第6話 そんなこと朝飯前なり
英春「……。」
幸伶よ…。なぜ廊下で寝ている…。そう、この男は、自室の前の廊下で直立したまま寝ているのだ。しかも、音を立てても起きやしない。2人を起こしに来たはいいものの、俺は廊下睡眠者のせいで混乱している…。
これ以上困惑させないでくれたまえ…。
英春「…この不気味人間は後回しだ…。おい、和城。起きろ。」
…かすかに和城の声が聞こえた。たぶん今起きた、と言ったのだろう。まあ放っておいても勝手に降りてくるだろうな…。さて、第一の関門は突破した。問題は先ほどの幸伶である。
英春「…あれ、あいつどこいった…?」
おいおい、神隠しか…?幸伶がいなくなってるぞ…。
階段を下りた音はしなかった。今日はこの廊下でのあの時しかヤツを見ていない…。
和城「ふぁ〜あ、…おい英春、何してる。君がそこにいると出れないじゃんか。」
英春「あ、ああ、いや、さっきそこの廊下に幸伶が…。」
和城「…あー、あいつは寝相が壊滅的に悪い。ひどいときは玄関まで自走した例もある。案外居間にいるかもよ。」
大真面目に"自走"という単語を聞くとは思わなかった…。というか、寝ながら歩ける人間がいてたまるかっ!!
第一、どうやって寝たまま戸を開けるんだよ!
…よくよく考えると、望美もやってたな…。
…この家の人間は、もしかしたら想像の10倍は変なのかもしれない…。
幸伶「うわ、おいしい!」
望美「これは、アレだよ!オカンの味だよ!」
どちらかと言えばオトンである。
和城「意外だ。料理上手とは。」
望美「ね。料理できなさそうな顔してるのに。」
英春「…お前は礼儀というものを学ばなかったようだな…。」
疾照「…あ、そういえば、こういう料理スキルって誰から学んだんですか?」
英春「…祖父。」
幸伶「うわ〜いいなあ。僕も料理できるようになりたいよ。だってできたら絶対モテるじゃん。」
英春「…自炊くらい誰でもできる。そもそも、モテるための料理じゃない。目的が見え透いてるうちは誰も教えてはくれん。」
和城「いや、幸伶、お前は二度と鍋を手に取るな。死人が出た…。」
ん?死人が出"た"…?その言葉を聞いたとき、幸伶以外の全員の顔が暗くなった…。…触れてはいけない言葉な気がする…。内容は、絶対に予想もできないおぞましいものに決まってる…。
そんな話をしながら食卓を囲んでいると、突然インターホンが鳴った。
和城「え、来客?」
幸伶「この村の知り合いって、昨日の3人だけだったよね。」
英春「…俺が会ってこよう…。」
このインターホン、カメラ機能がない旧式だから相手を確認するすべが無いんだよな…。
だが、訪ねてくる人のあてがないのは本当だ。…幸伶か望美あたりが出前でもしやがったか…?
俺が玄関のドアを開けると、そこにはいかにも働く人間という風貌をしたオッサンが立っていた。
英春「…え、えっと…、…どちらさまで…?」
吉興「やあ、俺は長浜吉興。奥三河警備って会社からこの村周辺を警備することになってね。新しい子供が来たって言うんで、あいさつくらいはしておこうと思ってな。しばらくよろしくな。」
英春「え、ああ、よろしく、お願いします…。」
手を差し伸べられたので、握手をしないのも失礼だと思った。…とはいえ、どうも怪しい…。いや、第一印象で決めつけるのはよくないのだが…。
瑞穂「お〜い警備のおっちゃん、来るの早すぎだろ。まだ来たばかりなんだし、負担かけてやんなよ。」
吉興「ああ、瑞穂ちゃん、そうだな。すまなかったな坊主。」
瑞穂「どうだヒデ。ここの暮らしは。」
いつの間にかあだ名がついていた…。…正直嫌だったが、訂正する暇もないので今は黙認するべきだな…。
英春「…悪くはないな。」
瑞穂「ほ〜ん。」
英春「…ジロジロ見んな。気持ち悪いぞ。」
瑞穂「ははは、ハッキリ物を言うやつ、嫌いじゃないぜ。」
英春「質問に答えろ。」
瑞穂「すまん。何、昨日より明るくなったと思ってな。」
英春「…気のせいだ。お前の錯覚かなんかだろ。俺は戻る。飯の途中だ。」
瑞穂「わかった。じゃあヒデ、3日後に学校でな。」
…学校…。学校か…。昨日素朗から聞いたが、4年生は昨日来た移住メンバー合わせて12人しかいないらしい。前までは7人だったわけだ。それなのになぜここの小学校は廃校にならないのか…。…どうせ他の学校が遠いから、とかだろうな…。
と、いうわけで、不安九割九分九厘、期待一厘を抱きながら、3日後に迫る登校日に向けて準備するのであった…。
和城「…幸伶…。消しゴム5個はやりすぎだ…。」
幸伶「え?そう?」
英春「…無駄。」
望美「無駄だね。」
疾照「無駄かと…。」
幸伶「………。涙出そう。」




