第84話 未来へかけて
まだ朝の9時なわけだが、俺たちは外へ出た。すぐ近くの神社である、「紅葉神社」へ初詣に行くのだ。
俺と和城、疾照はすぐに準備して玄関で待っていたのだが、幸伶と望美はまだ準備が終わらないのだと言う。
何をしているのかわからんが、上から物音がするので、何もせずぐうたらしているわけではないらしい。
…まあ、時間をかけすぎではあるのだが…。
和城「何してるんだろうな。あの2人。」
英春「服でもなくしたんじゃないか?」
疾照「まあ、なさそうでありそうですね、それ…。」
当然、玄関で暇を潰すものなんてあるわけがないので、俺たちは雑談をすることにした。
知れば知るほど謎が増す、あの紅葉神社について話してみたが、その「なんとも言えない違和感」は、和城も感じていたと言う。
和城「綺麗な神社ではある。でも、狛犬のところに紅葉の葉が置いてあるのはどうなんだって思う。」
英春「そうだよな…。未だにあの石像の意味はわかんねえし。」
疾照「案外、何の意味もないかもしれませんよ?」
英春「そうとは考えられないんだよな…。」
俺たちが雑談をはじめてはや15分。まだ2人は降りてこない。相変わらず上からは忙しなく物音がする。
それからまた5分経って、ようやく降りてきた。
英春「おいおい、遅いぞお前ら……。って、え?」
和城「…おー、そういうことか。」
疾照「なるほど…。」
幸伶と望美は、どういう風の吹きまわしか、和服を着ていた。初詣なので、というわけだろう。
…いや、手伝ってもらえよそれ…。
幸伶「どう?貴族に見えるんじゃない?」
英春「狩衣じゃねえだろそれ。」
望美「まあまあ。ほら、行こうよ神社!」
和城「遅れた原因の1人が何仕切ってんだ…。」
疾照「私も着物にすればよかった…。」
小学生のクセして無駄に格好つけるため、ロングコートを買ったわけだが、見た目だけじゃなく機能性も抜群のようだ。
全然寒くない。逆に、着物の幸伶と望美は、死ぬほど寒がっている。
…こいつら、最後まで半袖を貫いてたよな…?今更寒がるなよ…。…なんて言えるわけもなく、俺たちは降り積もっている雪を踏んで神社に向かう。
村は大晦日の時並みに活気があり、すれ違う人数も普段の倍はいる。
神社の立地が関係して、普段通りの通学をしている気分になってきたが、服装が服装なので、そういった感覚はすぐになくなった。
幸伶「ついた〜。」
英春「やっぱり人が多いなあ…。」
疾照「皆さん見てください。今日は神社の巫女さんがいますよ。」
望美「ホントだ!普段は無人なのにね。」
英春「あと少しでもっと混み始める。はやめに参拝しよう。」
俺たちは、すぐに手を清め、本殿に向かった。
真冬に水というのは、本当につらいのだが、寒すぎて手の感覚がおかしくなって、あまり冷たいとは感じなかった。
望美「お賽銭の額、皆はどうする?」
英春「5円だな。」
和城「5円。」
疾照「5円ですね。」
望美「えー、みんなつまんないなあ。」
英春「賽銭の額に面白さを求めんな。」
疾照「じゃあ、望美さんはどんな額にするんですか?」
望美「115円!良い御縁ってね!」
和城「…ふざけると思ってた僕が間違ってた。」
英春「俺も同感。どうせふざけると思ってた。」
望美「信用なさすぎ…。」
そんな感じで、本殿前で時間を使いすぎた。後ろにも待つ人がいるだろうから、早く済ませようか…。
俺たちは賽銭を投げ、鈴を鳴らすのだが、幸伶は当たり前のように財布から1000円札を取り出し、それを投げる。もう幸伶の謎のポケットマネーを見ても驚かないようになったが、そうホイホイ札を出せる経済力は、本当に謎だ。…別に、神社に1000円出すことを批判したいわけではないのだが。
幸伶「えーっと、2礼、4拍手…。」
英春「待て待て。何さり気なく出雲大社の参拝方法やってんだよ。2礼2拍手1礼だろ。」
幸伶「あれ、そうなの?」
和城「…………。」
疾照「…………。」
和城と疾照の2人は、既に願い事を心の中で思い浮かべているのだろう。
俺も願い事を……。
望美「世界三大珍味が、もう少しマシな味になりますように…。」
どんな願い事だよ…。というか、口でブツブツ言うな。…これからも、こいつらと友人でいられますように…。
幸伶「お守り買ってくる。」
英春「売ってんのか…?」
望美「売ってるみたいだね。」
幸伶は、普段は締め切られている授与所まで走っていった。なぜその格好でそこまで素早く走れるのか疑問だったが、別にそこまで変ではない。
少し時間が経って、参拝客もかなり増えてきた模様。この前の秋祭り並みに混雑してきたので、さっさとずらかりたいのだが、いつの間にか、俺と望美以外の3人が全員御守を買いに行ってしまった。かなり並んでいるようで、しばらくは待つ必要がありそうだ。
望美「ヒデはお守り買わなくていいの?」
英春「もう既にたくさんある。」
望美「えー。何個あるの。」
英春「さあ。合計はわからん。そもそも、高い…。」
望美「わかる。高いよね。まあ、仕方ないとこもあるけど。」
残された俺と望美は、神社の境内の端で雑談をした。
着物とロングコートという、どう見ても合わないコンビではあるが、まあそれは問題ない。
もっと面倒なことは、同じく初詣に来ていた知り合いの目線が明らかにこちらを向いていることだ。
付き合っているとでも思っているのだろうか。馬鹿馬鹿しい。
幸伶「おまたせい!」
和城「あんまり珍しいのは売ってなかった。」
疾照「それは言っちゃだめですよ…。」
望美「じゃあ帰ろっか!」
英春「そうだな。」
俺たちは、どんどん混んでくる神社の境内から出た。しばらく、俺たちの家の周りは活気に溢れていた。




