第44話 8対10
残暑はまだまだ厳しいが、8月のときよりかは涼しくなってきた。庭いじり担当和城によって、いつの間にか庭にモミジやイチョウの鉢植えが置かれていた。あと1ヶ月もすれば、もっと涼しくなってこの木々も赤や黄色に色付くのだろう。
まだまだ風鈴が吊るされている縁側で、俺はあてもなく座って空を眺めていた。すると、玄関のほうから足音が聞こえてきた。
望美「ヒデエエエあああああああ!!!」
望美が走っていたが、縁側にさしかかる前の直角カーブを曲がりきれず、そのままガラス障子を吹き飛ばして庭に飛んでいった。
英春「うわあああああああ!!何してんだお前!!」
望美「いてて…。…あ、よかったガラス割れてないよ!」
英春「それは何よりだが、ガラス障子をレールに戻すのは誰がやるんだ。」
望美「ごめんなさい。いやいやそれより、見てよコレ!」
そう言って、望美は握っている紙切れを渡してきた。
英春「なんだコレ…。手紙か…?」
折りたたんであったので、開いてみると、まあ汚い字でびっしりと文字が書いてあった。
望美「うえ〜汚いね。」
英春「ああ…。読みづらいな…。」
とはいえ、内容もわからないのももどかしいので、目を凝らして何とか解読してみた。
英春「えー、移住少年少女の諸君、俺たちと戦おう。三質湖のほとりで待っている…。…福井澄晴より…。」
望美「…なんだ、澄晴くんか〜。」
英春「なら無視しても大丈夫だな。…ん?後ろになんか書いてる…。えー、俺が書いたからって無視すんなよ!信頼できる友人全員連れてきな!…だってさ。」
望美「怖っ!私たちの心読んでるじゃん。」
正直、無視したかったが、澄晴くんの面倒くささは、彼の友人の博斗くんや幕奈さんからよく聞かされている。…仕方ない。この家の住人と、あとは素朗、瑞穂、幾斗の3人を連れてくか…。
えっと、場所は三質湖か…。三質湖と言えば、すぐそこにあるいつもの湖だ。
来てみると、そこには10人程度の人がいた。その中には、澄晴くんや博斗くん、幕奈さん、そしてこちらもまた澄晴くんの友人である琴徹くんや森三郎くんもいる。
澄晴「よお英春!ちゃんと来たな!」
英春「何なの急に。」
幸伶「何か人がいっぱいいる…。」
望美「まさかカツアゲ!?」
博斗「まさか…。僕らがそんな事をするように見えるかい…?」
和城「…いいえ…。」
幕奈「今の小学生ってカツアゲなんて言葉知ってんだね…。」
瑞穂「…で、誰この人たち…。」
あの汚い手紙に書いてあった"戦う"とは無縁の空気が、両者の間に流れている。…本当に何で呼ばれたんだ…。
澄晴「おっと、紹介し忘れてたやつが何人かいるな。」
そう言って、澄晴くんは歩き出した。
澄晴「コイツは林林次郎。名前の通り森三郎の兄だぜ。」
林次郎「よろしく。」
澄晴「で、その2人の兄なのが、林木太郎。」
木太郎「ヨロシクナー!」
澄晴「コイツは歌川実那。そしてコイツは山田金座、んでもってコイツは森久敏だ。」
和城「…多すぎだろ…。」
実那「最後の方だいぶすっ飛ばしたね…。」
人の説明にしてはだいぶ雑なダイジェストメンバー紹介も終わり、澄晴くんの目つきが変わった。
澄晴「さて、メンバー紹介も終わったし、やろうか…。…ジャンケン大会…。」
英春「……へ?」
幸伶「……え?」
望美「……ふぇ?」
疾照「……はい…?」
素朗「……うん……?」
みんなそれぞれ反応は違うが、あまりにも子供じみた勝負の内容に、その場にいた小学4年生全員が素っ頓狂な声を出した。
博斗「まあ、そんな反応するよね…。」
澄晴「俺は考えた!もっと年の差がある子供同士も仲良くなれるのではないかと!」
琴徹「また何か始まったぞ。」
澄晴「だから!まずは少しばかり関わりのある君たちから仲を深めていこうと思ったのだ!!」
幕奈「あのさ、言ってることはすげえ立派なんだけど、やることがダサすぎるんだよ。」
澄晴「嘘だろ?」
うちはとてもクセが強いが、向こうも向こうでクセが強いらしい。まあ、俺たちも暇だからここへ来たわけなので、おとなしくそのジャンケン大会に参加することにした。
澄晴「ルールは簡単だ。全員同時で俺とジャンケンして、勝ったやつだけ立っている。最後まで生き残ったやつが中学生なら中学生チームの勝ち、小学生なら小学生チームの勝ちだ。」
幾斗「ちょっとMATE!あんたらの方がNINZUが多い!」
瑞穂「確かにな。」
俺たちは8人、向こうは澄晴くんが抜けても9人。向こうのほうが生き残れる可能性が高い。
澄晴「俺は"友人は全員連れてこい"って、紙に書いた。その人数でやって来た君らが悪い!」
望美「え〜〜?」
幸伶「ちょっと英春くん…。」
英春「俺に責任を押し付けるな。」
澄晴「まあ、始めるぜ。最初はグー……、」
俺たちはその合図を頼りに、拳を空に突きだした。
澄晴「ジャンケンぽん!!」
森三郎「これは……。」
林次郎「おい澄晴待てよ。何だよその手。」
澄晴くんは、親指と人さし指、小指を上に突きだした手を作っていた。
澄晴「あ、ミスった。」
和城「ジャンケンにミスとかあるのか…?」
英春「聞いたことないけどな…。せいぜい後出しとかだろ…。」
その後も、澄晴くんは変な手ばかり出してきて、まともにジャンケンができない。最初に怒りが爆発したのは、幕奈さんだった。
幕奈「おい澄晴、てめえジャンケンする気あんのか?」
澄晴「え………。…ある!」
澄晴くんがそう答えた瞬間、幕奈さんは澄晴くんの胸ぐらを掴んで、湖の方へ投げ飛ばした!
幕奈「ふざけんなああああああああああ!!!」
澄晴「うわああああああああ!!」
博斗「えええ!?何してんだよ幕奈!!」
金座「あ〜あ……。」
英春「………。」
疾照「………。」
和城「………。」
素朗「………。」
幸伶「ええ!?すごい!」
あまりにも突然の出来事に、俺たちの思考が止まった。
投げ飛ばされた澄晴くんは、そのまま湖にストンと落ちた。空中でジタバタすることもなく、直立状態を維持したまま頭から着水した。
そのため、水しぶきがない。
実那「あれは…、自業自得だね…。」
敏「ひえ。」
澄晴くん陣営のメンバーが自身の保身しか考えていない中、俺はいつものメンバーの方へ向き直した。
英春「…しばらくこの人たちとは距離置くか…。」
小学生組「…賛成…。」
悲しきかな、澄晴くんの夢は夢で終わった。




