第69話 例の2人の本意
英春「よし、気を付けて運ぶぞ。」
幸伶「前が全然見えないよ!危ないよ!」
英春「下を持ってる俺のほうが危ないんだが。」
なぜか、俺たちは休日の朝なのにこうして重労働をしてる。俺と幸伶は2階の倉庫から大きな机を持ってきている。
そろそろコタツを出してもいい時期だということで、望美と疾照が布団の洗濯、和城が机の上の部分、そして俺と幸伶がフレームを持ち出してくるというわけだ。フレームというのは、机の上の板を乗せるための台枠と足のことだ。正しい呼び名を知らないので、以後この呼び方をしようと思う。
英春「よし、あと一段だ。ゆっくり下すぞ。」
幸伶「了解。」
何とか下まで運び終えることができた。そのまま俺たちはフレームを居間に運び入れた。
英春「…よし…、うう、背中が痛い…。」
幸伶「手があ…、手があああああああああ!!」
今まで使っていたちゃぶ台より一回り大きいので、違和感がものすごい。
疾照「英春さん、布団洗濯し終わりましたよ。」
和城「机の上、持ってきたぞ。」
英春「よし、まずは布団だな。」
そのまま、俺たちは順番に組んで行って、最後に机に付いているヒーターの電源をつけた。
幸伶「よ〜し!さっそく入ろう!」
望美「そ〜れ入場!」
和城「…まあ、入っておくか…。」
英春「…お前ら…、あのな…。」
幸伶「…暖かくなぁい!!!」
望美「何かぬるい!!」
疾照「そりゃ、まだ電源入れたてですからね…。」
前、暖房をつけたがっていた疾照も厚着で寒さに対抗するようになった。なので、部屋は暖房がついていない。
そう、つまり…、
英春「…へ、へクションッ」
疾照「さ…、寒い…。」
暖まるまでは、すごく寒い。
幸伶「さ、寒いけど、コタツの中ならまだ暖かい…。」
望美「そうだよ。2人も入りなよ。」
疾照「そうします…。」
英春「お言葉に甘えて…。」
こうして、俺たち5人は、全員コタツの中に入った。
しばらくすると、徐々に暖かくなってきたので、非常に快適になった。
和城「…雪もひどくなってきたな。」
英春「ああ。これ、家が埋まらないといいんだがなあ…。」
いつの間にか、また降り始めた雪は、どんどん量が増えてきている。見ているだけで風邪を引きそうだ。
適当にみかんを食べたり、何となくテレビを見ていたりしていると、突然インターホンが鳴った。
望美「あれ、何か宅配頼んでたっけ。」
疾照「はて、何も頼んでなかったと思いますがね…。」
英春「俺が行ってくる。」
和城「悪いな。」
誰かが訪ねてくるとき、毎回思っていたが、外にある人物が誰なのか確認できないのは本当に面倒だ。
そうして、俺は少しばかり警戒しながら玄関の扉を開けた。
虎彦「ようヒデ。」
剣蔵「よう。」
英春「…何の用だ…。」
そこには、虎彦と剣蔵がいた。何しに来たのだろうか…。幸伶並みに何をしでかすかわからないのがこの2人だ。
俺が疑いの眼差しを向けていると、突然、2人が頭を下げた。
英春「え…?お、おい、2人とも、どうしたんだよ…。」
虎彦「頼む、しばらく家に居させてくれないか…?」
剣蔵「お願いだ…。」
…この2人に、いたずら的な悪意は感じない。何があったのか知らないが、俺は家に上げることにした。
幸伶「あれ、虎彦と剣蔵じゃん。どしたの。」
和城「秋の月見以来だな。ここにこのメンバーが集まるの。」
虎彦「邪魔するぜ〜。」
虎彦と剣蔵は、居間に入ると、すぐさまコタツに入った。…やっぱ図々しいぞこいつら。
英春「…で、何があった。」
虎彦「…もう聞くんだな…。」
英春「家に上げた手前、何も聞かずに返すわけにはいかん。」
剣蔵「…いいだろ。話そうぜ…。」
虎彦「…ああ。…俺ら…。…帰らないとなんだ…。前まで住んでた町に…。」
英春「………。」
幸伶「…え……?」
望美「ウソ……。」
和城「……。そうなのか……。」
疾照「………。」
虎彦のその言葉に、その場にいる全員が絶句した。
虎彦「…前まで言ってなかったがな、俺と剣蔵…、お前らと同じ学校、同じ町に住んでた。まあ、俺らがそれを知ったのは最近素朗と話してた時だがな。俺らは、親の仕事、つまり、だいぶ前の殺人犯立てこもり事件の解決のために、ついてきた。だから、いつかは帰らないといけない。…帰る日が、ついこの前、決まったんだ…。」
…俺たちは、何も言葉を発することができなかった。知らない情報と、現状報告が混ざり合って、精神がグチャグチャになってきた。
しばらく、居間には静寂が訪れた。テレビはつけっぱなしだし、まだ雪が降り積もってない道路を走る車の音も、響いている。
なのに、俺たちの耳には何も入らず、目には、外でしんしんと降る雪のみが映る。
そして、俺は勇気を振り絞って言葉を発した。
英春「…虎彦と、剣蔵は、どうしたいんだ…。」
虎彦「………。」
剣蔵「……どうしたい、…か…。」
英春「俺たちも、どうせ3月にはここを去る身だ。」
再び、静寂が訪れた。人との会話の耐性が完全についたわけではない俺にとっては、ここまでが限界だ。
あとは、この2人がどうするかを聞くまでだ。
そして、虎彦と剣蔵は、口を開けた。
虎彦「俺は………。」
剣蔵「……俺…、は…。」
虎彦剣蔵「…まだ、ここにいたい……!」
…2人は、初めて、俺たちの前で涙を見せた。大切な人物と離れたくない、そう考える、優しい人間がそこにいる。
英春「…よく言った。…みんな、聞いていたろ。すぐに準備するぞ。虎彦と剣蔵を、村に留まらせるんだ。…2人が望む形で。」
幸伶「もちろんさ。すぐに動けるよ。」
望美「当たり前だよね。友達が苦しんでるんだもん。」
和城「僕も、すぐに動くことができる。」
疾照「私もです。」
英春「よし、すぐ行動に移るぞ。」




