第37話 波から届いた自粛宣言
旅行、というか遠出2日目に入った。俺と幸伶は、前日に文字通り転げ落ちるようにして階段を全速力で降りた。そのせいで朝起きたらひどい足の痛みでろくに動けなくなってしまったわけだ。
かくして、俺と幸伶以外のメンバーは海へ、瑞穂は事の発端であるため、疾照と素朗からしばらく動けない俺たちの面倒を見ることを命令されたようだった。
動かないのでもちろん朝食をみんなと共に食べに行くこともできないので、瑞穂にコンビニで適当に食事を買ってきてもらった。
英春「…散々だ…。」
幸伶「ホントにねグアアアアアアア!!動けないしグアアアアアア!!面倒だもんねグアアアアアアア!!」
英春「うるせえ。」
幸伶「だって、痛いんだもん。」
何度も思うが、本当にコイツは面倒だ…。
本当に適当に買ってきてもらったので、朝食もすぐに済んでしまった。
朝風呂も行けないし、散歩も行けない。できることと言えば、テレビを観ることと幸伶と会話すること程度だ。
良くも悪くも落ち着いていられるので、さすがに幸伶も大人しくなるだろうと思ったのだが、どうやら見当違いだったようだ。
そろそろ旅館の運営側から文句を言われそうな気がするが、幸伶がそれを恐れるとは思えないから、しばらくはろくに休めそうもない。
すると、ノックがかかった。
いや、出れねえんだよ…。瑞穂に言えよ…。
鍵は瑞穂に渡してあるから、言えば多分開けてくれるはずなのだ。
すると、とうとう諦めたのか、ノックは鳴らなくなった。
幸伶「誰だったんだろ。」
英春「さあな。まあ、どうせメンバーの誰かが海に行くって伝えようとしてたんだろ。」
幸伶「もしかしたら、ドアを蹴破って無理やり入ってくるかもね。」
英春「ありえんな。ギャグ漫画じゃあるまいし。」
すると、今度は鍵が開く音が鳴り響き、望美と瑞穂が入ってきた。
望美「そろそろ海に行ってくるね。」
英春「わかった。」
幸伶「…………。」
英春「…どうした…。」
幸伶「…なんで、なんでドアを蹴破って来ないのさ!!」
…何を言っているんだこの童は…。
幸伶のその謎の叫びに、思わず硬直してしまう俺たち3名…。
しばらく、静寂が訪れた。これもすべて幸伶のせいである。.
数時間の間、和城と幾斗から部屋を借りて、そこに幸伶を押し込んでもらったので、かなり快適に過ごすことができた。
おかげで部屋の中程度なら移動することも可能になるほどには足が回復してきた。
そして、そんな喜ばしい状況の中、ひとつ不可解なことが起きている。幸伶がうるさくないのだ。
ここまで見てきた方ならわかるだろうが、幸伶は公共の場でも容赦なく騒ぐ。それなのに、別室に押し込んだ後の数時間は、一切大きな声が聞こえてこないのだ。
さすがに倒れていたら後々面倒なので、俺はまだまだ完治していない足を無理やり動かして部屋の外へ出た。
部屋まで出られたのはいいものの、別室を開けるための鍵がない。
右往左往しているうちに、とりあえずドアノブを回してみようとい思考に至ったので、ためしに回してみた。
英春「は…?なんで開くんだよ…。」
なんということか。鍵は開いていた。さすがにずさんすぎるとも思ったが、幸伶のことなので納得できる。
昨日もいろいろとお世話になった和城と幾斗の部屋に入ると、そこには誰もいなかった。
英春「…ああもう面倒臭えなあいつもいつも!どれだけ人に迷惑かけりゃ気が済むんだよ!!」
特に行先もない怒りを振りまいた後、俺は念のために窓を確認した。あいつのことだ、窓から飛び降りてもおかしくはない。…それはあいつを馬鹿にしすぎか…?
とにかく、窓は開いていなかったので、幸伶はこの旅館の中にいるということが分かった。
さすがに虫取りの時みたいにわざわざ探してやる義理もないため、俺は自分の部屋に戻った。しっかり歩けてるなら放置でも問題ないだろう。
俺は部屋に戻ると、思いっきり布団にダイブした。足の痛みが限界に達しているからだ。
英春「…痛え…。」
これではろくに動けないため、俺はまだまだ続く痛みに耐えながらも、読書をすることにした。
幸い、窓はかなり近い位置にあるために、山々のキレイな風景を楽しむことはできる。
まあ、窓を開けて海風くらいは感じたいものだが、あいにく布団から窓に手が届かない。
俺は、なんとなく学校で借りてきた郷土資料集を手に取った。
カバンの中にはまだまだ多くの本が雑多に入っている。
そうして30分くらいはその本を読んでいると、別のページから何かの紙切れが落ちてきた。
英春「なんだこれ。…だれだよこの紙はさんだ人…。」
その紙は、目で見てわかるくらいにズタズタだった。それも、かなり雑に扱われた後の…。
折りたたんであるようだ。捨ててやろうかとも思ったが、今も必要な大切なものだといけないので、そのまましまっておいた。
英春「……。」
だが、そういうものも開いてしまうのが小学生というもので、俺は好奇心からその紙を開いた。
中には、どこかでみたことあるような記号、というか絵が載っていて、下には”第三次リーフ研究レポート”と書かれ、さらに下には誰かの名前だと思われる文字列が書かれていたが、かすれていて”古市”の部分しか読めなかった。
英春「リーフ…。ああ、追風村の神社に伝わる伝説だっけ…。宗教学に関する調査かな…。」
実家には、祖父がだいぶ昔に買ったという仏教や神道などの宗教学にまつわる本が何冊かあったので、そういうものから知識を蓄えた。そのおかげで、この紙の内容もこうなのではないかと予想がついた。
さて、本を読んでいたら急に眠気が襲ってきた。俺は紙を戻し、本を閉じて布団で横になった。
しばらくすると、幸伶が戻ってきたのだろう。少しうるさくなってきた。…勘弁してくれ…。.




