第80話 最後で花開く
家全体の掃除をしているだけで、数時間が経った。もうすでに日は傾いていて、今年が終わりかける。
和城と疾照はどこかへ行ってしまったため、夕食は俺と望美に一任されることとなった。
望美「せっかくなら、晩御飯は年越しそばにしようよ。」
英春「そばか。あったっけな…。」
幸伶「ここにあるよ!」
英春「幸伶、お前いつからそこにいたんだよ…。あと、それ和城が育ててた冬蕎麦じゃねえか。」
いつの間にか、台所に怪異料理生成器こと幸伶が現れた。そして、やつの手には蕎麦の実がたくさん入った袋を持っていた。
望美「それをどうするつもりなの?」
幸伶「え、ゆでるか炊くんじゃないの?」
望美「あ、幸伶のことだから、石臼でひいて1から作り出すかと思った。」
英春「お前…、料理は死ぬほどできないのに、調理法は知ってんだな…。」
幸伶「本当は上手くなりたいんだよね。料理。」
そのとき、俺と望美はお互い目を合わせ、うなずいた。意見は一致したはずだろう。
英春「幸伶、今からお前に料理を教える。」
幸伶「え、教えてくれるの!?」
望美「私とヒデの指示以外のことは絶対にやらないって約束するならね。」
幸伶「するする!」
英春「そうか。なら、まずはその手にある蕎麦の実を元の場所に戻して来い。」
幸伶「は~い。」
俺がすぐさま指示すると、幸伶はすぐさま廊下に出て行った。
…あそこまで気分がよくなるだろうか。確かに料理は楽しいが、それはある程度自分でできるようになった後の副産物であり、最初のうちは別に楽しいとは思えなかった。
あいつの場合、ただ単純に”何かを作り出す”のが好きなのだろうか。
何でもいいや。あいつの人を死に追いやる劇物料理が2度と作られなくなるなら。
英春「絶対に折るなよ。ゆっくり入れて行け。」
幸伶「はい!」
望美「ゆで上がったらしっかり水切ってね。」
幸伶「硬さは?」
英春「お前の好み、と言いたいところだが、今回は俺が指示する。そろそろ火を切るぞ。」
調理を開始して10数分。今のところ幸伶の劇物化は起きない。それにしても、乾麺すら満足にゆでられないとは。俺がそばにいないと、何をしでかすかわからない。
俺が幸伶に指示している間、望美はスープ作りだ。まあこちらは安心だな。望美の味のセンスは確実だからな。
幸伶「英春くん、水切りしたよ。ここからどうする?」
英春「一旦ここに置いとけ。望美、スープはできたか?」
望美「できたよ!具材も完璧。」
英春「よし、幸伶、丼を5つ出してきてくれ。」
幸伶「はい。」
俺たちがそうやって夕食の準備をしていると、どこかに行っていた和城と疾照が帰ってきた。玄関の少し重たい扉が開く音がした。
ちょうど俺たちも人数分の年越しそばが完成した。あとはこれらを持っていくだけだ。
和城「ただいま。お、今日はそばか~。」
疾照「いや、あの、なぜ幸伶さんが台所にいるんですかね…。」
和城「あ、え、本当だ…。」
帰ってきた2人は、幸伶が台所にいることに対して不信感を抱いているらしい。幸伶も、少しばかり焦っている。さすがに俺も助け船を出した。
英春「このそばは、幸伶が作った。」
疾照「…え?」
和城「…嘘はつくもんじゃないぞ。」
望美「嘘じゃないよ。本当に幸伶が作ったんだよ?」
さすがに普段料理をしている俺たち2人から言われてしまっては、納得するしかなかったのだろう。和城と疾照は心底驚いた顔をしていた。
幸伶「教えてもらったら何とかなるんだね。2度と自分ひとりで料理なんてしないよ。」
和城「はえー、まさか幸伶が…。」
英春「俺と望美が手助けしたからな。よっぽど食える代物だぞ。」
望美「ささ、早く食べよ!これからカウントダウンイベントにも行くんでしょ?」
幸伶「あ、そうだった!!」
英春「あー…、思い出しやがったか…。」
時刻は18時。夕飯の時間にはもってこいといえる。俺たちは各々そばを居間へ持ち出し、すぐにいただく。
疾照「何かテレビでも見ますか?」
英春「何か面白いのあったっけ…。」
幸伶「適当にポトポトってボタン押せば面白いのやってるでしょ。」
和城「ボタン押す擬音が”ポトポト”…?」
幸伶はテレビの台に置いてあるリモコンを手に取り、手あたり次第チャンネルを変え始めた。しかし、特に面白いと感じた番組もなく、新聞に掲載されている番組表も、擁護した言い方をすれば保守的、悪く言えばつまらない文字が並んでいるため、結局テレビの電源を消した。
疾照「テレビもつまらなくなりましたね。」
英春「そんなことが言えるほどお前は長生きしてねえだろ。」
和城「にしても、うまい。よくできている。」
望美「まあね。私たちが補助したからね。」
英春「今はお前の出る幕じゃねえよ。」
こんな雰囲気で、いつも通りといえば噓になるかもしれないが、暖かい空気感がそこに流れていた。
夕飯も食べ終わり、あとは事前に約束していた時間に素朗が来るだけ。
普段は夕食が終わったら、料理当番の日以外はすぐさま自室にこもる俺も、さすがに居間で待機していた。いつの間にか雪が降り始め、ただでさえ寒い冬の夜を、より寒く、より彩る。
そして、各々風呂だの歯磨きだのをすませ、時刻が20時になったとき、家のインターホンが鳴り響いた。




