアアアアアアアアア」」」
この世ならざる白き死が炎熱地獄に焼かれ、塵となっていく。
それでも、少なくない悪魔が、獄炎の壁をすり抜けた。
「ハイジ小隊行くぞ」
「「「オッス」」」
部隊員から迷いはもうない。
その他の部隊も、打ち漏らした悪魔へ対処していった。
戦場は混戦極まって行く。
白い隻眼の巨人が炎の壁に飛び込む。
全身を焼き尽くされながらも、巨人が築いた空白地帯より、無数の白い悪魔、白い獣が沸き出てきた。
(キリがない…)
◆
そして世界が再び反転。
そこに少年が真っ直ぐに視線を向けていく。
「俺様に変われ、小僧」
「…ナーガ」
◆
再び視界は氷の戦場を映し出した。
そして駆け足で司令部へ向かった。
「トラオレ部隊長、あの悪魔全部、どうにかしてみせます、どうか少しだけ時間を下さい」
「…やれるのか」
「出来ます、やります、やらせてください!」
「頼んだぞ」
「はい!」
司令部を離れようとした時。
「ハイジ小隊長」
「はい?」
トラオレ部隊長からクリスタルが投げられた。
「お前が使え」
「…ありがとうございます」
そして、最前線へと舞い戻った。
眼を閉じ、魂を深層深くまで潜っていく。
「あとは頼んだよ…ナーガ」
瞳が開かれる。
「…忌々しい白き豚どもが、切り刻んでやる」
魂をナーガへと移し、肉体の主導権も渡す。
魔力を全開させていく。
それは、殺気にも似た、森羅万象を破壊していく魔力だ。
そんな様を、兵士たちは知る由もない。
「た…タイチョー?」
「総員下がれ」
「お、オッス…」
両手で掌印が結ばれる。
刹那の魔力の揺らぎ。
「こうだったな、《羅刹の雛鳥》…《マキシマ》」
空に無限の魔力、無数の剣が顕現。
「切り刻め」
破壊の剣は全て、白き死の軍勢へと、絶え間なく襲来し切り刻んでいった。
無限の剣は、一つ残らず白き軍勢を氷の大地へと還した。
死の斬撃を耐え抜いた、白き巨人たちは吠える。
「しぶといヤツらめ…《羅刹の■■》」
上空に一振りの魔法の剣。それは■の魔力を帯びる。
紅蓮の剣は、白き巨人へ落とされ、氷の大地には爆炎と断末魔が轟く。
◆
炎の向こう側。
白い甲冑を全身に身に纏い、禍々しい魔力を醸し出している。
「…Hebben jullie nog steeds problemen met zo'n verdomde aap?」
「Mijn excuses, Kapitein De Jong…」
魔力の躍動。魔力が光となり、集約される。
「Wat een stel waardeloze klootzakken」
光は白い悪魔を切り裂いた。
東側から、大量の魔力が爆散した。白い甲冑を纏う者はそれを悲しみ、憂うことはなかった。
その表情に写るのは寧ろ…
「Deze magie… zou dit een wonder zijn?」
白い甲冑は立ち上がり、戦場へと向かっていく。
◆
戦場は静寂に包まれていく。
トラオレ部隊長が自ら前線に出向き、戦況を確認していく。
「…やったか?」
ナーガの眼光には、荒れ狂う吹雪と爆煙向こうから影が映っていた。
「いや…まだだ」
「Zo ver gereisd,… en toch—dit!」
歓喜に満ちた言葉が静寂の戦場に響き渡る。
「…しゃべった?」
とある兵士が、そう零していく。
白き軍勢から、言葉というものを耳にするとは、誰が予想出来た。この世ならざる畜生どもから、不俱戴天の存在から、言葉なんぞ。
声の発信源、全身白い甲冑で包まれた、騎士が表れる。リバ大陸のどの軍隊、どの騎士団からも見られない特徴の鎧だ。しかし、騎士の最大の特徴である剣が見当たらない。
「Ik kwam helemaal hierheen en verveelde me… maar toen, toen vond ik iets onverwachts. Wat een krankzinnig geluk! 」
魔力の躍動。光が形成され、集約し、光剣へと形なしていく。
「Hah… dit is geen toeval — dit is een teken van God!」
魂が叫んでいた。
「貴様は!」
見知らぬ白塗りの死神に対して、抑えられない殺意が腹の奥底から湧き上がった。
刹那の魔力の揺らぎ。
殺意の剣が白い騎士へ飛ばされる。
魔力の躍動。光が形成され、集約し、光剣へと形なしていき、騎士の手へ。
騎士は光剣で見えざる剣を振り払った。
剣を握っていない手をかざす。
「Oh…mijn liefde……《The Ehthertial Pardon》」
魔力の躍動。
「なっ?!」
身体が、何かの力によって、白い騎士に向かって引き寄せられる。
「「「タイチョー!」」」
「ハイジ小隊長!」
「ぐっ」
白い騎士に頭部を鷲掴みにされる。
白い騎士は、握った光剣を砕き、空いた手は白い光に包まれる。
「Ik verlang slechts naar die prachtige ziel」
光を纏う手は穿つ。
抜き取られたのは心臓ではなく、魔力の塊、やがて魔力の塊は小竜へと形作る。
「ぐおお!」
◆
そこは魂の世界。
しかし古代の家屋が、一つ残らず、綻び始めた。
「ナーガ!」
「俺の魂がアヤツらを許さないと叫んだのだ」
「待ってよ!」
「さらばだ小僧」
◆
もう用無しだと言わんばかりに、騎士はハイジを無造作に放り投げた。
「Het vat kan me niets schelen… wegwezen」
「ぐっ…ナーガに何を…ナーガ!」
「Wees stil…jij gele aap 」
「Ik zeg het in jouw taal, zodat je het begrijpt…死ね、猿が《The Erebusial Reject》」
「なっ?!」
先ほどと同じ魔力、正体不明の力によって宙に浮かされ、拘束。
「kut jou aap … 《Saltare Gladiator 》」
光剣が飛翔していく。
「小僧!《羅刹》!」
光剣が切り刻むことなく、通り過ぎた。
そして、一つの光が上空へ打ち出され、東の彼方へ飛んで行った。
◆
眼を開けると、そこには灰色の空が映る。
身体を起こし、周りを見渡すと、そこは部下達と鍛錬の日々を過ごした基地の訓練所、そして転送クリスタルが鎮座している。
ウォタファーやキヤなど、複数の非戦闘員が建物から駆け寄っていく。
「ハイジ隊長!」
「ハイジ殿?!大丈夫でござるか?なぜ一人でござるか?!」
「…」
胸に手を当てる。ナーガの魂を感じられない。
「伝令…前線基地壊滅した」
「なっ?それは本当か?ハイジ小隊長!」
「ええ、至急アムドラ・プラに伝えてください…」
「あ、え…」
「はやく!」
「「はい!」」
ウォタファーとキヤの力を借りて立ち上がる。
「北部基地に、第1部隊は帰ってきているよね?」
「は、はい」
「ごめんねキヤさん、隊長たちを集めてくれる?」
「分かりました」
ウォタファーに任せ、キヤは隊員宿泊所に駆けていった。
「早く戻らないと…ナーガが…ゴードンもみんなも残っている」
「…ハイジ殿」




