第51話 身支度の真髄 後編
英春「ああ、肩が痛い…。」
望美「おつかれさま。」
俺たちは何とか発電機と装飾品を運び終えた。
その頃には、もうすでにかなり疲れていた。
10月に入って本格的に秋になり、涼しくなってきたのがせめてもの救いだ。これが夏だったら…、まあ、恐ろしいことになっていただろうな…。
凌貴「自分、少し休みます…。」
英春「わかった。安静にしててくれ。素朗、1人くらい欠けても問題ないか?」
素朗「大丈夫だよ。男子1人当たりの仕事量が少し増えるだけだし。」
虎彦「…ん?何かものすごく恐ろしい言葉が聞こえた気がするなあ…。」
鍛郎「…鬼だなぁ…。」
それぞれ別々の仕事をしていた面々は、一旦全員が教室に戻ってきた。鍛郎率いる塗装メンバーが屋台のデザインをやっている間に、俺たちはタマゴンとまめめんの量産をしなければならない。
幸伶から調理法を書いたメモをもらったので作り方はわかるが、いかんせん工程と材料が多い。
さすが幸伶というだけあり、一般人がこなせる仕事量ガン無視でレシピが組まれている。
そのため、早め早めに量産してしまいたいのだ。
売り物は、料理経験がある俺や疾照、和城、素朗、優来、七夜で作ることになった。
材料を家庭科室まで持ってきた俺たちは、さっそく調理を開始する。
英春「さて、やっていくか…。」
優来「なんかさ…、工程多すぎてもう嫌になるよね…。」
和城「まあ、とりあえず作っていくか…。」
先ほども言った通り、工程が多くて複雑怪奇なため、作業内容をここに記すのはやめておく。
俺たちも字を見ながら何とかこなしているだけで、完全に理解しているとは言いがたいからだ。
優来「あ、なんかソフトキャンディになっちゃった。」
英春「もう少し加熱すれば何とかなる。」
そんなこんなで、何袋か作っていると、急に剣蔵が入ってきた。
剣蔵「邪魔するぜー。」
和城「本当に邪魔してきそうなやつが来たな。」
英春「確かに。」
剣蔵「やかまし!そんなことより、素朗はいるか?」
素朗「ん?何?」
突然現れて、"やかましい"を古語風に言った剣蔵は、素朗の方へ向かう。
本当に急に現れたので、その場にいた全員が剣蔵に視線を向けた。
剣蔵「鍛郎が、屋台の塗装デザインの案を紙に書いて素朗に見せてこいって言うからな、持ってきた。」
確かに、剣蔵の手には何かの紙が握られていた。
強く握られているのでクシャクシャになっているが…。
素朗「ええ…?好きにやっていいって言ったのに…。鍛郎は生真面目だなぁ。」
疾照「うーん嫌な予感がします…。」
英春「奇遇だな。俺も嫌な予感がする。」
七夜「私も…。」
素朗から生真面目と言われるほどの人間が鍛郎なのだ。それなら自分のなかでもしっかりデザインは考えることができる。それなのにわざわざ案を他人に見せるということは、他者からの意見が欲しいか、それか例の案が鍛郎から出たものではないかのどちらかな気がする。何せ、鍛郎以外でデザインを担当しているのは、剣蔵と虎彦、幾斗、そしてあの幸伶なのだから。
そして、幸か不幸か、その予想は当たってしまった。
素朗「………。………………。」
和城「…何か、素朗の顔がどんどん険悪になってくぞ…。」
英春「ああ、これは…。まあ…、あいつらにやらせていたらそうなるか…。」
疾照「ああー、察しました…。」
優来「……あ、あはは……。」
七夜「これはまずい…、よね…。」
ひと通り案に目を通したのか、素朗は顔を上げて剣蔵の方を見た。
俺たちが立っている調理台のところからは、ちょうど顔が見えないが、あきれているか怒っているかのどちらかだろうな…。
素朗「…うん、鍛郎の判断は正しかったよ…。これ、誰が作ったの。」
剣蔵「…え、ああ、これ?幸伶。」
まるで話を聞いていなかったかのように、能天気な返答をした剣蔵を横目に、素朗はそのデザイン案を俺たちにも見せてきた。
そして、俺たちは絶句した。
和城「落書き……?」
七夜「……うえ…。」
疾照「ちょっと、これは……。」
英春「………酷いとかいう話じゃなくなってくるぞ…。」
素朗「ごめん、私の人選ミスだよ、これは…。」
百歩譲って、屋台の店名である"新感覚のキャンディ!タマゴン&まめめん"の文字が汚いのはいいとして、色使い、図形の使い方、どれをとっても"酷い"の2文字しか浮かばない。
まあ、この汚さは言葉にするのは難しい。というかしたくない。
優来「うえー、なんかばっちい…。」
英春「言ってやるな…。」
俺たち7人の間に絶望の空気が流れていることも気に留めず、剣蔵がこちらにやってきた。
剣蔵「幸伶から、また別のデザイン案が届いたぞ。」
英春「………は?」
和城「え?どういうこと…?」
素朗「今、幸伶が?ここに来て?」
疾照「デザイン案を…、剣蔵さんに渡したと…?」
優来「そんなことできるの?」
剣蔵「いや、本当に、今幸伶がダッシュでここまで来て、これを渡してきた。ほら。」
英春「うわうわッ投げんなよ…。」
一見、さっきの紙に似ているが、問題は内容だよな…。
俺がデザイン案の紙を手に持っているので、必然的に皆も寄ってくる。
しかし、先ほどの惨状をしっかりと見てしまったので、あまり乗り気ではない。だが、ここで見ないというのも問題なので、俺は意を決して紙を開いた。
みんな「……えええええええええええ!?」
その瞬間、全員が死ぬほど驚いた。紙に書いてあったデザインは、俺たちが酷評したところ(全部)を丁寧に修整してあり、字も宣伝として見ればよくできた代物で、本当にあれと同じ人間が作ったのか、疑わしいほどに完成度が高かった。
七夜「え、これ、本当に幸伶くんが描いたの…?」
優来「そ、そうだよ!怪しいよこれ!鍛郎が作ったんじゃないの!?そもそも作るの速すぎだって!」
剣蔵「いや、本当に幸伶が描いた。残念なことにな。鍛郎にも確認取ったから確実だ。」
和城「ええ…。」
疾照「幸伶さん、意外と絵を描くのが得意なんですね。」
英春「…じゃあ最初からこれ描けよ…。」
剣蔵「最初のは適当に描いた遊び半分のだったんだろ。」
英春「いや、だとしてもああはならんだろ…。」
そんなわけで、修整版の幸伶案で屋台デザインは通り、俺たちも急ピッチで調理を進め、何とかノルマ分の商品を作り終えた。
ほんの少し見た目が雑になってしまったが、違和感はないし味と衛生状態が1番大事なので、大した問題ではないだろう。
結局、塗装に思った以上に時間がかかり、全て終わった時には17時になっていた。
当然、この季節なので空はもうかなり暗くなってきた。
先生や警備のおじさんの付き添いで、俺たちはそれぞれの家に帰っていった。
英春「おじさん、ありがとうございました。」
吉興「これくらいなんてことねえよ。それより、明日頑張れよ!」
望美「任せといてよ!」
そう言い残し、警備のおじさんも帰っていった。
幸伶「明日かあ。楽しみだね、みんな!」
疾照「売れるか不安ではありますが、楽しみです!」
望美「楽しみじゃないわけないよね〜。」
和城「楽しみだから早く寝たい。」
英春「普通楽しみだと寝れないんだけどな…。」
さあ、明日が祭り本番だ。思う存分、楽しまなくては。




