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FELLO WSHIP WORLD 〜人の心を描く者より〜  作者: ハクタカ ヒバリ
新夏編

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第34話 幸伶による内なる目論見

望美も着替えから戻ってきて、いざ海水浴と息巻いたところで、全員腹ごしらえをしていないことに気がついた。まだ12時にすらなっていないが、伊良湖港で昼食をとることにした。

海といえば、やはり海鮮類である。

ここも、幸伶の底知れぬ謎のポケットマネーで支払われた。もちろん、望美は爆食いである。

望美「ちょっと食べ過ぎたかも…。」

素朗「だから少しは抑えなって言ったのに…。」

和城「まあ、望美が人の忠告を聞かないのはいつものことだしな。」

瑞穂「そんなことより、早く海行こうぜ。」

英春「今そこに向かってる最中だろうが。ほら、見えてきたぞ。」

もともと半島なので、海風を強く感じられるが、浜辺に近づいた途端、一気に風が押し寄せてきた。目的のビーチのようだ。

疾照「や、やっぱり人が多いですね…。」

英春「繁忙期だからな。」

幾斗「早くHAIRUZO!」

英春「はいはい…。」

ほとんど俺が引率したようなものなので、とんでもなく疲れた。そんなこともお構いなしに、みんな小走りに更衣室に走っていってしまった。

英春「…何してんだ幸伶。」

そのなかで、なぜか幸伶だけその場で立ち止まっていた。

幸伶「英春くん、ちょっと。」

英春「はあ?なんだよ…。」

なぜか幸伶に腕を引っ張られ、どこかに連れて行かれた。幸伶の手には、先ほどは無かったはずのクーラーボックスがある。…何する気だ…?

そのまま、あれよあれよと伊良湖港の桟橋に連れて行かれた。

英春「…で、こんなとこまで連れ出して、なんの用だ?」

幸伶「…英春くん、釣りをしよう。」

英春「…は?」

普段から突拍子もないことや、ぶっ飛んだことを言いまくる幸伶氏だが、今回も何を言っているのかわからない。

英春「なんで釣り…。」

幸伶「英春くん、釣りしたことあるでしょ。」

英春「なんでわかるんだよ…。」

俺が小学校に上がった頃、祖父から子供でも扱える釣り竿をもらったことがある。近くに豊川(とよがわ)と言う大きな河川があったから、よくハゼやなんかを釣っていた。その釣り竿は、今、追風村の押し入れのなかだ。俺が持っていくのを忘れたので、あとから送られてきたのだ。

幸伶「だって、英春くんは動植物の目利きがやたらできるんだもん。」

英春「まあな。小さい頃から山ん中にいるとそうなるわな…。」

幸伶「だからさ、釣りバトルしよ。一定の時間の中で、どっちが多くの魚を釣れるかのね。」

英春「…せっかくなら泳ぎたかった…。」

俺が明らかに不機嫌になっていくのを見て、幸伶はなんとか説得しようとし始めてきた。

幸伶「お願いだよ!大丈夫だよ明日もあるんだよ?なんせ2泊3日だもん。余裕あるよ。」

英春「まあ、明日泳げ…って、2泊3日ああああああ!?」

幸伶「え?うん。そう言ったじゃん。」

英春「言ってねえよ!なんならお前、1泊2日って言ってたよなあ!?」

幸伶「…あ、間違えてそう言ったねえ…。」

英春「てめええええ!!」

俺は、1泊2日だと聞いて1日分の着替えしか持ってきていなかった。あまり言語化したくはないが、汗まみれになったTシャツをもう1日着なければならない。

なんという地獄…。

幸伶「今さら足掻いても無駄だし、早く釣りしようよ。」

他者の心情も理解していない無神経男は、俺の右手に釣竿を握らせた。…リール付きの結構いいやつを…。

…もう、いやだ…。


10数分くらいは、桟橋に座って絶望していたが、だんだん吹っ切れ始めてきた。仕方なく、釣りバトルの相手をしようと思う。

英春「で、細かいルールはどうなんだよ…。」

幸伶「魚の匹数×(かける)10ポイント+(たす)釣った魚の大きさ、5cm×(かける)5ポイントだよ。」

要するに、より多くの魚を釣り、釣った魚が大きければ大きいほどよいそうだ。分かりづらい。

分かりづらい説明をひと通り聞いて、俺たちは自分の釣り糸についている針に、餌をつけた。

幸伶「よーし、釣りバトルはじめええ!!」

幸伶のその掛け声を目安に、俺たちは釣り針を投げた。お互いに同じ辺りの距離で着水したようだ。

幸伶「あ、かかった!」

英春「はやッ!」

幸伶の竿を見てみると、確かに少し引きがあった。しかし、かかったからといって確実に釣れるわけでは…。

幸伶「釣れた〜シロギスだあ〜!」

英春「だから早えよ…。」

幸伶は釣った魚をすぐバケツに入れた。多分あとでリリースするつもりなのだろう。

幸伶「あ、アジだ!」

英春「もう2匹目!?いつ餌付け替えたんだよ!!と言うかアジは投げ釣りじゃあ釣れねえよ!!」

投げ釣りだと歯が立たん…。

俺は幸伶の釣り道具の中からサビキの装備を引っ張り出した。サビキは餌カゴ内の餌で魚を寄せて釣り上げる方法で、本当は朝方のほうがよく釣れる。

とはいえ、このままだと幸伶が生態系を破壊しかねないので、ストップをかけるためにも、俺は準備した釣り糸を垂らした。

幸伶「サビキとはお目が高い。」

英春「…投げ釣りじゃあお前には勝てん…。」

俺と会話している間も、幸伶は魚を釣っている。なんなんだこいつ…。

いつの間にか、他の釣り人も幸伶の周りに集まってきていた。対して、俺は全然かからない。

幸伶とはたった1メートル程度しか離れていないのに、なんでここまで差が出るのか…。

すると、突然俺の竿に強い引きが来た。俺は何も考えずに竿を上下させていたので、危うくそのまま海へ落っこちるところだった。

英春「うわッ!何なんだ!?」

幸伶「英春くん!?大丈夫!?」

何とかその瞬間は耐えたものの、今だに強い引きがかかっている。ちょっとでも油断したら引き込まれそうだ。…釣り上げてはいけないような気もするが、そんなことを言っている暇はない。

幸伶「英春くん!助けるよッ!」

勝負うんぬんより、この場を切り抜けることのほうが大事だ。幸伶は、俺の胴をしっかり掴んだ。

いつの間にか、さっき幸伶のところにいた周りの釣り人も集まってきた。

死ぬ気でリールを回し、ようやくその魚が姿を現した。

英春「やあああああああああああ!!釣った…って、はあああああああああああ!?」

幸伶「えええええええ!?」

針にかかっていたのは、魚ではなかった。それは、本来なら陸で生活しているはずの…。

望美「あガガガガガガ……。」

…望美を釣り上げた。

はじめは心の底から驚いた俺たちも、数秒すると困惑のほうが勝った。

人間ををぶら下げていると竿が折れそうなので、とりあえず陸に上げることにした。…先ほどの嫌な予感とは、これかもしれない…。

英春「…何してんの…?」

望美「いやー、泳いでたら波で流されちゃって〜。そのまま潜水してたら小エビがたくさんいたからついつい…。」

小エビ…。俺がサビキで使った餌だ…。人間が食えるような代物でもない…。望美が本当に人なのかどうか、また怪しくなってきた…。

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