第83話 笑い生まれる門
七夜と解散して、俺と幸伶は家に戻った。ポストを確認してみると、大量の年賀状が届いていた。
こんなところで見るなんてことはできないため、俺は無造作に放り込まれた年賀状を適当にまとめた。
家に戻ってみると、望美がいつの間にか雑煮を作っていた。
英春「案外起きれるんだな。」 望美「あ、ヒデ、幸伶、おかえり!」
幸伶「たーだいまー。」
英春「皆は起きてるのか?」
望美「まだ寝てるよ。起きないもん。」
英春「はあ…、あいつら、電源落としたのに何で寝れるんだよ…。」
幸伶「電源落としたのに…?」
望美「へえー。電源落としたの、ヒデだったんだねー。」
まずい、口を滑らせた。俺は、そそくさと台所から逃げた。後で面倒なことになるだろうが、まずは望美がこの事を忘れるまで関わらないほうがいいな…。
俺は居間に行き、未だに突っ伏している和城と疾照を揺さぶった。
…が、全然起きない。まあ、そりゃそうか。昨日、というか今日の深夜まで起きていたんだ。今の時刻が8時だから、………いや、別に変なことはない、ごく普通な睡眠時間だった。
なら、起きないほうがおかしいか。それに、そのうち朝食が完成する手前、こんな状態で放置するわけには行かないため、どうにかして起こすしかない。
俺や和城がいつも使っている布団引っ剥がしは、コタツという形状上、効果はあるだろうがほぼ意味なし…。
英春「………。」
そして、俺の目には電源がついていないテレビが写った。
そして、俺はとある作戦を思いついたが、これは俺も死ぬ。…まあ、耳がほんの少し悪くなる程度なら問題ない。
俺はテレビの電源をつけ、音量を最大にした。そこから大音量の琴と篠笛の音が部屋中に響き渡った。
英春「ぐわあああああ………。さすがに大音量作戦は無茶だったか………。」
俺は苦痛に耐えながら2人を見てみると、普通に音が原因で起きた。
和城「やめてくれよヒデ!!!ぎゃああああ!!!」
疾照「起きました!起きましたから!止めてください!」
2人も起きたし、そろそろ俺も限界が来るため、すぐさま音量をいつも通りに戻した。
和城「はーーーーっもうちょっとマシな起こし方をしてくれればいいのに…。」
英春「起きなかったから強硬手段に出た。」
疾照「あんまりですよ…。」
2人にとっては新年早々最悪な目覚めになってしまったのだが、それはまあ一旦置いておいて。
俺はいつの間にか居間にやってきた幸伶含めた4人で、大量の年賀状を整理した。
いくらこの家に5人いて、それぞれに人間関係があるとはいえ、こんなにたくさんの年賀状が来ることがあるのだろうか。最近、年賀状の売り上げが芳しくないという話は色々なところで聞いている。
…あ、そうか…。幸伶か…。あいつ、184枚書いてたんだったな…。祭りの時の射的で年賀状の束貰ってたし、本当に184人も知り合いがいるんだな…。
幸伶「えーっと、僕のお父さん、僕のお母さん、 弟、叔父さん…。」
和城「多いなあ…。」
疾照「幸伶さん…、なんでそんなに年賀状が届くんですか…?」
案の定、届いた年賀状は、そのほとんどが幸伶宛のものだった。俺に届いているのは、今のところ俺の祖父と弟だけだ。
望美「あ、年賀状!」
英春「お、料理終わったんだな。」
望美「まあね〜。あとでお雑煮食べよ!」
幸伶「お雑煮か…。」
英春「おい幸伶、ボソッと言うな。たぶん聞こえてるぞ。」
とりあえず、望美も合流し、俺たちはその大量の年賀状の整理をすることになった。
整理には15分くらいかかったかもしれない。
俺宛のは、前述した通り祖父と弟のものの他に、クラスメイトたちからのものがあった。
このあと紅葉神社で初詣なわけで、はやめに朝食を済ませておきたいところだ。まあ、餅を早食いすると詰まらせて死んでしまうわけだが…。
英春「なるほど、あんまりない味付けだな。」
望美「我が朝倉家の秘伝の味付けだからね〜。」
和城「そんな老舗の名店みたいなものがあるか…?」
疾照「ですが、確かに美味しいですよね。」
俺たちは各々配膳された雑煮を食べているわけだが、正直、まだまだ正月という雰囲気はしていない。俺自身も実感はできていないが、テレビで新年特別番組がどのチャンネルでもやってる上、遠くから鐘の音が鳴っているのが、だんだんと新年の雰囲気を彩り始めた。
…何で今の時間帯に鐘が鳴ってんだ…?
まあ、夜に鳴らすと迷惑だからな…。
望美「ごちそうさまでした〜。」
英春「…何でそんなに早食いしていたのに喉に詰まらせてないんだよ…。」
和城「それは僕も前々から気になってた。」
望美「食べ方を考えれば大丈夫だよ〜。」
幸伶「でも危ないよ!」
英春「幸伶に言われたら、まあそういうことだな…。」
疾照「それに…、そんなに早く食べたら、あんまり味わえないんじゃないですか?」
望美「………!!!!!」
英春「今気づいたんだな…。」
幸伶の物理無視の動き、望美の大食い。慣れたはずなんだが、それでもまだまだ疑問が浮かんでくる。最近は割と控えめになってきているが、それでもにじみ出るこいつららしさは、変わることはない。おそらく、数年経っても変わることはないのだろう。
望美「食器片付けてくるね〜。」
和城「はいはーい。」
幸伶「あ、テレビで初日の出の時の映像流れてるよ!」
英春「俺ら直に見たよな、初日の出…。」
俺たちが居間で相変わらず雑談していると、廊下に出ようとしていた望美が、いきなり苦しみだした。
望美「ぐ、ぐえ………!!」
幸伶「え、望美!?」
疾照「望美さん!?大丈夫ですか!?」
英春「やっぱりか!餅なんて早食いするから………。ん?」
和城「おい英春!早く救急車を…!」
英春「いや、必要ない。」
疾照「え、いやいや、英春さん!?」
全員が俺の発言に驚いているようだが、俺は見てたぞ…。望美が倒れる直前に丁寧に丼を床に置くところを。
英春「あんまりそういうのはやるな。褒められた事じゃないし、人によっては不愉快以外の何物でもないぞ。」
望美「あー、バレちゃったか。」
幸伶「……ええ…。」
疾照「心配させないでください。よくないですよ、そういうの…。」
望美「ごめん。2度とやらないよ。」
和城「まったく…。」
望美によるものすごく不快な冗談もあっさり解決し、俺たちも朝食代わりの雑煮を食べ終えた。
さて、これから初詣である。朝早くに行ったほうが混雑はしないだろう。早く準備しなければ。
…いや、追風村で混雑なんてありえねえか。
それに、コタツの電源プラグのことも、あいつらはすっかり忘れていたなあ。良き良き…。




