第77話 白き夜の変
英春「…この辺にしとくか。って、もう10時じゃねえか…。」
俺は、今日のやることを全て終わらせた後、自室に戻っていつも通り読書をしていた。
幸伶からもらった小説が予想以上に面白かったために、時間なんて気にせず読み進めていたら、夜の10時になってしまっていた。
もう他の人は寝ているだろうな。
英春「寝る前にトイレ行っておこうかな…。」
そう言い、俺は自室から出て1階へ降りた。
すると、こんな時間ならついているわけがないのに、居間の明かりがついていた。
誰かがつけっぱなしにしたのか、誰かがいるのか…。
俺は、ほんの少し開いていたふすまの隙間に手をかけ、少しずつ開けた。
すると、そこにいたのは幸伶だった。そして、幸伶の前には謎の針葉樹の苗木…。これは、今までの幸伶の奇行とは別方向だ。これまで、声だったり動きだったり、とにかくうるさかったのが幸伶だが、今回は微動だにしない。それがすごく不気味だ。
だが、さすがに気になるので、俺は幸伶に声をかけた。
英春「おい幸伶。何してんだ。」
幸伶「え!?あ、英春くんか。ビビった〜。」
英春「いや、俺の方も結構驚いたんだが…。何してんだよ。こんなところに植木も置いて。汚してないだろうな?」
幸伶「汚してないよ。これはね、ある検証をしてるんだ。」
英春「検証?」
幸伶の口から出たとは思えないその言葉を聞いて、俺はとっさに聞き返した。それに、ただ木を置いているだけだろう?何を検証するというのか。
幸伶「今ね、サンタが来るのを目撃しようとしてるんだ。」
英春「…は?え?サンタ…?」
幸伶「うん。サンタ。」
英春「サンタって、あれだろ?クリスマスイブの夜に、空を飛び回って子供にプレゼントを渡すあの、空想上の人だろ?」
幸伶「いいや!サンタはいるよ!い゙る゙ん゙だよ゙!!」
英春「幸伶、涙目になってるぞ。本当はいないこと、わかってたんじゃないか?」
幸伶「…そうだけど、いないってこともこの目で確かめてみない?いいでしょ?どうせ明日も休みなんだから。」
英春「休みではあるが、お前宿題やってないじゃん。宿題の量、これまでにないくらい少ないぞ?」
幸伶「えーっと、それはあとでやるよ…。」
英春「冬休み明けも"あと"に含めるのか?」
俺と幸伶が無駄な会話をしていると、疾照も降りてきた。うるさかったのだろうか。
疾照「面白そうなお話をしているので、起きちゃいましたよ。」
幸伶「あ、疾照!疾照はサンタがいると思う?」
疾照「いませんよ。」
幸伶「ええーーー!!そんなきっぱり言うの!?」
疾照「よく考えてみてください。この東三河地域だけで、何人の子供がいると思いますか?」
英春「…詳細は知らないが、海岸部の市町村は人口がそれなりにいるからな。全員集めたら結構な人数になると思うぞ。」
疾照「はい。仮に子供の人数が10万人だとしましょう。子供1人に贈るプレゼントの重量を1キロとすると、単純計算で10万キロですよね。だいたいそれは100トンですから、シロナガスクジラとか、大型航空機並みの重さです。これを簡素な木製のソリが耐えられるわけがありませんとね。」
幸伶「英春くん理解できてる?」
英春「まだ何とかな…。」
疾照「続けますよ。1頭のトナカイが引っ張ることのできる重量は、せいぜい130キロです。ソリがだいたい8キロなので、これに10万キロと、サンタ自身の重量、まあ、80キロとしましょう。これを加えます。計算すると、これらを引っ張るために必要なトナカイの頭数は、最低770頭です。それに、」
幸伶「ねえまだあるのお…?!」
英春「…その辺にしとけ、疾照…。読者が離れる…。」
幸伶「何のこと…?」
英春「…こちら側のことだ…。」
疾照「もう少しだけ話させてくださいよ。いいですか?この旅客機みたいなのが、1日で10万人の子供の家に入ってプレゼントを配るんですよ?時間がありませんよね。子供が全員寝静まったのが10時、1番早い子が起きるのが6時だとすると、8時間しかかけられないんですよね。1人の子供にかけられる時間は、おおよそ0.0048分、つまり0.288秒です。どうやって配るんですか?これでサンタがいないことの証明を終わります。まあ、これは私のガバガバ計算による結果なので、正確性はありませんけどね。」
英春「…お前の証明で、時間ほとんど使っちまったぞ。」
幸伶「あいうえお、かきくけこ、さしすせそ!!」
英春「ああ、脳の処理が追い付かなくて、幸伶がアホの子に…。」
いつの間にか、時間もかなり経ってしまった。さすがにただただ用を足しに来たために降りてきたので、眠くて仕方がない。それは疾照も同じらしい。
幸伶を連れて、部屋に戻ろうとしたその時、疾照が外を眺めていることに気が付いた。
英春「…おい疾照、どうした?」
疾照「いや、今、外に変なものが映ったような…。」
英春「外…?」
俺も外を覗いてみるも、特に何も異変はないように見える。いつも通り、真っ暗な夜が広がっているだけだ。そして、俺はようやく疾照が抱いていた疑問を理解した。
外に、街灯の明かりが見える中に、緑や、赤、黄色などの明かりが見えるのだ。
英春「なんだ今の…?」
疾照「さ、さあ…。何なんでしょうね…。」
幸伶「サンタだ!!」
英春「うわッ!戻ってきたのか…。って、だからサンタはいないって。」
いつの間にか、幸伶が復活していた。本当、いつも回復だけは早いな…。
幸伶「わからないよ?見に行ってみようよ!」
英春「馬鹿かお前。」
疾照「幸伶さん…、それはよくないですよ…。」
だが、幸伶は俺たちの忠告を聞かずに玄関に向かった。ドアにストッパーをかけたので、誰かがいても家の中に入れないようにはなっているが…。
さて、外に何がいるんだ…。
幸伶がそっとドアを開けると、家のポストの中に人が立っていた。その人の服装は、赤や白。さらに、なんか小さめではあるが、袋も持っている。ま、まさか…?いや、そんなわけないだろ…!?
それは、疾照も同じように考えていたらしい。
俺と疾照は目を凝らして、その人物を見た。
英春幸伶疾照「す、澄晴くん!?」
澄晴「うぇ!?はあ!?なんでお前ら起きてんだよ!!」
そう、その人物は、サンタに扮した福井澄晴その人だったのだ。いや、なんで…??
俺と疾照の目が点になってるところに、幸伶が澄晴くんに質問していた。
幸伶「澄晴くんって、サンタなの…?」
澄晴「ああ。追風村公式のサンタのうちの1人だな。中学生以上なら、誰でも参加できる。小学生以下の子供たちの家に、ささやかな贈り物を贈るのが、俺たちの役目なのさ。このことは内緒にな。みんなの夢を壊すわけにはいかん。じゃあ、元気でいろよ!お前ら!」
澄晴くんは、ぺらぺらと事の真相を話して、わが家を後にした。…あの光の正体は、澄晴くんだったか…。澄晴くんの袋には、3色の発光ダイオードがついていた。
疾照「…ある意味、サンタは実在するんですね…。」
英春「いるにはいるな…。あんまり見た目上の素敵さはないけど…。」




