第61話 微かな変異
この話の投稿日、つまり今日8月3日は、主人公・高倉英春の誕生日です。お祝いしましょう。
その日、俺は昨日の服のままで寝ていたらしい。
その辺に転がっていた置き時計を手に取ると、時刻は7時だった。
…今日の朝食当番誰だっけ……。まあ、いいか…。未だ疲れが取れない。俺が今日の当番だったとしても、正直関係ない…。…疾照には申し訳ないと思うがな……。
その後、しばらく時計を眺めたあと、俺はまた布団の中に潜り込んだ。
幸伶「……英春くん、どうしたんだろ…。」
望美「ちょっと不安だよね…。」
僕の名は伊佐幸伶。追風村1年移住メンバーのうちの1人さ。
朝になって、僕含めた4人は降りてきたのに、英春くんだけなかなか降りてこない。
疾照「確認したいですけど、英春さんっていつも部屋に鍵かけてますよね…。」
和城「ああ、そうか…。確認しに行けないのか…。」
こんな感じで、英春くんの様子を確認しにいきたいのに、それができない。
今日のご飯当番は英春くんだったけど、望美と疾照が代わりに作ってくれた。のはいいけど、やっぱり英春くんの様子は気になる。
幸伶「あ、そうだ。中から入れないなら外から入ればいいんだ。」
和城「何言ってんだお前。」
疾照「…何する気なんですか…。」
望美「窓ガラス割らないでよ。」
幸伶「そんなことはしないよ!」
特にあてもなく、布団の中から窓の外を眺めていた。いつの間にか10月も下旬にさしかかり、空気もより澄んできた。外では、秋とも言え、冬とも言えるカラッとした空気が流れていることだろう。
そんな中でも、俺の部屋には俺自身の気分のせいか、ロクに換気をしていないせいか、ジメジメとした空気が流れている。
…学校どうしよう…。…まあ、無断欠席になるが、今日は休もう…。今は何もしたくない。
そうして、何も考えずに外を眺めていると、突然、人の手が窓に写った。
英春「……!?!?」
俺が驚いていると、すぐに幸伶の顔が見えた。
あー、どうせ外の排水パイプを伝って登ってきてるんだろうな…。
そう予想した俺は、無駄に起こした体をまた寝かせ、布団の中に入った。
幸伶「あ、鍵かかってる。おりゃあ!!」
幸伶の声が響くと、突然何かが外れた音が聞こえた。
目線だけそちらにずらすと、なんということか、やつは窓をサッシから外しやがった。
外靴は脱ぐという一応のマナーは守った幸伶は、堂々と俺の部屋に不法侵入してきやがった。
幸伶「英春くん、おはよう。もう朝だよ。」
英春「…………。」
幸伶「英春く〜ん?起きてくださいよ〜〜。」
英春「……失せろ。」
幸伶「え〜?嫌だ。自分の都合で朝食作らないのは自分勝手だよ!」
英春「…お前に"自分勝手"なんて言葉を使う権利はない。…さっさと戻れ。聞こえないのか?戻れ。」
幸伶「…は〜い。」
そう言って、幸伶は無駄に律儀に窓は戻して、また外のパイプを伝って降りていった。
…2度と来んな……。
ただ1言呟いて、俺は着替えもせずにまた眠り始めた。
凌貴「ふ〜ん、英春が休みか。珍しいね。」
幸伶「僕ら、何かやらかしちゃったのかな…。」
望美「だよね…。ヒデ、相当疲れてるように見えたし…。」
学校に着いた僕らは、いつも早い時間に学校に来ている凌貴と鍛郎に相談した。
和城「まあ、理由は明確なんだよな…。」
幸伶「え、和城は英春くんの体調不良の原因がわかるの?」
和城「ああ。僕の予想だが、たぶん日ごろのストレスだな。幸伶をはじめとした、俺たちによる…。」
その時、僕らの中に冷めた空気が流れ込んだ。
望美「…もしかして、私たちの日頃の行いが…。」
鍛郎「…そういうことか…。」
和城「ほら、ヒデは日頃から"静かにしろ"だとか、"うるさい"だとか、よく言ってただろ。あいつにとって、自身が望まない、やかましい空間は苦痛でしかないんだと思う。」
幸伶「僕のせいだ…。」
僕は、後悔した。知らず知らずのうちに、友達を苦しめていたなんて…。
僕はその場に崩れ落ちた。普段なら、僕の大げさなギャグで済まされていたと思う。でも今回は、誰もそんなことを言わなかった。
幸伶「どうにかして、英春くんに許してもらえないかな…。」
凌貴「簡単なことさ。英春は、そんな簡単に友人を切り捨てはしないだろう。素直に謝って、これからの生活態度を改めるしかないな。」
望美「私もそうしないとね…。」
和城「僕もだな…。」
幸伶「…うん…。しっかり謝らないとね…。」
鍛郎「…あれ、ところで、疾照はどこ行ったんだ?」
和城「…ん?さっきまで一緒に行動していたはずだが…。」
疾照「英春さん…。」
3回のノックとともに、疾照の声が聞こえてきた。
疾照「起きていたら何かしらの音をたてていただけませんか。」
向こうがそう言うので、俺は今もそばに転がっている置き時計を、壊れない高さから落とした。
当然、周囲には衝撃音が響く。
疾照「よかった…、起きていましたか。朝食を置いておくので、必ず食べてくださいね。」
英春「…今は食欲がない。…他の人に渡してくれ…。」
他人に気をかける余裕もないなかでも、せめて暴言だけは吐かないよう、細心の注意を払って発言した。
疾照「ダメです。必ず食べてください。」
英春「…だが………。」
疾照「ただでさえ心が不安定なのに、体まで壊したらどうするんですか。…私もそのような経験がありますから、つらさはわかりますよ。そういう時、何か食べてると、案外楽になるものです。では、私は学校に行ってきます。」
疾照の話し声が聞こえなくなると、すぐに階段を降りる音が1枚の壁越しに聞こえてきた。
…どうも体を動かす気にもならなかったが、そんな状況でも腹は減る。
俺は多少ばかり疾照に感謝しながら、戸を開け、置いてあったトーストが乗せられた皿を持ってまた部屋に戻った。




