第53話 また積み重なる思い 中編
凌貴「両方入り1袋ですね。700円です。」
「はいよ。お釣りってくるか?」
凌貴「はい、お釣りお渡しできます。」
「じゃあ1000円で頼む。」
屋台の営業を始めて2時間が経ったが、まさかまさかの絶好調。
タマゴンとまめめんのキモカワさに惹かれたのか、単に興味本位で買っているのかは定かではないが、とにかく売れ行きは好調。
売り切れを防ぐため、素朗と和城、疾照が追加分を調理しに学校へ戻るくらいだ。
実際に食べた人も、おいしいと言ってくださっている。
いやはや、人の興味関心の力というのは恐ろしい…。時短してでも生産数を増やしたかいがあった。
これには考案者の幸伶もご満悦の模様。
瑞穂「すげえや。恐ろしいくらい売れるぞ。」
望美「私たち何もしてないけどね。」
凌貴「暇なら会計手伝ってくれよ。意外と人が多くて会計3人じゃ回しきれないよ。」
英春「そうだぞ。注文の受付くらいしてくれ。」
優来「そうだそうだー!手伝えー!」
本来、屋台は少人数で回すものだから、正直14人も必要ない。だが、せっかく人がいるなら余すことなく仕事に配置しておきたい。
現に、注文の受付と会計は俺たち、商品の受渡しは鍛郎と七夜、虎彦が行っている。
調理しに行ったのが3人だから、残りの5人は暇を持て余していることになる。
そこで、受付を望美と瑞穂、剣蔵がやることになった。
鍛郎「残りの人はどうすんの。」
優来「どうしようね。」
英春「おい幸伶、お前何か持ってきてただろ。」
幸伶「ああ、タマゴンとまめめんの着ぐるみだね。」
英春「残りの人はお前と幾斗だけだし、それ着て村中歩いてこい。」
幸伶「わかった。行こうか幾斗。」
幾斗「おう!MAKASERO!」
そう言うと、2人は屋台の裏から着ぐるみを取り出し、慣れた手つきで着衣し、そのままどこかへ去っていった。
英春「……。」
虎彦「ん?どうしたヒデ。」
英春「…あれ冗談のつもりだったんだが…。」
虎彦「…まあ、アイツらだしいいだろ。」
英春「……それもそうか…。」
このやりとりをする間もお客さんは現れる。待たせるわけにもいかない。俺たちはすぐさま店番に戻ったため、幸伶と幾斗の事など忘れていた。
幸伶「やっぱり目立つね。」
幾斗「ATARIMAEだろ。」
着ぐるみを着た僕らは、取りあえず紅葉神社の境内に入った。祭りも本格的に盛り上がりを見せてるらしい。
お神輿の準備が始まっていた。
幾斗「おいSACHIREI、人が集まってKITAZO。」
幸伶「相手にしないことだよ。」
とりあえず僕らは無視して、今から始まる神輿の巡りに紛れようとしてみた。
…と言っても、この格好のせいでぜんぜん紛れられてないんだけどね。
そうしてしばらくすると、神輿が境内の外に出た。
幾斗「…あー、ツッコミ役のHITOがいないから思う存分BOKEREN。」
幸伶「確かに二化下(逆から読む)。やっぱり英春くんたちは偉大だなあ。」
とりあえず僕らは、頑張って覚えたタマゴンダンスをしながら、神輿についていった。
踊る理由は、ただただ歩くだけじゃあつまらなかったから。
英春「…ふう、やっと一段落ついたな。」
凌貴「大変だったな。」
和城「あ、凌貴、痛みは治まったのか。」
凌貴「なんとか。みんなのおかげだよ。」
瑞穂「治まったのなら何よりだ。」
あれから追加分の売り物を調理しに言っていたメンバーも戻ってきて、来客のピークも過ぎたため、屋台ではのんびりとした空気が流れている。
望美「にしてもすごいよね〜。さっき十何台か車が通ってたけど、豊橋とか浜松とか、蒲郡とかからも人が来てるんだね。」
英春「俺も驚いた。そこまで人気な祭りなのか。」
素朗「意外とね。紅葉神社って建物が綺麗だってちょっと有名なんだよ。それに村人全員が集まってもここまでの盛り上がりは見せないよ。」
和城「それもそうか。」
この通り、特に何も起きないので、平和な空気感が流れている。本当、普段からこんな雰囲気がいいなぁ…。
鍛郎「お、お神輿がここまで来たか。」
英春「ほう、やはり神輿も…んん?んんん?おい、あれ…。」
凌貴「あー…。」
虎彦「あー(察し)。」
剣蔵「うわー、うわーー、うわーーーん…。」
英春「剣蔵、その言葉はもはや何なんだ…。」
俺たちが絶句している理由、もうわかっているはずだろう。この小説の常套句である。
タマゴンの着ぐるみを着た幸伶とまめめんの着ぐるみを着た幾斗が、どうやっているのか知らないが肩車をしながら謎の踊りを踊っているのだ……!!
それは、今まで全ての幸伶らによる怪奇な行動を遥かに越える怪奇さで、いつも通り俺や凌貴、鍛郎、素朗などは当然として、なんということか、普段どちらかというと幸伶寄りだった望美や瑞穂、虎彦、剣蔵も絶句していた。
英春「…俺の提案なんだが、屋台たたんだ方がいいんじゃないか…?」
素朗「私もそう思う…。」
和城「こっちにも風評被害が来そうだよな…。」
望美「店たたみに賛成1票。」
瑞穂「もうすでにこっちにも冷ややかな目が…。」
剣蔵「…元はといえば、ヒデが幸伶に変なこと言ったのが悪い。」
優来「たしかにー。」
英春「…責任を持って止めてきます。」
英春「…おい幸伶、幾斗。」
幸伶「あ、英春くん。やあやあ。どう?これ。新しく覚えたんだー。」
幾斗「頑張ったんだぞ。NEGIRAE!」
英春「なぜ労わねばならん。そんなことより、それを今すぐやめろ。」
幸伶「えー、なんでさ。これやれば注目集めるから、売り上げ上がると思うんだけど。」
英春「商品アピールは結構だが、お前ら、周りを見ろ。」
幾斗「え。」
そう言われてようやく2人は、周りを見渡し始めた。
一般の人々の目は、案の定と言えるかはわからないが、よいものではなかった。
ある者は恐怖の目を向け、またある者は軽蔑するような目を向けた。
スマホで撮影する者もおり、怖すぎて逃げた人もいた。だが、子供たちだけは楽しんでいる模様。
その周囲の目の意味をようやく理解したのか、幸伶と幾斗は全力で屋台に走っていった。
優来「うわッ危ない!!」
虎彦「おおおい幸伶?幾斗!?」
そして、2人はこれまた慣れた手つきで脱衣し、屋台の裏にあるイスに座りだした。
英春「…さすがにあのバカ2人でもそこら辺はわきまえてるんだな…。」
とにかく、用が済んだので、俺も屋台に戻るとするか…。
疾照「…そこ私の席なんですが…。」
優来「私の席も…。」
幸伶「…ごべんなさい…。」




