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第58話 七輪戦争

今日は水曜日だ。先に帰る望美と疾照、和城には七輪の用意をしておけと言っておいた。

今日は、少しばかり贅沢をしようと思っている。

何を隠そう、今日の夕飯は、近年急速にその値をあげた光魚、サンマなのだ。

とうとう、追風村のスーパーにも、新鮮な…、いや、何時間もかけて山まで運んできたからあまり新鮮とは言えないかもしれないが、とにかくサンマが入荷されたのだ。

魚の目利きは、幸伶に頼んでいる。

幸伶本人曰いわく、よく魚釣りをしているので目利きはできるのだという。

普段なら絶対に却下だが、魚釣りをする姿を実際に目にしている手前、頭ごなしに否定するわけにもいかず、こうしてスーパーに連れてきている。

幸伶「魚コーナーってどの辺?」

英春「奥の方だ。他にも買うものがあるから、先に見に行ってていいぞ。」

幸伶「わかった。先に見ておくね。」

そう言って、幸伶は魚コーナーに直行していった。

本当、奇行と的外れな援助さえしなければ、ただのお人好しで済んでたのになあ…。

さて、さっさと必要なものを買い足しておくか。

俺は不足気味な調味料や、明日以降に使う野菜類や、朝食用のパンをスーパーのかごに入れた。

よし、それじゃあ魚コーナーに向かうか。


英春「幸伶、よさげなサンマは見つけたか?」

幸伶「まあね。とりあえず人数分選んでいたよ。」

英春「よし、じゃあさっさと買い物済ませて帰るか。」

幸伶「そうしよー!」

俺たちはさっさと会計を済ませ、そのまま家に直帰した。

英春「とにかく走れ!!うまいサンマがここにいるんだ!!」

幸伶「うおおお!!!サンマああああああああ!!」


帰ってくる頃には、時刻は夜の5時半になっていた。

庭からは細い煙が上がっている。もう七輪の準備はできているのだろう。

幸伶「誰が七輪なんて持ってたんだろ…。」

英春「瑞穂に借りた。」

幸伶「そういうことね。」

俺たちはすぐさま鍵を開けて家の中に入り、その他の購入品はいったん台所に置いておいて、すぐそこにある勝手口から庭に出た。

…のだが…。

英春「…なぜ肉を焼いているんだ…。」

疾照「いやあの、…望美さんがお腹すいたからと…。」

望美「えー、疾照も小腹がすいたって言ってたじゃん!私にばっかり責任押し付けるのはやめてよ!」

疾照「いや…、でも…、言い出しっぺは望美さん…。」

…とまあ、珍しく疾照が言い訳をしているが、肝心の肉は、俺が明日のために買っておいた豚肉だった。

…幸伶の要望で回鍋肉(ホイコーロー)を作ろうとしていたのだが、…まあ、食われてしまったものは仕方ない。

英春「さあ諸君、この魚が目に入らぬか!」

幸伶「入らぬか!」

疾照「…まさか…。」

和城「…太っ腹だな今日は…。」

望美「サバだ!!」

英春「おい!!」

なぜわからんのだ望美…。これのどこをどう見たらサバに見えるんだいったい…。

望美「ウソウソ。さすがにわかるよ。サンマだよね。よく買えたね。」

疾照「そうですよ。ただでさえ高いのに、こんな山奥の村で…。」

和城「何か裏があるな…?」

英春「何もねえよ。単純に俺と幸伶が食べたかっただけだ。」

幸伶「そうだよ。2人だけでヒッソリ食べてもよかったんだよ?」

英春「適当なこと言って事実をねじ曲げるんじゃない。」

とりあえず、俺は家の中から替えの網を持ってきて、すでに焼肉で使われたそれと交換した。

そして、その上に1尾ずつ丁寧にのせていく。

望美「うわー、もうおいしそう。」

英春「刺身じゃねえぞ。よし、和城と幸伶、七輪の口に向かって、思いっきりうちわであおいでくれ。」

和城「よし任せろ。」

幸伶「おりゃおりゃおりゃおりゃあ〜〜〜!!」

俺が合図した次の瞬間、2人は相当な力を込めてあおぎ始めた。

その間、俺は時間や火加減をみながらサンマをひっくり返していく。

疾照「幸伶さん…、近くであおぎすぎじゃないですか…?」

望美「うちわ燃えるよ…?」

幸伶「大丈夫だよ。そんなに火も強くないし。」

そうやって幸伶が調子に乗って、後で痛い目に遭うところを、俺たちは何回も見てきた。

…が、今回ばかりは違ったらしい…。

幸伶が吹き飛ばした日の粉が和城のうちわの方まで飛んできて、そのままうちわの縁が燃え始めた。

和城「うわあああああああああ!!ちょっと、誰か水を!!」

庭にある蛇口に1番近い疾照がすぐ動き、バケツに水をためて、それをうちわにかけた。

英春「あ、危なかったな…。」

疾照「な、何とか…、なりましたかね…。」

和城「た、助かった。」

英春「大変な中申し訳ないが、サンマが焼けたぞ。」

望美「うわー、いい焼き加減!さすがヒデ!」

英春「褒めてもサンマしか出てこないぞ。さ、早く皿を取ってこい。」

火を消すわけにもいかないので、目を離したら焦げかねない。なので俺はここから動けないから、他の人に取ってきてもらうしかない。

30秒くらいで望美が人数分の皿と醤油、それといつ作ったのかわからない大根おろしを持ってきたので、俺は素早くサンマを皿に盛りつけていく。

望美「いただきま〜す!う〜ん、おいし〜い!!」

幸伶「秋だなあ〜!」

和城「うちわ燃やしたかいがあったな。」

疾照「それは関係ないと思いますよ…。それにしてもおいしいですね。」

英春「うん、この時期のサンマはやはり絶品だな。脂ののりがよくてさっぱりした大根おろしと醤油によくあう。」

疾照「…わたはとってないんですね…。」

幸伶「あ………。」

英春「…すまん、普段はらわたごと食べるから全然気にしてなかった…。」

望美「挑戦してみたら…?案外おいしいかもよ…?」

和城「安心しろ。無理ならそこだけ取り除いて庭に埋めればいい。そうすれば肥料になるからな。」

いやはや、本当に申し訳ないことをした…。普段はしっかり取り除いているのに、今日は気分が高揚していたせいか、完全に忘れていた。

疾照は苦手なはずなのに、それでも試しにと言って、1口食べた。

疾照「うッやっぱり無理です……。」

英春「まあ、肝は人を選ぶからなあ…。」

望美「疾照はまだまだお子ちゃまだねぇ。通な人はわたもおいしく食べちゃうんだよね。」

疾照「そんな苦いもの食べないといけないなら、お子ちゃまで結構ですッ」

和城「まあ、そうカッカするな。安心しな僕も無理だから。」

英春「さっきまでの食べれそうな雰囲気は何だったんだよ…。」

そう言って、俺たちは秋の味覚を存分に楽しんだ。

こういうのを食べていると、自然に生きる感覚になる。これも、この村のよいところであろう。

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