第42話 初秋の箱庭
残暑が厳しい…。9月になったとはいえ秋の顔が現れるのはまだまだ先らしい。
しばらく教室の扇風機もフル稼働のようだ。
幸伶「………。」
優来「…幸伶、どうしたんだろ…。」
素朗「先生から呼び出されてるんだってさ。」
英春「本当、勘弁してほしいさ…。付き添いで俺も行かなきゃならないんだからな。」
優来「それは可哀想。」
虎彦「幸伶のやつ、何したんだろうな。」
英春「さあな。まあ、どんな理由であれさっさと終わらせて帰りてえ…。」
しばらく雑談していると、先生に言われた時間になった。俺は何かの絵を描いていた幸伶を無理やり引っ張って、職員室まで向かった。
…にしても、幸伶が呼び出されるのはまだわかるが、なんで俺も行かなきゃならないのだろうか…。
俺は特に何かやらかした、なんてことはない。…はず…。
わからない…。もしかしたら、無意識のうちに何かやらかしたかもしれない。まあ、やはりその"何か"の見当は全くつかないが…。
職員室に向かう最中、さすがの幸伶も事態の深刻さを理解したのか、いつものおちゃらけ顔が嘘のように真顔になっていた。
ド田舎の学校ということもあって、職員室にたどり着くのにそこまで時間はかからなかった。
俺はノックしたあとに戸を開けた。
英春「失礼します。4年生の高倉英春と伊佐幸伶です。呼び出されたので来ました。」
直我「おう、やっと来たか。まあ、入りなさい。」
矢張先生に手招きされたので、俺たちはそこまで移動した。
正直、かなり緊張していた。それは幸伶も同じらしい。
直我「すまんかったな、英春。わざわざ来てもらったが、あらかじめ言っておくと、君は特に何も問題を起こしていない。」
英春「…よかった…。自分も呼ばれたんで、何かやらかしたんじゃないかと…。」
直我「大丈夫大丈夫。君の態度の良さは担任である俺が1番理解してるからな。何かあっても君なら仕方ないで済むだろうな。」
そう言い終わると、矢張先生は幸伶の方に向き直した。
直我「で、問題は、お前だ、幸伶。」
幸伶「ですよねー…。」
ビビり散らしているのか、緊張しているのか。幸伶の声は震えていた。だが、いつもの調子が抜けきれておらず、ふざけているとも取られかねない言葉が出てきた。
直我「これは、お前の夏休みのワークだ。」
幸伶の目の前に、最後の日にみんなで苦しんで終わらせたワークが置かれた。
直我「お前、答え見てやっただろ。」
幸伶「…やってないです。」
英春「………。」
俺と和城、疾照が見守り始めたとき、すでに何ページか終わっていた気がする。
俺たちが幸伶と望美の見守りをしていたときより前に解いた問題は、もしかしたら答えを見てやったかもしれない。
直我「ここだ。こんなムズい問題、お前が解くことができるとは到底思えない。」
英春「あ……。」
幸伶「い、いやいや!コレは自分で解きましたって!」
先生が指した問題は、俺たち3人が苦労して解いたにもかかわらず、幸伶がすぐに解いた、あの超難問だ。
英春「先生…、その問題、本当に幸伶が自分で解いてましたよ……。」
直我「……マジ…?」
英春「和城と疾照も見てます。幸伶が解いたところ。」
幸伶「英春く〜ん、助かったよ…。」
直我「え?ああ、すまなかった、幸伶!誤解していた。…よ、用件はこれだけだから、2人とも、教室に戻っていてくれ…。」
さすがに先生もきまり悪いのだろう。すぐ戻るか…。
英春「…そう言えば先生、なんで俺も呼んだんですか。」
直我「ああ、幸伶のふざけ対策だ。」
その一言で、妙に納得してしまったのが地味に嫌だ…。
俺と幸伶はしっかりあいさつしたあと、教室への帰路についた。
幸伶「いや〜、ありがとう英春くん!本当に助かったよ。」
英春「ま、友達だからな。友達は助けてやらんと。…だが、お前が悪いときは容赦なく先生方に突き出す。」
幸伶「…怖いって。」
英春「で、お前、本当に答え見てやってないよな?」
幸伶「え………………………。……………やって………………、ない。」
英春「間が長い。それだけのばされると返って怪しく見えるぞ。」
幸伶「いや、やってないよ!!」
何度か幸伶を睨みつけてみたが、めちゃくちゃ怪しい。とはいえ、幸伶がやっていようがいまいが、俺には関係ないことだな…。俺たちはいつの間にか教室の前まで来ていた。…いや、よくよく考えてみれば、また幸伶が呼び出されたら、俺も連れ出されるよなあ…。
…やっぱり問い詰めておくか…。
英春「…本当にやってないんだな。」
幸伶「やってないよ。」
英春「じゃあ、この問題解いてみろ。」
幸伶「え……。」
俺は、ノートに割り算の筆算の問題を書いた。コレは、あのワークの算数の欄に載っていた最初の問題だ。
さすがにコレはできるか…?とも思ったが、幸伶はすでに思考を放棄していた…。…おい。
英春「…やっぱり答え見てやったのか…。」
幸伶「…はい…。」
英春「すぐ自首してこい。」
俺は、すぐに幸伶を職員室に向かわせた。さて、次の授業の準備も終わらせたし、しばらくゆっくりするかあ。
ーーピーンポーンパーンポーン 呼び出しの放送です。4年い組の佐藤幾斗、山口瑞穂、稲沢優来は、すぐさま職員室に来てください。ーー
…あいつらもか…。




