第56話 山からの贈り物
昨日、ようやく衣替えも終わり、秋の空気感がかなり深まってきた。山を見てみても、ところどころ赤や橙、黄などに色付いた木々が見え、これらも秋の空気感を演出している。
こんな素晴らしい日曜日には、読書の秋ということでとにかく本を読みたくなる。
俺はこの前買ってきた長編小説に手を伸ばした。
今日ばかりは家に誰もいない。邪魔する者はいないというわけだ。本当に楽園だここは…!
すると、そんな空気をぶち壊すかのように、家のインターホンが鳴り響いた。
英春「…誰だよ…。せっかく本を読もうとしてたのに…。」
さっき言った通り、家には俺しかいないので、しぶしぶ下に降りて来客の対応をする。
英春「はーいどちら様ですかー?」
虎彦「よおヒデ!優来から栗拾いのお誘いだ。」
英春「え?栗拾い?」
家にやってきたのは、虎彦と優来だった。そして、出会って早々栗拾いに誘い始めた。
優来「もう10月だからね。栗拾いには絶好の季節だよ。一緒に行かない?」
英春「…食えるような栗が採れるのか?ここは…。」
虎彦「いや、俺は知らない。今年ここにきたからな。」
優来「本当に採れるよ。しかもおいしいし。」
英春「うーん……。」
これはまずい。このままだと読書できなくなってしまう。俺は必死に良さそうな言い訳を探した。
…が、結局見つからず、俺は仕方なくついていくことにした。
まあ、虎彦と優来なら、幸伶ほどではないからまだマシか。
俺はしっかりと身支度を済ませて、家を出た。
英春「三質湖のほとりの森か…。」
優来「けっこういろんなのが生えててね。栗以外でも、ビワとか山菜とかも採れるんだよね。」
虎彦「春のここに望美連れてきたら生態系破壊しそうだな。」
英春「俺の身内は生態系クラッシャーばっかりだな…。」
家から出て数分。夏に虫取りに来た森にやってきた。
あのときはしっかり考えていなかったが、クヌギとかコナラとかの木が生えているなら、そりゃ栗の木も生えてるか。
優来「前、高橋さんがここらへんでカエンタケを見つけたって言ってたよ。」
英春「か、カエンタケ…!?!?危険すぎないか…!?」
虎彦「ん?カエンタケってなんだ?」
英春「キノコの一種だ。食うどころか触ったら命が吹き飛ぶぜ。」
虎彦「怖ッ!!」
虎彦はその辺に生えているキノコに触りそうな気がする。釘を差しておかないと危なっかしい。
優来「あ、あれだよ。このあたりだと1番おいしい栗が採れる木。」
優来が指さす先には、明らかに人が手入れしているように見える栗の木が堂々とそびえていた。
…これ、勝手に持っていって問題ないのだろうか…。
優来「大丈夫だよ村の人が善意で綺麗にしてるだけだからね。」
英春「当たり前のように俺の思考を読むんじゃない。」
虎彦「まあ、とりあえずもらってこうぜ。」
虎彦の呼びかけで、俺たちは自前のかごにある程度の栗を入れていった。善意で整備してる人がいるということは、他にも来ている人がいるということ。
そのあたりはわきまえて、採取量は考えないといけない。
虎彦「見ろよこの栗。スカッスカだ。」
英春「まあ、天然物だからな。そういうのもあるだろ。」
虎彦「だよな〜って痛ああああああ!!上からイガグリがっ」
英春「所詮は樹の実なんだから、降ってくるだろ。」
優来「あ、私が木を揺らした。」
英春虎彦「お前かよ!!」
虎彦「これくらいなら十分だろ。」
英春「ああ。いいものをもらった。まさに山の幸といったところか。」
優来「よ〜し、帰ろっか。」
あれからしばらく栗拾いを続け、各々満足のいく量を採取することができた。あとは、日が暮れる前にさっさと帰るだけだ。
英春「そうだな。優来、行きの時みたいに案内を頼めるか?」
優来「おっけー。…あれ、どっちだっけ…。」
英春「……。え…?」
優来「…どうしよう、遭難したかも…。」
虎彦「…嘘だろおい…。」
英春「と、とりあえずもと来た道を進むぞ。太陽の位置から何となく方角をつかめば…。」
虎彦「今日、曇ってるぞ。」
英春「…終わりだ…。」
またもや散々な目に遭った…。道を3人とも忘れていて、家に戻るまで1時間もかかった…。
けっきょく、虎彦がスマホを持っていたので、現在地を割り出して集落まで帰ることができた。
このあたりは山ばかりだから、遭難なんてしたら大変なことになる。山にはスズメバチとかクマとか、危険な動物も多いから何事もなく帰って来れたのは何よりだ。
俺はすぐに部屋に戻り、読みかけの小説に手を伸ばそうとした。そして、そこにある本の存在を思い出した。
…例の紅葉神社の本か…。そういえば、途中まで読み進めて、最後の方は読んでいなかったな…。
久しぶりに読み進めるか…。
英春「…なんか、黒塗りが増えてきたなぁ…。」
この本には、時々黒く塗りつぶされた箇所がある。
大抵、重要そうな部分にだけ施されていて、明らかにいたずらではない、意図的に隠されているはずだ。
そして、次のページを開く。次の瞬間、俺は絶句した。
そのページは、ほとんどが真っ黒だった。映画ではよく見るが、実際に目の当たりにすると恐怖を感じる。
かろうじて読み取れる部分は、この"光式"の文言だけか…。
俺が解読に四苦八苦していると、いつの間にか帰ってきていた疾照が茶を持ってきてくれた。
疾照「中々、大変そうなことをしていますね…。どういった本なんですか?」
英春「…これか?なんか…、紅葉神社とリーフ伝説にまつわる解説書っぽいんだが…、どうも怪しい内容なんだよな…。」
一瞬だけ、疾照の表情が曇った気がした。たぶん気のせいだろうが…。
英春「…どうした、疾照。」
疾照「いえ、なんでもありません。あ、下にラムネがありますから、お好きなときに持っていってくださいね。」
英春「ああ、ありがとう…。」
そういい終わると、いつも通りの笑顔で疾照は部屋から出ていった。
…確かに疲れたな…。しばらく休むか…。
和城「………。」
鍛郎「………。」
英春「…どういう事だこれは…。」
しばらく時間をおいて下に降りてみると、なぜか和城が仁王立ちでそびえており、その前に正座した鍛郎がいた。わけがわからないので、適当に傍観者の幸伶や望美、疾照に聞いてみた。
幸伶「…なんか、鍛郎が投げたボールが、たまたま和城の庭木に直撃して、枝が折れたんだって。」
望美「枝くらいどうにかなると思うんだけどねぇ…。」
和城「何か言ったか…?」
望美「な、何も言ってないよアハハ…。」
大切に育てた植物を台無しにされて、和城はご立腹の様子。そりゃそうだ。
迂闊に発言して、また気を損ねると面倒だ。
俺は家の固定電話から、素朗に電話をかけた。
数分して、会話を終えた俺は、傍観者メンバーのもとへ向かった。
英春「素朗が、私の家で夕食にしないか、だってさ。」
幸伶「そうしよー。」
望美「行こう。すぐ行こう。」
疾照「私も、この雰囲気の中立っているは嫌ですね…。」
英春「よし、決まりだな。せっかく栗も拾ってきたし、それも食べるか。」
望美「あ、あれヒデのだったんだ。ゴメンちょっとだけ食べた…。」
英春「食べるのは構わんが、許可をとれ許可を。」
望美「ごめん。」
俺たちは、未だに説教を続ける和城と、完全に縮こまった鍛郎を横目に、家から出た。
…それにしても、公園から家までは距離あるよな…。鍛郎はどうやってここまでボールを投げたのだろうか…。
鍛郎は物理法則を無視することができないから、幾斗が原因だろうなあ…。よく鍛郎や凌貴といっしょに遊んでるし、今までにも何度か物理法則を無視した動きをしていた。そうなると、鍛郎が身代わりになったことになるが…。
そんな勝手な推測をしながら、俺たちは素朗の家へ向かった。
結局、和城の説教が終わったのは、夜の8時だった。
さっさと終わらせろバカ者…。




