10話 大事なのは挨拶と酒
ここはウェスト・ドラガン北部防衛統括拠点、キリシュ・プラ。派手さは無いこの国の特徴をしっかりと体現している、城壁に囲まれ街だ。
ウェスト・ドラガンとは言え、流石に首都は幾ばくか都市としての華があった。しかしキリシュ・プラはそういった派手さは一切ない、シンプルで無骨な街だ。
そして、北部基地の訓練地。約30名、1個小隊規模の兵士の前に立っている。
「今日から着任した、ハイジだ。この小隊、君たちの隊長をやらせて貰う。よろしく」
反応ナシ。歓迎の”か”すら見えない。
兵士たちを見渡す。
(ああ、なるほど)
直感が告げているのだ、ウェスト・ドラガンという土地柄は、荒くれ者の暴れん坊たちの集団だ。
「えぇタイチョーですかい?」
「チューオーから来たお偉いさんがわざわざ田舎にぃ?オラたちの頭はるってぇ?」
「冗談キツイぜおい」
(おおイキが良いのが揃っているね)
ならば新参者がすべきことは、一つ。
「陛下から勇敢な兵士たちを鍛えてくれって頼まれて、わざわざ来てやったらシャバ憎しかいねぇのかい?!リバの防波堤がこんなシャバい奴らでええんかの?おん?!」
「「「んだとコラァ?!??!」」」
に限る。
魔力を込め、腰に掛けている剣を素早く抜く。脅し程度にしかならないが、少しの風圧を発生させる。
剣を地面に突き刺す。
「30ちょいか…いいよ、全員かかって来な」
10に満たない、魔力の昂ぶりを感知。
《強化活性》、魔力操作は雑、効率も良いとは言えない。
奴らは訓練団で鍛錬を積んでいない、当たり前と言えば当たり前だが、少しだけこの国の底を理解した。
「死んでも恨むなやぁ!」
「殺す!」
「おめーらもヤレ!」
「「「オッス!」」」
「《羅刹…」
刹那の魔力の揺らぎ。
一つ、二つと、揺らぎ、そして五つ、六つに至る。
神髄を見た、だからこそ出来た芸当、だからこそ辿り着いた自分なりの力
魔法はイメージの世界。解釈を広げる、世界まだ見ぬ未開の広大さを残している。
「…の剣舞》」
後方に置いてきた荷物から6つの物体が飛翔していく。
それらは目の前の荒くれ者達へ襲い掛かる。
「なんだ?!」
「剣が飛んできたべ!」
《羅刹》とは魔法の剣を操り、切り裂く魔法。
その解釈を広げる。剣を操る、この一点を突き詰め、魔法の剣から実剣へと術の対象を広げた。
その威力や性能が桁違いな羅刹の剣から、実剣へと落とし込んだ事により、複数の剣の操作へと発展させた。
「オラぁビビってんじゃねぇよ!まだまだ切り刻んでねーよ!」
「「「ヒィイイ!」」」
みんな仲良くしよう。
◆
時は戻り、ウェスト・ドラガン、首都アムドラ・プラ、基地応接内にて。
「小隊の隊長ですか…」
「そうだ」
指令書に記されたのは、北部防衛統括拠点配属、そして30名程度小隊の責任者。
葉巻を豪快に吸い、そして白煙を上空に吐く隻眼の初老。
「まずは一つ、新規部隊を預ける、求めている事は一つだ、鍛えてみせろ」
歴戦の初老のを直に耳に刻んだ。
「鍛える為には…何しても良いですか?」
不意にも、不敵な笑みを零してしまう。
「ふん…好きにしろ」
煙が部屋中に充満していった。
◆
火が沈み西から冷たい風を吹く。焚火の前で騒がしく歌い踊り狂う。
「だぁお前ら!もっと飲め!」
「勘弁してくだせぇよタイチョー!もう飲めねぇっす!」
「「「ギャハハ!」」」
先ほどまで切り合っていた者同士、焚火を囲っては肩を組み、酒の一杯で親睦を深める。
挨拶はやはり人間の基本であり、挨拶《暴力》出来ない人には、誰も付いてこない。
挨拶《暴力》の後は古典的に酒で釣っていく。
暴力と餌はやはり人を懐かせるには持って来いの力だ。
改めて部隊の兵士たちを見渡す。
ヒューマン族以外には、ドワーフや獣人、魚人などの亜人も肩並べて焚火を囲う。
ウェスト・ドラガンは西の魔大陸からの侵攻を防ぐ、大陸の防波堤の役割を担っている。国民の半数は兵士であり、最果てで戦っている。
自国だけで兵士を賄うことは出来ず、他国から人材を多数受け入れ、戦力を保っている。
戦乱のこの世で、渡しても良い貴重なマンパワーなんて、そんな人材は限られている。
罪人か弱者。
ウェスト・ドラガンは来るもの拒まず、迫りくるものを追い出すのが国是だ。
人類を上手くまとめる手段は何が有効か、共通の敵を用意する事、と開拓者訓練団の座学訓練で聞いた気がする。
ヒューマンと亜人はおろか、亜人同士が仲良くやっている、という訳でもない、衝突は起きる。しかし最後には団結する。西の果てを経験し、生き延びたものは特にそうだ。
いずれ遠くない未来に、西へと向かい、戦場に向かう。
せめて、預かったこの兵士たちを、強くしてみせる、一人でも多く生き残らせてみる。
それが、ここに来た意味だ。
◆
夜更けまで飲んだとて、朝になれば訓練は始まる。
酒が抜け切っていない野郎たち。この地には働かない者に食わせる飯はない。
仕方ない部下達だ、ここは大目に見て軽く調整で行くとしよう。
「よしまずは軽く走り込み行くぞ!終わったら乱打戦に魔力欠乏症になるまで基礎魔法訓練だ」
「「「勘弁してくだせぇよタイチョー!」」」
「オラ行け!」
だらしない部下達に愛情たっぷりの励ましの言葉を送り、軽めの訓練メニューを言い渡した。
遠目に馬車が荷車を引き連れて訓練所まで向かっている。
そして、事務所の建屋から受付兼庶務の紅一点、キヤ嬢が駆け寄ってくる。
「ハイジ隊長!荷物が届いたのと、お知り合いが来ました!」
「知り合い?」
◆
「ハイジぃ!元気かぁ?!」
「ぐへっ?!」
応接室に入るや否や、力強く抱きつかれ、肋骨から出しては行けない音が聞こえた。
「…《ハートビート》…ゴードン久しぶりだね…イテテ」
「へへん!」
「お久であります!ハイジ殿!」
「あと、ウォタファー君も来たんだ」
修了式依頼、数か月ぶりに友人たちに出会う。
ゴードンは修了後、父親がマスターを務めている職人ギルドに改めて戻った。訓練団で身に着けた多様性溢れる知識を遺憾なく発揮したと聞いた。
ウォタファーは中立都市タバナンに残り、教授が指揮を執っている技術開発部で、研究を続けていた。使い魔を使用した通信技術に関してはもはや第一人者と言っても過言ではない。
しかし本人は武器や新しい技術の開発の方を希望しているらしく、いつ爆発しても可笑しくない。
アムドラ・プラにしばらく研修のようなもの受けた際に、ゴードンのギルドに部隊の装備を発注したのだ。かつてゴードンやウォタファーとも制作した数々の武具、装備を。
「あれ頼んだ装備は?数日で出来る量じゃないと思うんだけど」
「「フフフ」」
「なんだよ」
「オイラぁたちなんと…」
「なんと?」
「こちらに暫く滞在するでござる!」
つまり、設計者と作成できる職人を直接派遣したから、勝手に作ってろ、という事だ。
ゴードンとウォタファーは、リバ・アガに丁度別の依頼で滞在した所、ウェスト・ドラガンから製作依頼を受け取っていた。今から中立都市まで戻り制作を始めるより、ウェスト・ドラガンに直接向かい現地で制作した方が効率的という結論に至った。
「自由過ぎない?」




