第55話 長袖出動命令
祭りが終わり、その熱気も冷め止んできた。そんななかでの休日が訪れたのだが…。
英春「…少し冷えてきたな…。」
幸伶「確かに…。鼻水垂れるうううう…。」
英春「汚えッ!早く拭け!」
幸伶の鼻からは、漫画でしか見たことないくらいの長さを誇る鼻水が垂れていた。…何で途中で千切れない…。とにかく、床を汚されたくないので、俺は幸伶にボックスティッシュを素早く渡したのだが、間一髪間に合わず、幸伶の鼻から垂れた鼻水が地面についた。
英春「…拭け。」
幸伶「…はい…。」
全く、朝っぱらから人に迷惑を掛けやがって…。
せっかくベランダで朝の空気を堪能していたのに。
俺はいつもより早起きしてしまったので、朝食を作る前に暇つぶしで外に出ようとベランダに出たら、幸伶が朝のラジオ体操をしているところに遭遇した。
そこで共に朝の風景を眺めていて、今に至ると言うわけだ。
英春「…にしても、季節も変わったなぁ…。今日は長袖の服を出すか…。」
幸伶「そこまでじゃないでしょ。まだ大丈夫だよ。」
英春「さっき鼻水垂らした人が何言ってんだか。」
幸伶「それはそれ、これはこれだよ。」
英春「言い訳だな…。」
さて、そろそろ時間だ。朝食を作りに行くかね…。
幸伶はまだ床を拭いている。まあ、やってることといえばそれだけだし、置いていっても問題ないな。
俺が階段を降りようとすると、ちょうど和城も部屋から出てきた。
和城「お、おはよう英春。」
英春「おはよう。」
和城「ん?誰かベランダに出てるのか?」
英春「ああ、あの水色服の変人だ。」
和城「あー、なるほどね…。」
和城はその言葉で納得したのか、まだ俺が何も言っていないのに呆れた顔をしていた。
和城「…それはそうとして、英春、君は言葉の節々に悪意ある単語がある。人をバカにしたような言葉だ。あまりそういう言葉は言わないほうがいいと思うけどね。」
そう言い残し、和城は下に降りていった。…なるほど、俺の言葉はそんなふうに聞こえていたのか…。
…これからは気をつけなければな…。
和城から言われた言葉をしっかり受け止めつつ、俺は下に降りて朝食の準備をし始めた。
疾照「…望美さん、遅いですね…。」
英春「今までは時間になったら誰よりも早く降りてくるのに…。」
和城「…様子を見に行くか…。」
朝食の準備もでき、幸伶と疾照も下に降りてきて、さあいただこうと言う段階なのだが、秋祭りでもその食欲を発揮したあの望美が、時間になったというのに降りてこないのだ。
さすがに不安なため、俺と和城で様子を見に行くことにした。
英春「…望美?いるか?」
望美「うん…。」
和城「…心配だから入るぞ?いいか?」
望美「いいよ…。」
本人からの了承を得たため、俺と和城は望美の部屋に入った。望美は、今も布団の中に潜り込んでいるらしい。
英春「どうした。体調でも悪いのか?」
望美「ある意味体調不良かも…。」
和城「…ある意味…?」
俺も、その言葉に引っかかった。ある意味ってどういう事だ…。
望美「寒いから布団の外に出たくないよ…。」
英春和城「…………。」
あまりにもくだらない理由だったので、俺たちは何も言わず、掛け布団を引っ剥がした。
望美「うわああああああああああああああああ寒いいいいいい!!!!」
英春「うるさい。もう朝飯の時間だ。早く降りろ。」
望美「はーい下行きまーす!」
和城「がッ切替早ッ!」
先ほどまでの叫びが嘘であったかのように、望美はすっと立ち上がって部屋から出ていった。
やはり飯が第1なんだな…。
今日は特に何もないので、全員分の長袖を物置から引っ張り出す事にした。全員が物置部屋に入ると狭くて仕方がないので、俺1人で全員分を持ってくる。
俺と疾照は4月時点ではまだ長袖だったので、どんな感じの服かというのはわかる。幸伶や望美、和城はその時から半袖だったので、この3人は初の長袖お披露目ということになる…。のだが…。
英春「…幸伶の長袖の服、ないのか…?」
そう、物置に置いてある各々の私物を入れておくための箱をひっくり返してみても、幸伶の秋冬服だけ見つからない。
とりあえずその他4人分の服だけ下に持ってきて、幸伶を呼び出して説明を求めた。
幸伶「どしたの英春くん。」
英春「幸伶、お前の冬服だけ見つからないんだが、どこにしまったんだ。」
幸伶「え、冬服って長袖の服のことだよね。」
英春「そうだ。逆に半袖の冬服ってあるのか…?」
幸伶「あ〜、僕冬服持ってないよ。」
英春「…。」
自身の耳を疑った。よく聞き取れなかったので、もう1度今の言葉を言うよう頼んだ。
幸伶「僕は冬服持ってないよ。全部半袖の服。」
英春「…は?冬の寒いときとかどうしてるんだよ…。」
幸伶「え、真冬のとき以外は半袖だよ?」
…何でこいつはそれで生きている。今回ばかりは"幸伶だから"では納得できない。なぜなら人間の身体構造を無視しているから。
英春「…そういえば、真冬以外って言ったな。真冬のときはどうしてる。」
幸伶「全身にカイロ貼ってる。」
英春「そんな事するなら長袖買ってこいよ。金がかかるし皮膚が焼けるぞ。」
幸伶「えー?今買ってくるの?」
英春「今だ。今買ってもらわないと家計が悲鳴を上げるし、そもそもこれから冬なのに半袖のやつ見てたらこっちまで寒くなる。」
幸伶「はーい。」
…まったく…、なぜそこまでして半袖になりたがるのか…。俺にはまったく理解できないな…。
にしても、もうすぐ冬か。季節の巡りは早いな…。
俺は、窓から見える澄みはじめた空を眺めながら、そう思った。
幸伶「見てよ英春くん!こんな立派な柿が売ってたよ!」
英春「長袖買って来いって言っただろうがああああああ!!!」




