第59話 涼しき遠征
毎日毎日学校で、そろそろ嫌になってきそうな頃合いだが、休むわけにもいかない今日この頃…。
いつも通り俺たちは登校している。
望美「幸伶…、寒くないの…?」
幸伶「寒かったらこんな服着てないよ!」
英春「はあ…、まったく、あれだけ長袖を買って来いと言ったのに…。」
少し前に幸伶の冬の衣事情を知った後、俺は何度か長袖を買って来いと言った。
が、やつはいつも果物だのマンガだのを買ってくるので、次第に言うのをやめた。
幸伶にやれというと、なぜかやらず、やるなと言うと、なぜかやる…。…最初からやるなと言えばよかったのか…。
和城「なんでそれで風邪ひかないのか、疑問でならない…。」
英春「何とかは風邪ひかないって昔から言うからな。」
幸伶「いや〜それほどでも〜あるけどね〜。」
疾照「褒めてはもらえてないですよ…。」
望美「幸伶、バカって言われてるよ。」
疾照「ちょ、望美さん、それじゃあはぐらかした意味が……。」
雑談をしていると、すぐに学校につく…というシーンは、何度も見ているはずだ…。
歩きながら会話できる時間が短いだとか、絶妙に道が細いとかはともかく、暑かろうが寒かろうがすぐ到着するのはよいことだ。
さて、このまま教室に入るほど、俺たちはバカではない。
開けながら入ったりしたら、幾斗とか瑞穂あたりが飽きもせず毎日仕掛けている黒板消しトラップの餌食になってしまう。
俺は、戸を開けてすばやく後ろに下がった。
だが、今回は上から黒板消しではなく、大量の消しカスが降ってきた。
和城「ここまでやるか…。」
英春「あーあ、これはいつも以上に怒られるだろうな…、あいつら…。」
望美「うわッちょっとついた!最悪…。」
幸伶「もったいない、練りケシにすればいいのに…。」
英春「…いや作ったところで、こんな大量の消しカス全部使えねえって…。」
疾照「そうですよね…。ささ、皆さん入りましょうよ。」
そう言って疾照は教室に入るのだが、今度は下に糸が張ってあったらしく、思いっきり転んだ。
その瞬間、俺と和城は思いっきり後ろ向いた。幸伶は動きが遅かったので、俺が頭をワシ掴みにして180度回転させた。
幸伶「ぐゎああああああああ!!首があああああ!!」
英春「…セーフか…?」
和城「…セーフだ…。」
英春「危ない…。あと少しで犯罪者になるところだった…。」
俺たちはしばらく疾照に背中を向けていたが、向こうが立ち上がった後に、俺たちも教室に入った。
幸伶「うううう……。首が………。」
英春「お前の場合、喋れるうちは大丈夫だ。」
幸伶「あ、たしかに。」
和城「納得すんのかよ。」
そのあと、俺たちがまた報告したので、幾斗と瑞穂はまた先生によって連れ出された。
いつもなら自習なのだが、今日は珍しく、前回潰れた社会科の授業になった。
社会科は矢張先生ではない別の先生が担当している。そのため、矢張先生が幾斗と瑞穂に説教してても問題なく授業ができるのだ。
ちなみに、社会科の先生は坂口明海先生である。
明海「はい皆さん、前回、何を学んだか覚えてます?」
望美「蒲郡のミカンについてじゃなかった?」
和城「いや、幸田町についてだ。」
優来「いやいや岡崎の石材についてだよ!」
虎彦「本当は豊川市の高校についてだってことを俺は知ってる。」
明海「皆さん…、大まかな内容くらいは覚えておいてくださいよ…。正解は新城の文化についてですね。今日は、新城の北隣にある東栄町について学んでいきます。」
と、こんな具合で、坂口先生の授業ではどこかのタイミングで必ず珍回答が飛ぶ。
今日はまだマシな程度で、ひどいときには青森県版の教科書を読み上げるやつもいる。
…なんで他県の教科書持ってんのか…。
そうして、しばらく先生が板書をしていたのだが、どうも寒い…。
俺は伝言でエアコンの気温設定を教えてもらった。
こんな戦前昭和期にできたようなボロ校舎でも、一応エアコンくらいはあるのだ。
凌貴「今は24度だ。」
英春「さ、寒くないか…?この季節に24度は…。」
凌貴「…うーん、言われると寒く感じてきたかも…。」
これ、疾照は大丈夫なのか…?
前、本人が冷え性だと言っていたが…。
俺と凌貴は、チラッと疾照の方をみた。
英春凌貴「こ、凍ってる……。」
疾照は、どこにしまっていたのかわからないレベルの防寒着を着ている。…それなのに、顔面蒼白で、歯をガタガタ鳴らしていた。
望美「…は、疾照……?だ、大丈夫……?」
疾照「………さ、………寒………い…………。」
英春「…お、おい幸伶!!お前カイロたくさん持ってたよな!?それ貸してくれ!!」
幸伶「いいよ。まだ使うシーズンじゃないしね。えーっと、どこやったっけ………。あれ…………。……ゴメン持ってなかった。」
英春「なんだよ!!くそ!ランドセルの底に去年のが余ってることを祈るしかねえ……。」
坂口先生いわく、まだ暖房は使えないとのこと。こうしている間も、疾照は震えている。本当に死にそうなくらいに…。
俺たちは、全員のランドセルの底にカイロが残ってないか確認した。
望美「あ、あった!!」
鍛郎「おお!!よかった!!」
望美はランドセルからくたびれた未開封のカイロを取り出し、すぐに封を開けて疾照に渡した…。
疾照「あ、あったかい……。」
瑞穂「あー、やっと終わった……。って、ん?どういう事だこれ……。」
幾斗「ハチの大群でもKITANOKA?」
英春「怖いこと言うな…。」
ようやく説教が終わった2人は、教室の状況を理解できていない様子。
今回の1番の被害者は、疾照だった…。
疾照「もう、嫌だ……。こんなところ……。」




