第43話 外界を見る経験は…
幸伶「日本語以外の言葉を習得した〜い。」
英春「なら英語をマスターしろよ。」
剣蔵「タシカニ〜。」
休み時間、幸伶がまた変なことを言い出した。
なんで突然に外国語の習得なんて言い出したんだろうか…。
素朗「そういえば、ヒデのおばあさんって、ロシアに住んでるんでしょ?」
英春「なんで知ってんだよ。」
素朗「望美が言ってた。」
英春「…あいつ…。」
俺の父方の祖父母は、現在ロシアのハバロフスクに住んでいる。とはいえ、2人とも日本人なので、孫の俺も日本人。だが、向こうに行く機会が度々あったので、ロシア語も話せる。…読み書きは怪しいが。
疾照「英春さん、ロシア語話せますよね?」
剣蔵「うわッいつの間に!!」
英春「なんでわかったんだよ!お前心でも読んだか!?」
疾照「顔に書いてありますよ。」
英春「は?」
そう言われると、何やら額に違和感があるように感じてきた。
必死に顔を探ってみると、なぜかふせんがついていた。そのふせんには、"ヒデはロシア語話せるらしい"と書いてあった。
…どうせ望美だろうな…。…でもどうやって貼った!?
本当に顔に書いてあるとは思わないだろ…。
幸伶「羨ましいなぁ…。」
素朗「なんか言ってみてよ。」
英春「いやだ。」
普通に面倒だ。そもそも普段使わないから自信ないし。いつの間にか俺の方に話題が向いているので、元に戻すか…。
英春「で、幸伶は外国語習得したいんだろ。何がいいんだよ。」
幸伶「ヨーロッパ。」
凌貴「ヨーロッパと聞いて。」
剣蔵「うわッ疾照が凌貴になった……。」
先ほどまで疾照が立っていたはずの場所には、凌貴が立っていた。そして、疾照はすでにどこかへ行った。
凌貴「ヨーロッパなら、主にラテン系かゲルマン系、スラヴ系があるけど、だいたいラテン系はイタリア語とかスペイン語、フランス語がある。ゲルマン系はドイツ語や英語、オランダ語。スラヴ系はロシア語とか…。とにかくいろいろあるね。」
凌貴は、おおよそ小学4年生とは思えないほど、言葉に関する知識を惜しみなく発揮した。まあ、自己紹介の時に近代史が好きだって言ってたし、詳しいのは当たり前か…。俺も本をたくさん読むから、語彙はあるとは思うし。
幸伶「イタリア語!気になるかも。」
剣蔵「ピッツァとパスタァのイメージしかないな。」
英春「初日のふざけた挨拶のときに話してたと思うんだが…。」
凌貴「ふむふむ、なるほどね。…君、巻き舌できる?」
幸伶「巻き舌…?」
素朗「なにそれ。」
英春「ああ、なるほど…。」
巻き舌とは、舌を震わせて連続的に音を出す発音法だ。イタリア語とかスペイン語、ロシア語などに見られる。…だが、できる人はできるし、できない人はとことんできない。幸伶ができるのかは未知数だ。
剣蔵「で?凌貴、その牧崎っていうのはなんなんだよ。」
凌貴「巻き舌な。人の名前みたいにしないでくれよ。まあ、慣れれば簡単だ。舌の先端を上あごにつけて、息を吐く。」
幸伶「なるほど。やってみよ!」
幸伶は大げさに口の準備をし、息を吐いた。が、出てきたのは空気が漏れる音だけ。
一瞬、その場に静寂が訪れた。
剣蔵「…うそだろ。」
素朗「意外と難しいんだね…。」
幸伶「え、今の成功じゃないの!?」
英春「どこで成功したと思ったんだよ。」
凌貴「発音は"ル"かな。はい、英春、実践してみて。」
英春「ええええ………。」
一度回避したと思っていたロシア語実演の危機が、また訪れてしまった。が、今回ばかりはどう考えても逃げ道はない。…おとなしく実演するしかないか…。
英春「Эта работа требовательная, но платят хорошо. Что скажешь? Думаю, она бы тебе отлично подошла(大変な仕事だが、給料はいいぞ。どうだね。君に合っていると思うのだが。).」
剣蔵「おお!すげえ。なんて言ってるか全然わからん!」
素朗「なんか変に聞こえるけど、うん、多分そうなんだろうね。」
英春「そりゃ所詮は日本人の子供が多少話せる程度だからな。」
幸伶「すごいなあ。英春くんは何でもできるじゃん。」
英春「運動できない。」
凌貴「ありがとうヒデ。今の中に巻き舌があるね。あのイメージだよ。さ、幸伶。やってみな。」
幸伶「うん、わかった!」
心の準備をしたいのか、幸伶はいつもの謎の動きをしている。…毎回動きが違うから、何を意味してどういう意図でこれをするのか、俺にはよくわからない。だが、もう見慣れたので、別に何の感情もわかない。ただ、早く終わってほしい。
幸伶「よし、準備できた!すーーーーッはーーーーッ」
素朗「……。」
剣蔵「……。」
幸伶「デデデデデデデデデデデデデデデデデデデ!!!」
英春凌貴「おいおい待て待て待て!!!」
幸伶「え?できたじゃん!」
英春「いやいや、巻き舌は基本ら行の音しかできないはずだ!!なのになんで"デ"なんて発音ができるんだよ!」
凌貴「そうだよ!君のそれは巻き舌じゃない。機関銃音だ!」
英春「何だよその例え…。」
俺たちが驚いている横で、剣蔵と素朗は大爆笑していた。さらに、近くにいた鍛郎や虎彦、和城、七夜も笑っていた。いつの間にかギャラリーができていたらしい。
幸伶「いやー、照れるなあ。」
英春「いや、お前のこと褒めてるんじゃないんだぞ…。」
結局、幸伶には巻き舌適性がないことが判明し、ただただ俺が無駄にロシア語を披露しただけに終わった。
そうこうしているうちに、貴重な昼休みが終わってしまった…。
…そういえば、図書室から借りた本で、今日返すやつがあったような…。
「…延滞してますね…この本…。」
「すみません…。」




