第64話 鈴鳴り山
鳳来寺表参道バス停を降りてからはや数分。俺たちは着実に1333段の石階段に近づいてきた。
最初は絶望していた幸伶らも、まるで人の話を聞いていなかったかのようにすばやく先に進んでいく。
…そこまでの能天気さだと、逆にうらやましくもなってくる。
幸伶「うわ、こんなところに学校あるよ!」
凌貴「鳳来寺高校だね。」
望美「へえ。すごいところにあるね。楽しそう。」
英春「ここ、もう廃校になってなかったか?」
疾照「確かそうでしたね…。」
そうして他愛もない会話を続けながら、まだ舗装されている表参道を進んでいく。
進めば進むほど、ほら貝の音がよりはっきりと聞こえてくる。
優来「ほら貝の音が聞こえるよ。」
鍛郎「もみじまつりの時期だとほら貝吹き体験ができるらしい。これはぜひともやってみたい…。」
和城「よかったね幸伶。」
幸伶「え?何が?」
和城「ほら貝吹いたら、本当の意味での"ホラ吹き"になれるぞ。」
幸伶「し、失礼な!僕がいつホラを吹いたのさ!」
望美「幸伶、ホラ吹きの意味、理解してる?」
そうして進むと、段々建物が減り、山の中に入ってくる。そうして、とうとう石階段が見え始めたところで、ほら貝吹きの体験をやっていた。
疾照「鍛郎さん、やってきてはいかがでしょうか?」
鍛郎「せっかくなら他の人もやろうぜ。」
受付の人に聞いてみると、3つなら同時に使えると言う。
他の人を持たせるわけにもいかないので、鍛郎と、あと2人か。
結局、誰もやりたがらなかったので単純に興味を持った俺と望美が体験することになった。
「ほら貝はね、あの金管楽器みたいな感じでね、唇を震わせて音を出します。こんなふうにね。」
教えてくれているおじいさんが実演をしてくれるそうだ。
おじいさんが吹き口を口に当て、息を吹き込むと、よく聞くあの音が響き渡った。
凌貴「おお〜……。」
優来「すごい…。」
「さあ、やってみな。」
そう言われて、俺たちは見よう見真似で吹き口に口をつけ、それっぽく息を吹き込んでみたものの、空気が抜ける音しかしない。
英春「はーーッ……。全然音出ない…。」
望美「私も………。」
鍛郎「僕もだ…。」
「ははは、最初はそんなもんさね。」
その後も、しばらく挑戦してみたものの、鍛郎がかすかにそれっぽい音を鳴らした程度で、正直言ってできそうにない。
俺たちはおじいさんに礼を言って、その場を後にした。
英春「あー…、これから山登りなのに、もう息切れしてきた…。」
幸伶「でもさ、言ってもお寺の前の階段でしょ?そこまでじゃない?」
凌貴「さっき言ったじゃん1333段あるって…。」
望美「うーん、でも、あんまり実感沸かないかも…。」
鍛郎「…嫌でもわかるさ…。なあ。」
英春「ああ。涙するぞ。」
そう言って、俺たちは山の中を切り開いて作られた石畳の道を進んだ。
幸伶「あああああああああ辛いよおおおおおお!!」
英春「まだ登り始めたばっかりだろうが。それに騒ぐなよ。ここは家じゃないんだぞ。」
和城「で、でも…、これはきつい…。」
望美「ああ、もう、水が半分しかないよ…。」
凌貴「まだまだだな。」
鍛郎「この先もっときついゾーンが待ち構えてるからな。」
優来「そうだよ?もう少し頑張ろうよ。」
幸伶「もう絶望してるのに、もっと絶望させないでよ…。」
石階段を登り始めてだいたい5分。いつも圧倒的なエネルギー効率を持つ幸伶と望美が早くもバテ始めた。
一方、この山登りに慣れている俺や凌貴などの自主参加メンバーはまだまだ余裕だ。疾照に至っては、4月の時に着ていた紫のコートとか言う、絶対に山登りに適していない服装なのに、まだ元気に登っている。
幸伶がまあうるさいので、近くにあったベンチで休憩をしている最中だ。
鍛郎「まあ、仕方ないね…。一度始めたら登り切るまで戻れないよ。ほら、飲み物は何本か用意してあるから、頑張りな。」
凌貴「まずは、傘杉のあたりだね。」
疾照「幸伶さん……。」
幸伶「え、なに、疾照…。何か怖いんだけど…。」
少し先を進んでいた疾照は、突然ふり向いて幸伶にこんな言葉を投げかけた。
幸伶は何か怖いと言ったが、もちろん怒っているという風ではなく、何か怖い話をする際の、あの顔を無理やり作っていた。
疾照「実はですね……。この山………。…クマ、出るんですよ…。」
幸伶「……ひえええええええ!!クマあああああああああいあいえええええうういあいああ!!!」
このように、謎の汚い叫びを美しい山々に響かせた幸伶は、今まででは考えられないほどの速度で階段を登っていった。
その速さは、到底人間、しかも小学生の子供が出していいものではなかった。
優来「…森林破壊だ…。」
和城「…森林破壊……?」
鍛郎「どういう事…?」
優来「そのまま森の中を直進して行きそうに見えたから…。」
疾照「…まあ、こんなわけで、幸伶さんを無理やり動かしたかったら、怖がらせるといいですよ。結構簡単です。」
英春「はあ、ためになるなあ、じゃねえんだよ。まずいぞ。あいつ1人にしたら、そのまま人間襲いかねんぞ。」
凌貴「あ、幸伶が、人間を襲う………。ん?え?」
ご覧の通り、みんな少しずつ疲れてきて、頭がおかしくなってきている。幸伶の状況も不安だし、さっさと登るか…。
そうして、俺たちはずっと留まっていた木製のベンチから立ち、再び歩を進めはじめた。
…ああ、幸伶を連れてくるんじゃなかった…。




