第73話 煮よ過去を
山の中の村に降る雪というのは、恐ろしくも情緒があり、外からやってきた人間にとっては美しく見える。
ただし、ここに住んでいる人間にとっては厄介な代物だ。
英春「うう…、背中が痛い…。」
幸伶「ひどいよ英春くん。全員総出で雪かきなんてさ。」
和城「…まあ、外に出れんのは困るよなあ…。」
望美「疲れたあ…。ヒデ〜もう十分雪もどかせたんじゃない?」
疾照「そうですよ。もう十分ではないでしょうか?」
英春「それもそうだな。よし、解散だ。みんなありがとうな。」
俺がそう言うと、みんなすぐさま家の中に戻っていった。
いやはや、雪かきも実際にすると本当に大変だな。
英春「うう寒ッ!俺も早く戻ろう。」
今日の当番は、料理:望美、洗濯:疾照、掃除:俺だ。
我が家の庭師である和城は、雪のせいで何もできないから、何もしないのだという。
俺は、マスクに掃除機と雑巾という完全装備で幸伶の部屋に向かった。
幸伶の部屋にまともに入ったのは10月だか11月以来。
その時に既に小汚かった幸伶の部屋が、現在どうなってるのか、想像がつかない。
が、それを放置して幸伶が病気にかかり、それを看病することや、無駄な虫退治が面倒なため、意を決して、俺は幸伶の部屋に入った。
英春「幸伶、掃除のお時間だ。すぐここを離れろ。」
幸伶「ちょ、ちょっと待って!もうちょっと!」
英春「……お前、何してんだ…?こんなところで…。」
幸伶「え?何が?」
やはり、幸伶の部屋はゴミ屋敷数歩手前と言えるほど汚かったが、なぜか部屋の真ん中に謎の空間ができており、そこにはガスコンロ、そして鍋が置いてあった。
…今までの奇行に比べれば何億倍もマシに見えるが、それでも奇行であることには変わりない。
英春「鍋とガスコンロは一旦見なかったことにする。が、何を煮てるんだ。」
幸伶「え、お米炊いてる。」
英春「ああなるほど…。って、その鍋で米炊いてんの!?それ明らかにおでん用のだよな!?」
幸伶「下にあった土鍋はいつも使ってるだろうから、持ってったら怒られるかなって思ってさ。」
英春「いや、米勝手に使うなよ…。」
幸伶「あ…、確かに…。ごめん。」
幸伶の目の前にある鍋からは、湯気が出ている。おそらく、蒸らしの工程に入っているのだろう。この蒸らしが何かわからない人は、ぜひとも調べてみてくれ。それか普段から土鍋で米を炊く人に聞いてみるといい。
って、そんなことはどうでもよくて、とりあえずこれはどうしようもないな…。
英春「…というか、これちゃんと作れんのか?」
幸伶「できるよ!ほら!開ければおいしそうなお米が…!」
英春「え、お前、今蒸らしの段階じゃないのかよ!?開けていいのか!?」
幸伶「あ!やっちゃった!!」
英春「閉めろ閉めろ!すぐ!」
俺はすぐさま幸伶が手に持っているフタを鍋に押し付けた。
英春「うわああああああ熱いいいいいい!!!」
幸伶「ひ、英春くん!すぐに冷まさないと!!」
何とバカなことか、俺は自ら火傷をしに行った。
その後、俺は望美に水の無駄使いだからと、庭に積もっている雪に手を突っ込むことになった。
和城「…おいヒデ、何してんだ。」
英春「黙っとけ。」
あっという間に1日が終わろうとしている。いつの間にか、俺たちはこうしてコタツに座り、雑談しながら望美が夕食を持ってくるのを待っていた。
…あ、そういえば、俺があのあとちゃんと掃除をしたのか、説明していなかったな。もちろんやった。以上。
望美「みんな〜持ってきたよ〜。」
和城「おお。鍋か。」
疾照「いいですね、お鍋。冬といえばこれとグラタンが食べたくなりますよね〜。」
英春「ん?この鍋、午前中に幸伶が米炊くのに使ってなかったか?」
望美が鍋敷きを用意しておくよう言っていたが、やはり鍋だった。そして、その鍋は大きさ、柄、形状全てが幸伶のそれと同一、いや、実際に同一のものだった。
望美「まあね。せっかく幸伶くんが引っ張り出してくれたんだもんね〜。洗うの大変だったしね〜。」
望美はチラチラと幸伶のほうを睨んでいた。対して、幸伶は冷や汗をダラダラと流している。
あのあと、確かに米は炊けたのだが、芯がのこっていたり、ムラがあったりと、ひどい出来だった。
それらは幸伶がしっかりと完食していたからまだいいが、米を計3合無駄にされて、俺と望美、そして疾照は激怒した。
望美「まあ、そんなことはいいんだよ。はい。今日はこんな鍋にしてみました。」
英春「ほう、石狩鍋か。」
疾照「いいじゃないですか。私、こういう鍋好きですよ?」
和城「僕もだ。」
望美「よ〜し、なら、早くいただいちゃおう!」
俺たちは、望美が席についたことを確認すると、手を合わせて食事をはじめた。
幸伶「それにしてもさ、だいぶ経ったね。ここでの暮らし。」
和城「そうだな。4月の頃は思いつかなかったな、こんな暮らしができているなんてな。」
英春「まったくだな。」
望美「あの頃のヒデ、すごい無口だったもんね。」
英春「やかましい。」
幸伶「でも言葉の知的さと厄介さと生真面目さは変わってないよね。」
英春「…褒めてんのか…?それ…。」
幸伶「僕が友達をけなすもんか!」
疾照「それも、ある意味幸伶さんのよさですよ。」
その後も、俺たちは具材がなくなるまで食事をし、雑談をしていた。
カレンダーを眺めれば、12月19日を指していた。
あと少しで、とうとう大晦日、そして年明けだ。
早いものだ、楽しい時間というのは。




