第66話 秋終
11月を過ぎると、すぐに木々の葉は散っていった。
もう季節は秋とは言えず、冬に入った。
かなり冷えてきたので、学校でもストーブを使い始めるというのだが、その準備を俺と幸伶がやることになってしまった。
何で今年来たばかりの俺たちにやらせるのかはよくわからないが、優先的に使わせてもらえる特権を得たので、今回ばかりは潔くやらなければならない。
幸伶「倉庫ってどこなの!?寒くて死にそうなんだけど!」
英春「うーん…、幸伶は何が起きても死なない気がする。」
幸伶「いやいや、僕だって凍死はするよ?」
英春「半袖なやつが何をほざく気なんだ。」
今日は何とか気温10度を上回っているが、それでも寒く感じる。だから今、ストーブを引っ張り出すというのに、幸伶は、半袖なのだ!
もはや皮膚の神経が悪くなっていることを疑ってしまう。
外の曇り空と、この男の服装を見ていると風邪を引きそうなので、俺はちょうど通り過ぎた先生に倉庫の場所を聞いた。
英春「そ、外…ですか…。」
「ああ。大変だが、頑張れよ。」
幸伶「………まあ、別にいっか。」
英春「…よくねえよ。寒いだろうが。」
幸伶「えー、英春くんは根性がなってないなあ。」
英春「俺は根性論を聞かされずに育ったのでね。ほら、早く行くぞ。せっかくの昼休みに時間削ってるんだからな。」
幸伶「遅れていったら授業に間に合わなかったことを正当化できるのに…。」
英春「…それは、…確かにな…。」
それから、俺たちは意図せずともゆっくり歩いて、倉庫にたどり着いた。
倉庫の扉には張り紙が貼ってあった。
英春「えー、なになに、ストーブを持ち出す児童へ、その1:ストーブ本体に番号が振ってあるので、学年の数字と同じものを持ち出すこと。その2:扉の開け閉めはしっかりすること。…まあ、一般常識が書いてあるな。」
幸伶「とりあえず開けようよ。」
英春「そうだな。………あれ、……あ…?…え、…開かねえ…。」
俺は、扉の取っ手に手をかけて、そのまま開けようとしたのだが、扉を何度も内側に引っ張ってもびくともしない。
鍵がかかっているというわけでもなく、倉庫自体がボロボロというわけでもない。
開くはずなのだ。
英春「幸伶、引っ張ってみてくれ。お前のほうが力あるだろ。」
幸伶「はいは〜い。伊佐雑務(株)にお任せくださ〜い。」
英春「嫌な名前の会社だな…。まあ、やってくれるなら何でもいい。」
幸伶「何でもいいんだね?」
英春「…壊すな外すな諦めるな。以上。」
幸伶「えー?じゃあどうするの?こんなん壊すしかないよ。」
英春「ふざけてんのか。学校のものを壊すな。」
幸伶「うーん……。ならどうしようかな…。」
1度校舎の中に戻ったら、若干の暖かさでこの場に戻ってこれなさそうだ。なので、先生を呼ぶなんてことはできそうにない。というかしたくない。面倒だから。
しばらく2人で考えていると、突然、倉庫の裏からものが倒れる音がした。
英春「な、何だ…?」
幸伶「う、裏から聞こえてきたよね…。」
一瞬たじろいだものの、俺たちは小学生特有の"興味本位"を発揮し、倉庫の裏を覗いてみることにした。
そこで、俺たちは衝撃的なものを目にした。
英春「……はあああああ!?」
幸伶「そ、倉庫に、穴が開いてる!?」
倉庫の裏には、なぜか大きな穴が開いていて、俺でも余裕で通り抜けることができるようになっていた。
英春「な、何でこんなデカい穴が…。」
幸伶「こんな状態でずっと備品管理してたんだね…。」
しかし、扉が開けることができなかった俺たちにとっては不幸中の幸い。
やましい事をしているような気になったので、俺たちはすばやく"4年生"と書いてあったストーブを持ち出した。
安全のためか、灯油は完全に抜かれているのだが、それでも重いものは重い。
2人がかりでようやく普通に持ち歩けるようになった。
いつの間にか授業開始のチャイムが鳴っていたらしく、教室に戻ると普通に国語の授業が行われていた。
英春「はあ、疲れた…。」
幸伶「うえー、手が痛い…。」
直我「おう、遅かったな。お疲れさん。ストーブはそこに置いておいてくれ。」
矢張先生は、教室の窓側の黒板横を指さした。
俺たちは何とかそこまでストーブを運んだあと、自身の席についた。
その後、国語の授業を受けてはいたのだが、正直内容が頭に入ってこなかった。疲れだな。うん。
幸伶「暖房はまだいらないよ!暑いよ!」
疾照「いいえ、寒いので、暖房は必要です。もうすぐ、というかもう冬なんですよ!?」
望美「もっと温かい服を着なよ!そうすれば解決するよ!」
和城「それには同意。」
家に帰ると、俺以外の4人が口論を始めた。聞く感じ、疾照が孤立ぎみで不利のようだ。
だが、俺はもちろん面倒事には巻き込まれたくない。今は自室にいるが、はっきり言って下に降りたくない。さて、とうするか…。
今日の夕食当番は俺だ。幸伶たちの分はいいとして、このままだと自分の夕食もなくなってしまう。
少し考えた末、俺はできる限り音を立てずに1階まで降り、そのまま台所まで向かった。
幸伶「あ、そうだ!英春くんにも意見を聞こう。」
英春「うッ……。」
望美「あ、そうだね。ヒデも降りてきたし。」
疾照「ひ、英春さん、暖房は必要だと言ってください。お願いします。」
和城「疾照…、こいつの服を見たほうがいい。」
疾照「……英春さん、厚着ですか…。」
英春「ん?そうだな。寒さは布を重ねればどうにかなる。」
そう言いつつ、俺は調理器具を取り出して、さっそく料理を始める。
幸伶「なら、結論は"暖房は必要ない"だね。」
望美「やたー!」
疾照「…仕方ない…。風呂沸かして来ますね…。」
和城「ふう、何とかなったな…。」
英春「あのな、何度も言うが、お前ら3人はまず長袖を買ってこい。」




