第49話 月観る秋風
月が変わって、10月になった。こうしている間にも祭企画は順調に進展が見られているが、今日は久しぶりに休むことができる。
本日10月1日は中秋の名月。天気も晴れそのもので、まさに月見びよりと言える。
そんなわけなので、さっさと学校が終わってほしいのだが、こんな時に限って6限授業である。
しかも最後の最後に算数とな。地獄かねここは。
鍛郎「ど、どうしたんだヒデ…。元気ないぞ…。」
虎彦「また熱中症か?」
英春「違う。最後の最後で算数があるから気分が沈んでいるんだ。」
望美「ちょっと気持ちわかるかも。私も算数嫌いだもんね。」
そんなこんなで、多くの人が文句を言う中でも、今日最後の授業が始まった。
直我「よし、授業始めるぞ。日直はあいさつしなさい。」
幾斗「High!KIRITU!REI!TYAKUSEKI!」
直我「お前何度言ったらわかるんだ!挨拶の時はちゃんと言いなさい。」
幾斗「High」
凌貴「とうとうローマ字発音どころかそれっぽい英語を話し始めた…。」
毎度のごとく、癖の強いクラスメイトによる挨拶が終わると、先生は黒板に文字を書き始める。
さて、この時間を俺はどれほど耐えれるだろうか…。
英春「あああああ…、疲れた…。」
疾照「何してるんですか、英春さん。この後お月見団子を買いに行くんですよね?早く支度してください。」
英春「ちょ、休ませてくれよ…。」
たった45分なのに2時間たったかのように感じた授業も終わり、さて帰ろうといったところだ。
夏至からだいぶ遠ざかったために、日が落ちるのも早くなってきた。
すでに太陽は西の山々にさえぎられようとしている。
月見団子を買いに行くのはいいが、その前に虎彦と剣蔵にススキを持ってきてもらうよう頼まなくては。
中秋の名月の話をすると、この2人も参加したいというので、同居人5人と虎彦、剣蔵の計7人で月見をすることになった。
そんなことはどうでもいいとして、俺は2人のもとへ向かった。
英春「虎彦、剣蔵。」
虎彦「おうヒデ!今日の月見楽しみだな!」
剣蔵「ちゃんと団子はあるんだろうな。」
英春「それを今から買ってくるんだ。2人に頼みごとがある。三質湖のそばにススキの群生地がある。そこでススキを2、3本とってきてくれ。」
俺は、そこまで言った後、和城から拝借した農業用のハサミを虎彦に渡した。
虎彦「任せとけ!」
剣蔵「じゃ、さっさと行くか。」
英春「頼んだぞ。」
とりあえず、1つ目のやることは達成した。あとは団子だな…。うちには胃袋ブラックホールの朝倉望美とかいうのがいるので、大量に用意しないといけない。早くも今月の家計がピンチである。
英春「うう…。」
疾照「重いですね…。」
なんとか団子を買い、家に帰った時にはすでに午後5時だった。
誰が呼んだか、虎彦と剣蔵も当たり前のように居間のちゃぶ台前に座っていた。飯を食うつもりなのだろう。別に望美の食事量を抑えさせればいつもより多く作らないといけないという問題は解決するが、
…このちゃぶ台で7人もおさまるのだろうか…。
英春「で、誰だこの2人を飯にまで誘ったのは。」
幸伶「………。」
望美「………。」
またお前らか…。
望美が自身の器によそわれたご飯の量にご立腹ではあるが、夕飯も済み、さて月見だというところで、和城が庭からもみじの鉢植えを持ち出した。
秋特有の真紅の葉が、その木にしっかりとついている。なかなか立派なものだ。
和城「ススキと一緒に飾っておくか?」
英春「そうしようか。」
望美「さすが和城!きれいだね。」
和城「ほめても飯は出て来んぞ。」
望美「そういう目的じゃないよ…。」
疾照「皆さん、月が出てきましたよ。」
幸伶「あ、ほんとだ!」
先ほどまで雲で隠れていた月が、夜空に映し出された。俺たちは急いでススキともみじを縁側に置き、事前に買ってきた団子を大皿に移し、こちらも同じように置いた。
みんなそれぞれ自由気ままに縁側にある座布団に座った。
ガラス障子を全開にしているので、秋中盤の涼しさが家の中に入ってきた。
虎彦「きれいだなあ。」
望美「たまには、こうしてゆっくり風景を眺めるのもいいかもね。」
英春「いつもゆっくりしてもらっていいんだぞ。」
疾照「そうですよ。」
剣蔵「幸伶と望美が静か?ありえんな、こんなやつらが静かなんてありえん。」
和城「君が言えたことではないよね、剣蔵…。」
みんなそれぞれ冗談を言い合っては笑っている。とてもゆったりした時間だ。
9月に入り、2学期が始まっても全然ゆっくりできないほど、この村は常時騒がしいが、それがまた新鮮で、新たな楽しみを知ることができる。
…今まで、まともに月見をする余裕があっただろうか、月見だけじゃなく、七夕とか、正月とか、いろいろな行事もそうだが…。
俺は、そんな無駄な物思いにふけりながら、団子の大皿に手を伸ばそうとした。
だが、俺の手は空を切る。変に感じて、皿のほうを見てみると、…もう、団子はなかった。
英春「え、もう団子ないんだが…。」
幸伶「ええ?あんなにあったんだからまだ数個くらい…、もうない!!」
英春「だから言ったんじゃねえかよ!」
和城「望美…、またかい…。」
虎彦「え、まだオレ団子食ってなかったんだが!?」
疾照「…望美さん、言い訳だけは聞いてあげなくもないですよ…。」
全員に睨まれて、真ん中のほうに座っていた望美は、文字通り四面楚歌である。
観念したのか、望美は、言い訳を始めた。
望美「いや、晩ごはん、量少なかったから、お腹空いてて…。」
…どんな反応を示せばいいのかわからん…。どのような反応をすればわからない言い訳が返ってきたから…。…この文だと理由の説明になってないな…。
とにかく、いくら腹が減っていたからといって、皆のものを全部食べるのはおかしいという結論に至った。
俺たちがどんな会話をしていても、月はかまわずウサギの模様を浮かべて澄んだ夜空に浮かんでいた。




