第45話 騒ぎ前夜の静けさ
昨日は澄晴くんによって無駄に疲れてしまった。
今日は日曜日。明日は普通に学校だし、しっかり休みたい。
…が、この家ではその願いが聞き入れられることはないので、安寧の地を求めて村を歩くことにする。
下に降りると、幸伶と望美、和城が格闘ゲームをしていた。やはりこの家は騒がしい…。こんな環境で休めるかってんだ…。
俺はいつも通り廊下を歩いていたが、何かを踏みつけて、そのままバランスを崩してしまい、滑って転んだ。
英春「痛ッ!…なんだよもう…。が、ガラケー!?」
床に落ちていたのは、スマホに取って代わられた存在であるはずのガラケーだった。
この家で何ヶ月も過ごしている以上、俺以外の4人のうちの誰かの持ち物ということは確定しているのだが、どうせ幸伶か望美あたりだろう。
決めつけではあるが、疾照や和城がコレを手に持っているところを想像することができない。
俺は幸伶たちがいる居間に入った。
英春「おい、何かガラケーが落ちてたんだが…。」
幸伶「あ、それ僕のだよ。ありがとう。」
英春「やっぱりお前か。危ねえだろうが。…なんでスマホにしないんだよ。」
幸伶「だって必要ないんだもん。英春くんも携帯電話持ってないじゃん。」
英春「…確かに…。」
幸伶に筋が通った反論をされるとは思っていなかったので、肩透かしを食らってしまった。
俺はなんとも言えない気持ちで家を出た。
安寧の地を求めて、と言ったはいいものの、正直行くあてはない。このあたりにある唯一の公園は小さいし、どうせ幾斗と鍛郎あたりがいる。湖も昨日行ったのであまり行きたくない。さて、どうしようか…。
今日もしっかりと晴れてはいるが、先月のような蒸し暑さはない。日差しが強いだけだ。
俺は、何も考えずにバス停に来た。4月のはじめにこの地に降り立ってからはや5ヶ月。…本当にここまで充実した人生を送れるようになるとは思わなかった。
あの家の5人でここに初めてこの景色を見たときは、まだ桜が咲いていたか…。今はもう紅葉が始まろうという時期である。
正直、休みたいのか感傷に浸りたいのかよく分からなかったが、俺はバス停の近くにあるベンチに腰掛けた。1日数本しか来ないバスなんだ。乗客と勘違いされることもない。
…………。半分ほど塗装が剥げたバス停看板を見ながら、俺は考えた。この生活は、あと半年しか続けることができない。幸伶、望美、和城、疾照とは同じ学校だ。帰っても変わらず関わりを持つことができる。
だが、4年い組の14人で集まることはない。
…それに、帰ってもどうせまた虐められる毎日だ…。
俺は、ベンチの上に落ちていた剥げ落ちたペンキの破片を手に取り、何となく潰した。
ただただ手持ち無沙汰なだけだと信じたい…。
幸伶「…あ、いたいた。お〜い英春く〜ん!」
英春「…幸伶。何でここにいるんだ。」
幸伶「え?英春くんを呼びに来たからじゃん。英春くんって1人になりたいとき、いつもここか湖にいるもんね。」
英春「………。」
幸伶「…素朗がさ、4年い組のメンバーを集めてるんだ。何か、重大発表するとか何とか。」
英春「…重大発表ねえ…。」
幸伶「素朗のことだよ。悪い話ではないと思うな。行こうよ。みんな待ってるよ。英春くんのこと。」
俺はそのまま、幸伶に手引きされて公園に向かった。
変に考えていた、俺がバカだったのかもしれない。
中学生とか、高校生にでもなれば、別に1人でここに来たって問題ないではないか。少なくとも、小学生である今、考えることではない。
素朗「よ〜し、みんな集まったね。」
望美「どうしたの?日曜のこんなお昼時に。」
幾斗「オレのRANTI・TAIMUを邪魔したんだ!よほどのKOTOなんだろうな!」
凌貴「幾斗、英語に聞こえないよ…。」
幾斗「それは今はDODEMOYOI!」
優来「で、結局何なの?素朗ちゃん。」
素朗「一旦静かにしてくれ!」
しかし、まあまとまりのないクラスと言えようか。どいつもこいつも素朗の話を聞こうとはしない。
素朗「………。…瑞穂、やっておしまい…。」
瑞穂「任せたまえ!……黙れええええええええ!!!」
その瞬間、瑞穂の大声が公園中、いや、このあたり一帯に広がった。そのおかげか、やっと全員が静かになった。
「うるさーーい!」
瑞穂「あ、折尾のおばちゃんごめんなさい!!」
…やはり、近隣の方に迷惑をかけていたようだ…。
素朗「…やっと静かになったから、話せるね。なんと、とんでもないことが決定されました。」
七夜「とんでもないこと…。」
虎彦「学校でも爆発したんじゃねえの?」
和城「んなわけないだろ。」
素朗「なんとですね…。」
幸伶「えええええええええ!?」
英春「驚くの早えよ!んでもって、そのネタは色んなところにある。」
また幸伶が話を遮ってしまった。素朗本人は顔に出さないようにしているのだろうが、かなり怒っているのがよくわかる。隣にいる瑞穂も、冷や汗をかいているからな…。
素朗「…まあ、あのね、私たちの学校って、だいたいこの季節に、劇発表会があるのね。」
英春「…いやいや俺の方見て言われても困る…。」
素朗「あ、ごめん。まあ、あるわけですよ劇発表会が。これ、私たちのクラスだけ免除されました。」
優来「…嘘だあ。」
七夜「あれやらないんだ…。」
鍛郎「まあ、面倒だったからなくなったのはありがたいけど…。」
剣蔵「どうせさくしやー」
凌貴「剣蔵、それより先は言ってはならない。」
剣蔵「…へい。」
素朗「ただね、そんな甘い話もないわけで、かわりに、今度紅葉神社でやる秋祭りで、"何かをやれ"って、言われた。」
どういうこっちゃ…。発表会やりたくなければ、かわりに祭で何かしろってことなのは理解できる。"何かやれ"は適当すぎないか…?…というか、学校側は何考えてるんだ。こんなことあっていいのか?
疾照「…ということは、許可さえ取れれば、何でもできるのでは…?」
望美「確かに〜!」
虎彦「何でもできるのか!」
鍛郎「ちなみに素朗、準備時間は…。」
素朗「…あと2週間です。」
皆「……短すぎいいいいいいい!!!」
これは…、また…、大変な日々が始まりそうだ…。




