第63話 いざ、鳳来の山奥
英春「お前らー、起きろー。鳳来寺に行く日だぞー。」
和城「もう…、なんだよ…。」
幸伶「あれ、今日だっけ…。」
疾照「皆さん、自分の約束は守ってもらってるんですから、人の約束も守ってくださいよ。」
俺と疾照は、同居人の部屋の戸を激しくノックして、全員を叩き起こした。
ゆっくりできる祝日になぜこんな事をするのかと言うと、はっきり言って俺と疾照のわがままである。
とはいえ、普段こいつらのわがままに付き合っているのは俺たちなのだ。今日くらいは自由にさせてもらう。
俺は起きてすぐ着替えて出てきた幸伶と望美、和城にすぐ朝食を出し、出かける支度をした。
俺たちがここまでして行きたい、その鳳来寺とは、愛知東部の東部、いわゆる東三河では特に名の知られた寺で、まさに秋の東三河を代表する名所なのだ。あの徳川家康とも繋がりがあると言う。
そんな鳳来寺で、今日はもみじまつりが開催される。
ちょうど本格的に紅葉樹が色付いてきたこの時期、東三河人としては行かないわけにはいかないのだ。
いつの間にか食べ終わっていた3人に準備をするよう伝えた後、俺たちはすぐに家を出た。
行くのが俺たちだけだったら別に遅くに家を出ても、何ら問題はないのだが、今回は凌貴と鍛郎、それから優来も同行するため、遅刻はできないのだ。
…そもそも、1日数本しか来ないバスを利用する時点で、遅れるわけにはいかないのだが…。
幸伶「せっかくならキャンプとかやりたかったな…。」
望美「あーキャンプ!いいかもね!」
英春「道具ないだろ。それに、今回は俺たちが行きたいって言ったんだ。さすがに今回は付き合ってもらうぞ。」
幸伶望美「はーい…。」
村の大通りを通りながら雑談していると、少し高台にある、いつものバス停にたどり着いた。凌貴ら3人はすでに着いていた。
英春「すまんな待たせて。」
凌貴「いや、待ってない。大丈夫だ。」
疾照「今日は楽しみですね。」
鍛郎「そうだな。」
幸伶、望美、和城除くメンバーは、今回の鳳来寺もみじまつりの話題で持ちきりである。
10分ほど経つと、バスがやってきた。
この村に来る時や、伊良湖に行った際も思ったが、この路線バス、山の中走るくせには車体でかくないか…?
まあ、それだけ需要があるってことだろう。…詳細は知らんが…。
俺たちは扉が開くと、すぐさま整理券を受け取り、席についた。
今日は他にももみじまつりにいく人がいるのか、かなりの人が乗っている。なるほど、普段もこれの半分ほどが乗っていると考えれば、需要はあるか…。
人が多いせいで、最後に乗った幸伶と和城は席に座ることができなかった。
和城「…ココから新城駅まで何分だっけ…。」
英春「うーん…、45分だな。」
幸伶「45分?なら大丈夫じゃん。」
望美「幸伶は言動だけじゃなくて足腰もおかしいんだね…。」
新城駅に着くまで、バスに乗り込んだ客は減るどころかむしろ増す一方で、立ち席の2人は直立の痛みに加え、押しつぶされる苦しみにも耐えなければならなかった。
和城「帰りは座りたい…。」
鍛郎「たぶん座れると思うけどな…。」
英春「…さて、すぐ乗り換えるぞ。切符買ってきたから、なくすなよ。」
幸伶「あ、ありがとう。切符奢ってくれるなんて!」
英春「立て替えただけだぞ。あとで往復料金をキッチリ払ってもらうからな。」
望美「…まあ、そうなるよね…。」
英春「おい、望美…、なんで残念そうな顔してんだ。」
ホームに降りた俺たちは、すでに停車していた、橙と緑の帯を巻く列車に乗り込んだ。
優来「これ乗って、どこで降りるんだっけ。」
凌貴「本長篠じゃなかったか?」
英春「本長篠で合ってるぞ。」
疾照「長篠…といえば、あれですよね、戦国時代の長篠合戦ですよね。」
凌貴「そうだね。武田軍と織田徳川連合軍が戦った、火縄銃戦法が有名だ。」
そんな凌貴の歴史解説を聞きつつ、俺たちは車窓を眺める。
秋も終わり頃なのに、まだまだもみじやいちょうは赤や黄色に染め上げられている。
そして列車は、山の中に突入し、旧・鳳来町の情緒を感じられるようになってきた。
幸伶「ここじゃない?降りようよ。」
英春「ここじゃないぞ。」
望美「あれ、今、アナウンスで長篠って言ってたよ?」
疾照「それ、長篠城駅ですね…。私たちが降りるのは、本長篠駅です。」
優来「似たような名前の駅多すぎるよ…。」
本長篠駅に着いた後、またもやバスに乗り込み、鳳来寺表参道というバス停で降りた。
ここが鳳来寺の玄関というわけだ。
幸伶「山の麓だなあ。ココこそキャンプできるでしょ。」
英春「一旦キャンプの言葉忘れろ。」
凌貴「これから、目の前にそびえる山を登るんだからね。」
望美「え?今なんて?」
和城「…すまん、聞き取れなかった。もう一回言ってほしい。」
英春「今から、この山の1333段の石階段を登る。」
幸伶望美和城「せ、1333段!?」
鳳来寺は訪れたくてもそれができない人が現れるほど、人を選ぶ名所だ。
原因は、表参道の大部分を占める、山の中に存在する階段の細道だ。
これだけでも辛いのに、ガタガタした階段は危険で、登るより下るときのほうが怖かったりする。
そんな恐怖の名所にのぞむのだが、当然、そう簡単に登り切ることなどできないわけで、ここからある意味苦難の道がはじまるのだ。
英春「…表現大げさすぎんか…?」




