第57話 動く技は何処から
普通に学校があっても、特に面倒だとも思わない。
今まで散々祭りの準備をしていたのだ。別にこれくらいどうってことない。
しかも今日は苦手な算数や体育さえないのだ。…前回、こんな発言をして栗拾いに連れ出された気がするが、気にしないことにした。
さて、まずは1時間目の社会科の準備をしますかね…。
クラスメイトもそれぞれ教科書だのノートだのを準備していると、突然矢張先生が教室に戻ってきた。
直我「あー、すまん。1時間目の授業変更を言うの忘れてた。」
英春「…あの、もう一度お願いします。…何と…?」
凌貴「ごめんなさい、俺も聞き取れせんでした。」
直我「いやだから、今日の1時間目は体育に変更になったってことを伝え忘れてた。」
素朗「………。」
幾斗「おいTORAHIKO!聞いたか!?」
虎彦「もちろんサァ!」
鍛郎「……。」
幸伶「やったー!体育だあ!」
英春「…社会科のほうがよかった…。」
凌貴「本当にな…。」
文化派と体育会系派で意見が真っ二つに割れた。
たぶん、双方の言い訳は"運動ができないから"と"運動しかできないから"の2つなのだろうが…。
優来「外行きたくな〜い。」
七夜「これはちょっと…。」
直我「とにもかくにも、次は体育だ。縄跳びだからしっかり準備してこいよ。」
そう言い残し、矢張先生は教室から去っていった。
…本当に適当な人だな…。
英春凌貴鍛郎「…あの教師……。」
先生の好感度はだだ下がりした。
秋特有の涼しさのおかげで、外に出る抵抗感はさほど感じなかった。
全員が外に出てきたところで、準備体操が始まったが、この学級には珍しく、とくに何かが起こるといったことはなかったので、今回はすっ飛ばさせていただく。…幸伶とか幾斗とか、はてには瑞穂とかがふざけると思っていたが、それは杞憂で終わった。
問題は本題の縄跳びの方だ。
先述した通り、この学級には物理法則を無視する人間が何人もいる。
そいつらが何をやらかすかわからないので、俺含むいつもの常識人組は、やつらからかなり距離を置いて練習に励んでいた。
走りや球技は苦手でも、縄跳びならできるという人も多く、凌貴や疾照にいたっては2重跳びを何回も連続で跳んでいた。
英春「すごいな2人とも。俺は全然できないぞ。」
素朗「私も1回できるかできないかだもん。」
疾照「コツですね。小さな。」
凌貴「そうだな。それに、見てみなアイツを。」
どうせ誰を指差しているかなんて察しがつくが、とりあえず凌貴が指さす方向を見てみた。
そこには、案の定幸伶がいるのだが、縄の持ち方が変だ。
本来、縄の両端にある取っ手は両手で持つ。そうじゃなきゃ跳ぶなんてことはできないからな。
なのに幸伶は取っ手を片手で両方持っていた。
七夜「…何する気なんだろ…。」
英春「どうせアレを振り回してめっちゃ跳べたなんてほざくつもりだろ。」
疾照「あり得ますね。」
凌貴「幸伶のことだから、ぶん投げるかもしれないよ。」
そんな感じで、幸伶本人を差し置いて適当な予想を言い合ってみた。
…まあ、当然、常識無効化人間代表の幸伶が、あくまでも一般常識で語ってる俺らの予想を裏切らないわけがない。
幸伶は、ポケットからもう2つ縄を取り出して、合計3つの縄をコの字型に置いて、それぞれの取っ手を結び始めた。
凌貴「なんであと2つ出てきたんだよ。この体操着のポケットってそんなに収納力あったっけ…。」
素朗「縄って、あれ学校のなのに、どうやって3つも持ってきたんだろ…。」
英春「倉庫から勝手に持ち出したんだろ。…それより、アイツはあれで何をする気だ…。」
疾照「…………。」
俺たちが警戒する中、幸伶は、そのコの字に繋がれた巨大な縄を使って、3重跳びをやり始めた!
どういう事だこれは!単純計算でも3倍の長さだぞ!?なんでそれを高速で振り回せてるんだよ!!
幸伶が何度も3重跳びをするせいで、いつの間にか恐ろしい規模の砂嵐が起きていた。
もはや災害である。
英春「…これ、風向きがこっちに向いてるから、砂がこっちに来るんじゃ…。」
凌貴「…まさか…。」
素朗「…嘘でしょ…。」
疾照「…皆さん、早く逃げあああああああ目があああああ!!」
英春「ぎゃああああああ痛えええええ!!!」
凌貴「ぐわああああああああああやっぱり体育は嫌だあああああああ!!」
素朗七夜「…目閉じといてよかった…。」
ある者は被害に遭い、ある者は被害を免れるも、幸伶は未だ3重跳びを続ける。
そのせいで砂嵐は今も拡大を続けているので、先生すら近づけず、幸伶を止めることができない。
結局、先生は職員室へ退却した…。いや逃げるな先生!!現場責任はどうするんだ!!
そして、風向きが変わったので、今度は望美や和城、瑞穂たちの方へ砂嵐が襲来した。
虎彦「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
剣蔵「ぎゃああああああああ!!!」
瑞穂「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぁぁ!!」
優来「げぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
和城「ごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
七夜「…叫びがガ行だ…。」
英春「…確かにそうだが、そこかよ…。」
そうしてしばらく続いた厄災・幸伶砂嵐は、メガホンを持った先生に大声で怒鳴られたことで、ようやく収まった。たぶん、職員室に戻ったときに持ってきたんだろうな…。
そして、次は怒号のせいで俺たちの耳が大惨事になった。
この後、幸伶は、縄跳びの授業のときは先生同行でないと縄を持ち出せないようになった。
…ある意味、めでたしめでたし…、と言えるのだろうか…?




