第76話 星巡れ僅かなひと時
夕暮れが近づいてくるなか、少しずつ夕食の準備も終わり始める。幸伶と和城は…、うーん、和城には申し訳ないがあまり役に立たないので、雪かきをしに行かせた。
正午から夕方にかけてのどこかしらのタイミングで、幸伶だか望美だかが素朗、幾斗、瑞穂の3人を無断に呼んだので、玄関周りくらいは掃除しないといけないので、2人に任せたのだ。
望美「ヒデ、もうフライドチキンは運んである?」
英春「ああ。とりあえず、皿に盛りつけたやつは全部運んだ。」
疾照「じゃあ、あとは飲み物だけですね。望美さん、手が開いたら冷蔵庫から人数分取り出しておいてくださいね。」
望美「はいはーい。」
2人がこんな会話をしている中、俺はこっそりと疾照、和城、幸伶の分のプレゼントのクッキー袋と、その余りを持ち出した。素朗たち3人がやってくるため、渡すプレゼントの数も増える。まったく、無駄に多めに作っておいてよかった…。
そうして、俺は今度は1階の物置(缶詰だのレトルト食品だのが置いてある場所)に隠しておいた。
準備が終わって少しすると、突然インターホンが鳴り響いた。普段は俺が見てくるのだが、今回は呼び出した張本人の望美に行かせた。
まあ、十中八九あの3人だろうな。
疾照「…そういえば、幸伶さんと和城さん、戻ってきませんね…。」
英春「ん…?…確かにな。…どうせ冷凍保存されてるんだろ?」
疾照「人間って冷凍保存できるんですか…?」
英春「…まあ、前例があるからな…。」
俺は、以前の虎彦冷凍保存事件のことを思い出しながら、厚着して庭に出た。
英春「…はああああああ!?」
縁側のガラス障子を開けると、目の前にはやたら立派なかまくらができていた。
英春「な、なんでかまくらができてんだよ!!」
俺がいつも通り驚いていると、中から幸伶の声が聞こえてきた。
幸伶「あ、英春く〜ん?中においでよ暖かいよ〜?」
英春「うん、すごいけど、飯の時間だから、はよ出てこい!」
俺は雪でできた壁に向かって大声で訴えかけた。
にしても、よくこんなのこしらえたな…。
少しすると、入り口から漏れていた橙の明かりが消え、中から幸伶と和城が出てきた。
英春「雪かきしてねえじゃねえか。ほら、早く入れ。みんな待ってるぞ。」
和城「すまなかったな。」
幸伶「ご飯だご飯だ〜!!」
俺は、2人が入ったことを確認して、ガラス障子を閉めた。
居間に戻ると、すでに素朗たち3人も含めた5人が席について待っていた。
英春「お待たせ。よく来たな。」
幾斗「とにかくSAMUKATTAぜ。」
瑞穂「あ〜コタツ最高〜!」
望美「とにかく早くしようよ…。お腹すいたよ…。」
疾照「すごいですよ。望美さんが我慢できてるんです。」
和城「本当だ…。」
素朗「でもさ、さっきからすごいお腹の音立ててるよね…。」
望美「ちょッそれは言わないって約束じゃ…。」
その瞬間、居間に爆発音とも、楽器のドラを鳴らしたような音が鳴り響いた。…これが、望美の腹の音……??
英春「爆発音じゃねえか…。」
幸伶「うんうん、そうだよ。」
英春「幸伶、お前はまだ待て。すぐ食べだすんじゃねえ。ほら、みんなあいさつして。」
半分呆れかかった俺の心境を察してくれたのか、素朗や疾照、和城に続き、皆があいさつして、各々食事をはじめた。
望美「ねえヒデ!お刺身ばっかり食べないでよ!!」
英春「安心しろ。俺は少食だからそんなに食わん。というか、お前が言うな。」
幸伶「たひかにほうだぬぇ。のぼみよふなひよ。」
和城「汚いな…。飲み込んでから喋ったら…?」
素朗「うん……。そうだよ…?」
瑞穂「まあでも、確かに望美が言えたことではないな。」
望美「え、あの、私の味方は……?」
疾照「望美さん、今回ばかりは味方がいないですよ。あなた、これまで何度も食事関係で問題起こしてるじゃないですか。」
幾斗「いろいろとOMOITARUなあ。」
英春「そうだな。月見団子に日々の夕食、鳳来寺の五平餅に、伊良湖のバイキングとかな。」
望美「反省してるから心の傷えぐらないでよ…。」
英春「…申し訳ない…。」
しばらくは、そうして笑いながら食事を楽しんでいたが、唐突に幸伶が2階へ行った。すぐに戻ってきた幸伶の手には、いくつもの紙袋が握られていた。
幸伶「みんなにクリスマスプレゼントを渡しまーす。素朗たちはまた明日ね。」
瑞穂「えー、なんでだよ…。」
素朗「急に来ちゃったもんね…。しょうがないね。もらえるだけありがたいよ。」
幾斗「うーん、ITASHIKATANASHI…。」
幸伶は、それぞれの袋の中を確認しながら、俺たち同居メンバーに手渡していく。
幸伶「まず、望美にはみかんといちごの詰め合わせね。」
英春「一発目からなんか奇抜じゃないか…?」
和城「まあ、望美だから…、喜ぶんじゃない?」
望美「うわ〜おいしそう嬉しい〜!!」
幸伶「疾照には自分で作るジオラマセットね。」
素朗「え!?疾照ってジオラマ作るの!?」
疾照「ええ、まあ。家に何作品かあります。これ、作りごたえがありそうですね。ありがとうございます!」
幸伶「和城には実物元素周期表だよ。ヤバいヤツ全部本物の物質らしいよ。」
和城「ええこんな高級そうなものを…。」
英春「なんだこれ。普通の周期表じゃないのか?」
周期表といえば、全ての元素を周期的に載せた表で、縦列はその元素の性質、横列は元素の重さ順になっている。もちろん縦列に並ぶ元素は似た反応をする。…まあ、中学生くらいなら、説明なしにも理解はできるであろう。
和城「これは、表の部分に実際に本物の物質が入ってるんだ。気体の物質もちゃんとね。流石に放射性物質は入ってないけど。」
英春「まあ、入ってたら死ぬもんなあ…。」
そうやって、みんなプレゼントをもらっていった。そして、とうとう俺の番である。
幸伶「英春くんには、これだよ。」
そうやって幸伶に手渡された袋の中を覗いてみた。が、次の瞬間俺は、驚天した。
英春「これ、雷人五郎先生の鉄道サスペンス小説じゃねえか。めったに売ってないのに、どうやって見つけたんだよ!」
幸伶「いや〜本屋に偶然あったからね。全巻買ってきたよ。」
英春「ぜ、全巻!?1冊この厚さで10巻はあるのに!?」
望美「毎回思うけど、幸伶の財力どうなってんの…??」
和城「確かに…。これも高かったろうにね…。」
とても驚いたことには変わりないが、それでも嬉しいものは嬉しい。俺たちは、しっかりと幸伶に感謝をし、他のメンバーも、それぞれプレゼントを渡し合った。
それから1時間。片付けを終えると、素朗たちは帰っていった。そして、俺は現在、風呂に入っている。
英春「あ〜、日本人でよかったなあ…心の底から風呂を楽しめるんだからな…。」
疾照「英春さん、前も同じ事言ってませんでした?」
英春「いたのかよ。」
俺が独り言をつぶやいてると、扉越しに疾照の声が聞こえてきた。そろそろ出たいから、どいてもらいたいんだけどなあ…。
結局、そのあと30分くらいは風呂から出られなかったとさ。そして、クリスマスイブも、終わっていく。




