第82話 明けるまで
深夜の熱気も冷めはじめ、つかの間の騒々しさが消え去った。
俺たちもすぐさま家に帰り、就寝をしようとしたのだが…。当然、この家でそれは許されず、もうしばらく起きている必要も出てきてしまった。
幸伶「初日の出見よう!」
英春「黙れ。」
望美「嫌だ。」
和城「ふざけんな。」
疾照「寝ますね。」
幸伶「…………。」
幸伶の突拍子もない発言は常日頃から連発されるのだが、今回はいつもよりかは普通なことを言い出したと感じた。しかし、それは普段ならの話。
既に深夜の0時半、大晦日も終わって既に元日になってしまった。なぜこんなめでたい日に、自身の身を削って起きていなければならない。
4名全員から否定されて、幸伶は思考放棄したように突っ立っていた。
幸伶「せめてここで寝るとか…。」
英春「布団を運ぶ労力、幸伶による睡眠妨害の可能性。」
幸伶「ぐえ……。」
望美「いーやーだ。」
幸伶の提案は、ことごとく否定された。まあ、普段の行いだな…。これは…。
和城「まあ…、幸伶が、外で日の出の時間まで待つならいいけどな。」
疾照「私はもう無理です…。」
そう言って、疾照はコタツに入ったまま、寝てしまった。
英春「おい疾照、そんなところで寝るなよ…。」
疾照「今更自室に行きたくありませんよ。今日くらいいいじゃないですか。」
いつの間にか、疾照以外のメンバーもコタツの中に入って寝る態勢に入っていた。電気代が悲惨なことになりそうだが、普段から無駄遣いしているわけでもないし、これだけ真面目ぶっている俺も、正直自室まで行きたくないし、例のごとく暖房はつけていない。そのため、俺もコタツに入って寝ることにした。
望美「ちょっとヒデ、もう少し足どうにかしてよ。」
和城「ヒデの足が面積取りすぎ。」
英春「そんなことを言われてもな…。身体はどうしようもできないだろ…。」
和城「なら、ここから出てくれ。」
望美「そうだそうだー!」
疾照「お、お2人とも…。」
英春「…はー、わかった。そのかわり、どうなっても知らないからな。」
望美「どうにもならないもんねー。」
まったく、窮屈だというだけで追い出すか?普通…。相当コタツを独占したいのか…。
俺は、諦めてコタツから這い出た。いつの間にか幸伶が消えていることに気が付いたので、とりあえず2階のベランダに行くことにした。
英春「……。」
薄暗い居間から出る時、俺の目にはコタツの電源プラグが映った。そして、俺は数秒迷った末、
英春「You are 死にました。」
と、ぼそっと言い、そのプラグをコンセントから引き抜いた。じきにコタツは冷たくなる。疾照には申し訳ないが、せいぜい寒さで苦しむんだな。
俺は、あまりにも幼稚な復讐をした後、当初の通りベランダに向かった。この家のベランダは、廊下と直結しているのだが、幸伶は外には出ず、家の中から外を眺めていた。
英春「まだ1時半だぞ。まだ日の出は先だ。」
幸伶「うわッ!って、英春くんか。驚かせないでよ。」
英春「お前が勝手に驚いただけだ。俺は自室で寝る。お前はどうする気だ。まだここで粘るのか?」
幸伶「あー、僕も寝ようかな。」
そう言って、俺たちが各々の自室に向かおうとすると、下から望美の声が響いてきた。
望美「ヒデー!なんか電話かかってきたよ!七夜から!」
英春「ん?七夜から?なんだよ急に。」
幸伶「僕もついて行こうか?」
英春「別に来なくてもいい。」
俺は幸伶を適当にあしらい、受話器を外して放置してある電話に向かった。手に取って耳に当てると、無音。つないだままにしてある。
英春「もしもし。」
七夜「あ、英春くん、あけましておめでとう。さっきぶりだね。」
英春「ああ。あけましておめでとう。で、なんだ?こんな夜に電話してくるってことは、なんか特別な用があるんだろ。」
七夜「なんでそんなに的確に当てちゃうの。幸伶から初日の出見るって言ってたから、いつもの5人みんなで起きてるのかなって。できれば、私も混ぜてよ。」
その言葉を聞いて数秒、俺は沈黙した。別に俺は初日の出を見る気はない。まだ寝れてはないが、コタツ睡眠をしている3人も起きるつもりはないのだろう。
…まあ、だが、意味の分からないことに付き合うのもまた一興なのかもしれない。
英春「わかった。俺と幸伶以外は寝てしまった。どうする。」
七夜「いつもの公園はどう?案外日の出鑑賞するなら最適だよ。」
英春「わかった。すぐそこへ向かう。」
俺は受話器を元に戻した。そして、すぐさま幸伶のもとへ戻った。
幸伶「あ、英春くん、どんな話だった?」
英春「七夜が一緒に初日の出を見たいんだと。あの公園に行くぞ。」
幸伶「はーい。」
時刻は1時45分。本来は小学生が外を歩いていてよい時間ではないのだが、別に家に保護者がいるわけじゃないし、そもそもこんな小さい村で何かが起きればすぐにうわさが広まる。いいように考えがちだが、案外この村はそういうものなのだ。
雪が大量に積もっているなか、立って待っていると、すぐに七夜はやってきた。
七夜「おはよう。あと、あけましておめでとう。」
幸伶「おけましてあぬでとう!」
英春「年賀状の誤字を再現するな。」
七夜「それにしても寒いね…。」
俺たちはしばらく雪の中で突っ立って、雑談をしていた。しかし、極寒の中で立ちっぱなしというのは非常に大変で、すぐに限界が来た。
英春「もう無理だな…。幸伶。」
幸伶「なに。」
英春「クリスマス会のときに見せた謎のかまくら製造技術をもう1度やってくれ。」
幸伶「伊佐雑務(株)におまかせあれ~!」
そう言って、幸伶はまたもや素手で雪をつかみ、かまくらを作り始めた。こいつ、前までは素手で雪を触れてなかったのに、いつの間にか適応していた。いや、本来は素手で雪をつかむのを苦としないほうがおかしいのだが…。
七夜「理解はしてたけど、やっぱり幸伶はすごいね…。」
英春「こういう行動の速さは評価したいが、他が悪すぎて相殺しきれてないんだよな…。」
俺と七夜が雑談をしている間に、幸伶は3人が入れるかまくらを完成させていた。
俺はいったん家に戻り、使っていなかった灯油ストーブを持ち出してかまくら内を温めた。
英春「日の出まであと1時間。寝ないようにしないとな。」
幸伶「なんか外が騒がしいね。」
七夜「この公園、他にも日の出を見に来る人が来るんだよね。」
英春「公園の片隅にかまくら作ってよかったな。」
そうして、俺たちだけが暖かく時間を過ごす中、とうとう東の空が明るくなり始めた。夜が明ける。俺たちはかまくらを解体して…、解体…。
英春「おい幸伶!なんでこのかまくら壊れねえんだよ!」
幸伶「特殊な工法を使ったからね。簡単には壊れないよ。」
七夜「何その謎技術…。」
幸伶「ここを叩けば…。」
そう言って、幸伶は入り口の一部を強くたたいた。すると、かまくらが一気に音を立てて崩れ始めた。周りにいる人たちは巻き込まれてはいないようだが、雪が舞うので視界が非常に悪い。
本当に、この男は馬鹿なのか天才なのかよくわからない。
こんなやり取りをしているうちに、日が昇ってしまった。
望美「な、なんか寒くない…?」
和城「た、確かにな…。」
疾照「どうしてなんでしょうか…。コタツがついてるはずなのに…。…コンセントが外れてます…。」
望美「……へくしっ」




