第38話 ひとまとめにできない情緒
日ごろから幸伶に連れられて山の中や湖で遊んでいるおかげだろうか。
1日休んでいるとすっかり足の痛みも取れ、しっかり走ることもできるようになった。
そんなこんなで頭がおかしいことばかり起こったこの小旅行も、残すところ今日1日だけ。海に入らないのも失礼なため、今日は俺と幸伶も海水浴場にやってきた。
…そういえば、1日目はなぜか釣りをしたんだっけ…。
和城「完治したようで何よりだ。」
英春「まあな。…というか、お前らは一昨日と昨日でぶっ続けで遊んでたのか…?」
和城「幾斗とか瑞穂とか、望美とかはな。あいつら、どこに燃料タンクがついてるんだか…。」
英春「太陽光発電なんだろ。」
海に来たというのに砂浜で呆然と立っているだけの俺と和城の目の前には、無駄にしっかりした準備体操をする幸伶たちの姿があった。
瑞穂「おいヒデ、和城!お前らも準備体操しろ!」
望美「そうだよ。運動する前に体操しないと、いざという時に助からないよ?」
幾斗「HAYAKUSHIRO!」
幸伶「おおおお!伸びるううう!」
俺と和城のとなりには、素朗と疾照がいた。…このメンバーが参加していないということは、もうお察しだろう。
素朗「あ、あのさ…。」
幸伶「ええ?どうかした?」
疾照「あの…、皆さんの主張は、何も間違ってなんかいないのですが…。」
和城「うん…。」
英春「…その体操の仕方は何なんだ…。」
慣れたと思っても、実際には全然慣れていないの-がこいつらのギャグなわけだ。
そう。幸伶たちは、砂の上に正座し、そこから微動だにしないのかと思えば、急に手だけを使って歩き出したりと、到底人間が理解するのは不可能な体操、いや、奇行をしていたのだ。
おまけに、その理解できない奇行を人間がやっているという始末。
当然、周りの人も興味、あるいは恐怖の感情を抱いて、鋭いまなざしでこちらを見つめてくる。
もう遅いのだろうが、俺たちはやはりこいつらの仲間だと思われたくないので、さりげなく離れた。
3日たってもくたびれないエネルギー効率と、1日たつと足の痛みなんてなかったかのように動き回る変人どもは、その後どうなったのかは知る由もない。
しっかりと距離を置いた俺たちは、のんびり海水に浸かっていた。ほんの少しでも水が鼻に入ると、それはそれは言葉にできない激痛がやってくるのだが、それを抜きにすればかなり快適だ。
素朗「最終日には来れてよかったね。」
英春「ああ、本当に…。」
和城「おいみんな、また疾照が沈んじまった…。」
素朗「あきらめないねえ…。」
俺は自分の頭についているゴーグルを目の位置にまで持ってきて、潜水した。潜水といっても、深さはだいたい1メートル50センチくらい。追風村の湖より少し深いくらいだ。
疾照は泳げないのに、みんなと泳ぎたいからと言ってむりにここまで来たらしい。
和城が見張って、沈んだら俺が引き揚げるというのを繰り返している。浅瀬とはいえ、放置したら溺死するに決まっているからだ。
疾照「……。」
何度も沈んで耐性が付いたらしく、疾照は落ち着いて海の底でじっとしていた。いや、上がってくる努力はしろよ。
素朗「疾照、そろそろやめたほうがいいんじゃない?危ないよ…。」
和城「そうだぞ。幸伶とか望美とかなら別に溺れても生きていられるだろうが、君はそういうことはできんだろ。」
幸伶と望美がさりげなく人間卒業させられているが、今日の疾照は珍しく俺たちの忠告を聞かない。
疾照「お願いです。私にも泳がせてください。皆さんと一緒に海で泳ぎたいんです。英春さん、手を放してください。」
英春「疾照、それで溺死したらどうすんだ。俺は、いやだぞ。友人のそんなくだらん死に様は。」
和城「そうだぞ。学校のプールで練習しよう。そこなら先生の見守りもいるし、波があるここより安全だ。鼻に入ってもそこまで痛くないしな。」
しかし、それでも疾照は納得していない様子。なぜそこまでここにこだわるのか聞いてみた。
疾照「…この8人で行く海は、今日が最後になるかもしれないんですよ?」
そのとき、俺たち全員がはっとした。そうだ。俺たちは1年間だけの移住をしている。追風村に引っ越してきたわけではない。3月になれば、素朗、瑞穂、幾斗、鍛朗、凌貴、優来、七夜、虎彦、剣蔵とは、会えなくなる。俺含む移住メンバーは戻っても同じ学校だから、会える可能性はある。が、今日のように5人全員が集まることは、ないのかもしれない。
だから、今はこういう特別なことを全員で、というのは本当に大切なことだ。俺にとっても大切だ。人生で久しぶりにできた友人たちとの旅行なのだから。
次の瞬間、俺は疾照の手を放した。疾照は頑張って立ち泳ぎでこらえようとするも、持久力がないらしく、すぐに沈んで行ってしまった。俺がまた潜ろうとしたとき、突然疾照が海面に顔を出した。
英春「疾照!?」
和城「泳げてるううう!?」
素朗「え、ええええ!?どういうこと!?今さっき沈んでいったじゃん!」
疾照は急に動いてせき込んでいる。話ができない状況で、急に下を指さした。…海底になにかあるのか…?
俺と和城が潜水した。素朗に疾照の面倒を見てもらってる。
英春「!?!?!?!?!?」
和城「!?!?!?!?!?」
水の中なので話ができないが、海底には、なぜか幸伶をはじめとするいつものおふざけメンバーがいた。
しかも、寝そべっている!!これは本当にどういうことだ!?溺れているわけでもなく、陸上で寝ているかのように、リラックスした状態を保っている。
さすがに、これには言動が少し的外れな和城も絶句している。
なんとか全員海面まで引き揚げ、事情聴取を始める。とりあえず全員陸に上がった。…全員水着の地獄みてえな事情聴取だが…。
幸伶「いや~、あのですね…。」
望美「あの、疾照のこと助けようとしました…。」
英春「…はい…?」
…いや、言葉の意味は理解している。その意図も。
だが、それを含めてもなお、次の言葉が浮かんでくる。
…どういうこと……???
どうやら、俺以外のメンバーも、こいつらの言動を理解できていないらしい。…いや、こいつらが理解できない言動をするのはいつものことか…。
幸伶「いやね、疾照の言葉がこっちまで聞こえてきててね。きっと英春くんたちは助けてるだろうから、僕らも協力してみようって話になったんだ…。」
瑞穂「それで、うちらのアイデンティティである”奇想天外”を使って助けようとして、これを画策した。」
どうやら、自分たちが海底にいることで疾照が驚くだろうから、それを利用して疾照に海面まで上がるよう促そうとしていたらしい。
今回は無駄にしっかり反省の色を示したいらしく、普段使わないような言葉が飛び交っているが、そんな彼らに、俺はこう言った。
英春「それは俺に言うことじゃないだろ。疾照がどう思うかによる。」
ようやく体調も安定してきた疾照に、発言を頼み込んだ。
疾照「…おかげさまで何となく泳ぎのコツをつかみましたし、今回は許しましょう。」
望美「よかった~。嫌われたかと思った~。」
素朗「反省できるなら普段から真面目に生きればいいのに。」
幾斗「それはMU☆RI☆DA☆NA!」
英春「おい。」
何はともあれ、小さなトラブルも無事?解決した。その後、俺たちは幸伶たちの奇行にまた付き合わないといけないことになるが、それをこの時の俺は知らない。




