第81話 深夜、最後の30分
俺たちは素朗に引き連れられて、そのまま追風村の村役場に向かった。
村役場なんて、それこそ4月の時に少しだけ訪れたことがある程度なため、「あれ、こんな建物だったっけ」状態に陥っている。そもそも、役場の近くに来るなんてことは滅多にないからな。クラスメイトの家があるわけでもないし、面白い遊び場があるわけでもないからだ。
幸伶「結構人が集まってるんだね。」
瑞穂「追風村東部の人はほぼ皆来てるはずだぜ。飛行地区からわざわざ車走らせるなり、バスに乗るなりして来る人もいるわけだからな。」
望美「そんなメインイベントなら、もっと前から教えてくれてもよかったのに。」
幾斗「すぐに教えたらTSUMARANだろ?」
英春「物は言いようだな。」
しかし、瑞穂の言った通りで、人口100人とちょっとしかいないような村なのに、見た感じ80~90人はいてもおかしくないほどの規模の集まりができている。
今の時刻は深夜の23時。もうかなり夜も更けたというのに、これだけ人が集まるというのか。
和城「まだ1時間もあるのに、これから何するんだ?」
素朗「まあ、いろんな催しがあるんだよ。カウントダウンイベントとは言っても、実際は深夜のお祭りみたいなものだからさ。」
疾照「この村、まだ知らないことがたくさんありそうですね…。」
素朗「まあいいや。とりあえず4年い組のメンバーで集まろう。」
望美「そうだね。」
素朗いわく、山奥の村だから、どれだけ大きな音を出しても別の市町村から文句は言われないし、住民にも事前通達して、反対意見が出れば音を抑えるなど、割と行き当たりばったりな祭りというわけでもないらしい。
そんなこんなで、役場前の広場を右往左往していると、虎彦、剣蔵、鍛郎、優来の4人と合流した。
虎彦「よう!やっぱり連れてこられたんだな。」
英春「やっぱりって…。お前は俺らを何だと思ってんだ。」
剣蔵「そうかっかすんな。祭りだぜ?」
幸伶「英春くんはそんなにすぐ怒るようなことはしないと思うけど。」
鍛郎「結局、今年も開催されてしまったな。」
優来「だね…。」
疾照「というと?」
鍛郎「いやね、僕と優来はこの催しには反対派なんだよ。」
幸伶「ええ!?なんで。」
優来「単純な話だよ。うるさすぎるんだよね。」
和城「ああ、なるほどね。」
そもそも、この追風村は山奥だからこそ、静かで美しい景観と治安が保たれているのである。それを祭りだからと言って静けさを破壊、それも深夜にされたら、たまったものじゃないだろう。
俺だってそう思う。寝てるときに遠くから爆音が聞こえてきたら、そりゃあ不快にもなる。
しかし、そうだと言って、なぜ鍛郎と優来はこの催しに参加しているのだろうか。幾斗や瑞穂あたりに連れ出されたか、仲の良い凌貴あたりに誘われたのか。
まあ、なんでもよい。それは、俺の参加の合否には一切関係ないわけだからな。
望美「あとは凌貴と七夜だけだね。」
英春「歩いてれば、案外見つかるんじゃないか?」
幸伶「そうだね!行ってみよう!」
素朗「すごい、一瞬で見つかったね…。」
凌貴「そうだね…。」
なんということか、捜索開始後わずか1分足らずで、4年い組のメンバー14人が集まった。さすがにこの規模ならすぐに見つかるか…。
虎彦「そうこうしてるうちに、もう残り30分で2021年だ。」
剣蔵「そんなに時間たってたっけ。」
七夜「そういうものだよ。時間っていうのはね。」
素朗「てことは、そろそろ”アレ”が始まる時間じゃない?」
幾斗「おお、AREだな?」
瑞穂「もうアレの時間か。」
鍛郎「ああ、アレか。」
英春「…お前らちゃんとアレが何か理解してんのか?」
素朗「し、失礼な!わかってるよ。」
瑞穂「そうだそうだ!」
幾斗「そういうOMAEは理解してんのか!?HIDEHARU!」
英春「いや、俺今年ここに来たばかりだからわかるわけねえだろ。」
瑞穂「そりゃそうだ。」
後で確認してみたのだが、前から追風村に住んでいたメンバーが言う”アレ”とは、追風中学校吹奏楽部のミニ演奏会のことだった。正しく認識していたのは素朗、鍛郎、凌貴、七夜で、瑞穂は大食い大会、幾斗はラップバトル、優来は枯葉集め大会だと思っていたらしい。かすってすらいねえ…。何もかも違うじゃねえか…。
せっかくなら聞きに行こうということで、俺たちはその会場へ急行した。
澄晴「おお、英春!」
博斗「やあ皆。久しぶりだね。」
英春「あ、澄晴くんたち。ひさしぶり。」
幸伶「この前ぶりだね。」
疾照「あれ、幸伶さん最近会ったんですか?」
幕奈「まあ、私的にね。」
琴徹「今日は8人だけか。」
望美「そう。私たち以外は聞かないってさ。」
吹奏楽部の演奏を聴きに来たのは、俺たち同居メンバー5人と、素朗、瑞穂、幾斗の3人の合計8人。他のメンバーは「音楽に興味がない」だの、「他に見たいところがある」だので、離脱していった。まあ、こればかりは仕方がない。
幸伶「吹奏楽部の演奏なんて初めて聴くから楽しみ。」
澄晴「なら、しっかり聴いてけよ!なんせ、実那も演奏に参加してるからな。」
和城「実那さんが。あの人吹奏楽部員だったのか。」
英春「どうりで人が少ないわけだ。」
敏「まあ、あと金座も吹奏楽部だから。」
疾照「あの人も…。なんか、想像つきませんね…。」
望美「意外な人が意外なことやってるんだね…。」
博斗「さ、そろそろ始まるよ。席に着こうか。」
2020年も残り30分と言ったところで、追風中学校吹奏楽部の演奏会がはじまった。
最初は追風小学校校歌と追風中学校校歌が演奏される。まあ、これは自然だな。しかし、その先はどんどん酷くなっていく。
この2曲の次は、昭和期の演歌、演歌、演歌…。はっきり言って、曲を知らない俺たち子供世代にとっては、すごく退屈な時間だった。
舞台に上がってる演奏者の中に、トロンボーンを手に持って混ざっている実那さんと、打楽器を叩いている金座くんも、すごく退屈そう…。
博斗「うーん、これは……。」
澄晴「つまんね。」
幕奈「言うなアホ。」
森三郎「…わかりやすいですな…。皆の態度も…。」
林次郎「ま、まあね…。どう思うよ、兄さん。」
木太郎「子供お断りだったかの、ここは。」
…どうやら、中学生の皆さんにも、受けはあまりよろしくないようで…。
幸伶は寝かけてるし、望美は地面の砂に絵を描き始めたし、和城は、空の星を眺め始めたし、俺は俺で、演奏にあまり集中できなかった。
まあ、それもポップス曲が流れ出すと、空気感がガラッと変わった訳だが。興味ないとかほざいていた虎彦や剣蔵、凌貴たちも、音につられてやってきた。
英春「やっぱり来たじゃねえか。」
凌貴「ごめんよ。最近流行りの曲が遠くから流れたら、そりゃあ気になるじゃないか。」
鍛郎「そうさ。まあいいじゃないか。結局14人そろったんだからな。」
優来「うわ見てよ!また雪が降り出したよ。」
虎彦「"優来"だけにってか?」
英春「前も聞いたぞ、そのギャグ。」
いつの間にか何分も経ち、役場前の広場に戻ってみると、すでにタイマーが設置されており、2020年残り時間5分を示していた。
幸伶「うわー、色々あったけど、とうとう2020年も終わっちゃうのかー。」
望美「本当に色々あったよね。」
和城「僕ら同居メンバー5人の出会い、追風村への移住。」
疾照「クラスの皆さんと仲良くなり、虎彦さんと剣蔵さんが引っ越してきて。」
素朗「すぐに夏が来て、白熱した運動会があって。」
瑞穂「8人で伊良湖の海行ったよな。」
幾斗「すぐに祭りのJUNBIがはじまって。」
凌貴「みんなで鳳来寺に登って。」
虎彦「中秋の名月も!」
優来「みんなで秋の食狩りしたり。」
鍛郎「祭りの出し物は大成功。」
剣蔵「まさかあのタマゴンとまめめんが人気出るとはな。」
英春「すぐに冬が来て、当たり前の日常の1コマがたくさん重なり、今がある。」
七夜「楽しかったよね。雪合戦。」
幸伶「英春くんも変わったよね。最初の頃はあんなに人嫌いだったのに。」
英春「お前は俺の保護者面すんじゃねえよ。…何はともあれ、3月まであと3ヶ月。この村の生活、楽しむぞ!」
14人「おおおおおおお!!」
そして、タイマーの秒数が減り、ついに数字が0になった。2021年が、やってきたのだ。
幸伶「明けましたああああああああ!!」
英春「そこは"明けましておめでとう"だろうが!!」




