第67話 初冬
英春「ああ、寒い…。寒すぎる…。」
和城「ああ…。とうとう庭の水槽が凍っちまった…。」
英春「水槽あったんだな…。」
12月に入って、けっこうな日数が経った。
すっかり空気も気温も冬模様で、あれだけ半袖を着ていた和城と望美でさえ、長袖を着ているわけだから、完全に季節が移り変わったというわけだ。
そして、俺たちは換気をするために縁側のガラス障子を全開にして周っていたのだが、朝なため、はっきり言ってすごく寒い。
そろそろカイロと手袋、それからマフラーも引っ張り出さないといけないようだな…。
…1番辛いのは、洗濯当番の望美だろうなあ…。
和城「よ、よし、全部開け終わったな…。」
英春「な、なら、幸伶を、お、起こしに行くぞ…。」
寒すぎて歯をガタガタ鳴らしている俺と和城は、幸伶の部屋の前にやってきた。
そして、目の前にあるドアを思いっきりノックした。
これくらいしないと幸伶は起きないからだ。
たぶん、強くノックしすぎてドアが少し変形してしまっているが、今は幸伶が起きないことのほうが問題だ。
英春「…まあ、そりゃあ起きてこないよな…。」
和城「よし、突入しよう。」
起きないときは部屋に入ってもよいと、幸伶本人から了承は得ている。
俺たちは、ためらわずに幸伶の部屋に入った。
英春「…なんか、暖かくないか?この部屋…。」
和城「だよなぁ…。…これ、ヒーターじゃない?」
英春「…あ、…これは、ヒーターだな…。」
どこから持ってきたのかは分からないが、幸伶はヒーターを使用して寝ていた。
しかも、そのヒーターが部屋のすみに隠されるようにして置いてあるという…。そのうえ、使っている本人は、未だに半袖で過ごしているのだ。…悪質だ…。…苛立ちすら感じる…。
ひとまずヒーターの電源を切り、かけ布団を引っ剥がしたのだが、それでも幸伶は起きない。
…部屋全体が暖かいわけだから、そりゃ起きないか。
英春「…よし、和城、窓全開だ。」
和城「了解。」
俺が指示すると、和城はすばやく窓を開けた。
望美と和城に長袖を使わせるほどの寒さだ。これにはいくら常識破壊人間の幸伶であっても…。
幸伶「うわあああああああ寒いいいいい!!あ、ああ、だ、誰か…、あ、あた、温かいものを……。」
と、このように飛び起きるというわけだ。
英春「早く降りろ。飯の時間だ。」
幸伶「は、はい、は、はい……。」
寒すぎてロクに言葉を発せていないのだが、幸伶はゆっくりと部屋から出ていった。
和城「…へクションッ!ああ、ちょっと、寒すぎるから僕らも早く下に行こう…。」
英春「ああ、そうだな…。」
さっさと温かい朝食を食べたい。
…前みたいに、いたずらでコーヒーが置いてある、なんてことが起きていないことだけを願っている。
英春「俺、素朗に呼び出されてるから、先に行く。」
望美「了解〜。」
疾照「お気をつけて。」
一通りの身支度を済ませて、家を出た。
ただでさえ寒いと言うのに、いつの間にか天気が曇りになってきたので、余計に寒い。
最近、寒い寒いと連呼しているような気もするが、本当に寒いのだ。
豊橋からちょっと北にある程度の山だと言うのに、ここまで差がつくものなのか…。
そうして、まだ人も少ない朝の道を歩いていると、奇妙なものを発見した。
英春「…ん?虎彦…だよな…。」
道のどまんなかに虎彦がいたのだが、どういうわけか一切動かない。
英春「…どうせ凍ってるフリだろ。」
いちいち相手をしていたら、それはそれで面倒だし、そもそも時間がない。
俺はその場からすぐに立ち去った。
英春「…変だな…。虎彦ならスルーされると何かしら言葉を返すのだが…。」
俺は虎彦に対する違和感を拭いきれず、結局戻ってきてしまった。
そして、何となく指で虎彦をつついてみるのだが…、
英春「うわ冷たッ!…本当に凍ってるのか…?」
冷凍保存されて生きていけるのかはわからないが、とりあえず水筒の中にある湯をかけてみた。
なぜ俺が湯を持っているのか、気になる方もいるだろうが、寒い時に冷たい飲み物を持ってくる人間はいないだろう。つまり、そういうことだ。
湯をかけると、虎彦から湯気が立ち、しばらくすると動き始めた。
虎彦「はーーッ助かった!このままだと氷漬けになってた!」
英春「もうなってただろ。というか、何してたんだよ、こんなところで。」
虎彦「あー、昨日素朗に呼ばれて学校に直行してたら、動けなくなったのだ。」
英春「お前も呼ばれてたんだな。…たぶん"明日に来い"っていう文言を、聞いてなかったんだろ。」
虎彦「いやいや、そんな事は言われてない。断じて!」
英春「これで実際は言われてたらどうするつもりなのかね…。」
素朗「うん、言ったよ、明日に来てって。そりゃそうでしょ。連絡したの夜の6時だよ?こんな時間まで学校にいるわけないじゃん。」
虎彦「うそーん…。」
冷凍保存虎彦を助けた俺は、その後すぐさま学校に向かったが、すでに素朗が待っていた。
そこで虎彦に明日学校に来るよう伝えたかどうか聞いてみたものの、案の定素朗はしっかり連絡していたらしく、原因は虎彦にあった。
英春「あ、そうそう、俺と虎彦は何で呼び出された。何かやるのか。」
虎彦「あ、そうだった。何すんだ?」
素朗「そうだね、これは2人にしかできないんだ。」
さっきまで笑って会話をしていた素朗が、急に真剣な顔つきになった。
…あれ、このパターン見たことが…。
素朗「私たち3人で、ストーブの灯油を運ぶよ。」
英春「あの、…1ついいか…?」
素朗「はいはい。何?」
英春「この前、俺はストーブ本体を持ってきた。で、今回、俺にさらなる重労働を強いるのか。」
素朗「あー、ごめんね。ヒデ…。」
虎彦「まあまあ、今回灯油運んだら、ストーブ優先的に使わせてもらえるらしいぞ。」
英春「いや、その権利は前回ですでに手に入れてるんだが…。」
どうしても必要だからと来てみれば、こんなことのためにまた重労働しないといけないとは…。
本当に面倒だ…。
英春「…そもそも、秋祭りのときは発電用の灯油は先生が持っていったのに、ストーブの灯油は児童が運ぶんだな。」
素朗「…確かにそうだね…。」
虎彦「教師もまあまあ適当だな。俺がこの状況を変えねば!」
英春「今の虎彦には無理だろ…。」




