第35話 夕方へ進む
みんなクタクタに疲れて、旅館に戻ってきた。夕食までにはまだ時間もあり、俺と幸伶の部屋に全員が集まって雑談をしている。だが、さすがに8人もいると狭くてしょうがない。
疾照「そろそろお風呂でも入りませんか?」
素朗「あ、入りたいかも。」
幸伶「僕らも行こうか。」
和城「行こう。」
英春「とりあえず、この部屋のメンバーじゃないやつは出ろ…。暑苦しい…。」
瑞穂「ケチだな。」
英春「うるさい早く出ろ!」
コレくらい言うと、流石にこりたのか俺と幸伶以外のメンバーは部屋から出た。
まったく、2人用の部屋にどうやって8人も押し込んでたんだよ…。
幸伶「英春くん、早くお風呂行こうよ。」
英春「ちょっと待ってタオルが見つからん…。」
何とかタオルをカバンから見つけ出し、さて風呂に行こうと思ったのだが、エレベーターまでの廊下が遠い…。風呂は2階にあるのだが、俺たちの部屋は5階。どうやっても降りないといけない。空を飛べるような能力もないのでね。
階段を使うのは面倒なので、エレベーターまで向かいたいが、そこまでの廊下が長すぎる。
これ、案外旅行あるあるなのではなあだろうか。
幸伶「露天風呂とかあるのかな。」
英春「あるんじゃねえの。せっかく海が近いんだし。」
幸伶「入りたいねぇ。」
英春「夏でも露天風呂は寒いぞ。」
でも、友人と雑談しているとすぐについてしまう。
俺は下るボタンを押したが、エレベーターは上の方にあるらしく、降りてくるのにまだ時間がかかる。
疾照「あ、英春さん、幸伶さん。もうお風呂ですか?」
幸伶「まあね。」
英春「なぜかさっき風呂入るって言ってた奴が全然いないのも気になるけどな。」
疾照「皆さん、部屋から海眺めてますよ。」
英春「え…。」
幸伶「…僕らの部屋、海見えないんだよね…。」
そう。部屋はジャンケンで勝った組から決めていったのだが、幸伶が最後まで負けたので、あまりの部屋を選んだ。入ってみると山の方しか見えなかったので、みんな同じなのだと思っていた。
わざわざ4つも部屋を出入りしたくなかったので、ほかの部屋の確認などしていなかったのだ。
俺と幸伶は顔を見合わせ、ついつい悔しい顔をしてしまった。
幸伶「疾照は海見なくていいの?」
疾照「さっきまで散々見てきたじゃないですか。」
英春「そうかもしれんが、上から眺めら海はまた違うぞ…?」
疾照「それもそうですけどッ!それに、この温泉冷え性に効くそうですよ。私のなかでは期待大です。」
英春「そうだったのか。今年湧いてきた温泉だから知らなかった…。」
幸伶「え、ここの温泉って今年湧いてきたの!?」
英春「知らなかったのかよ。ニュースになってたぞ。」
この伊良湖温泉は、今年2020年に湧出し、本格運営され始めた新しい温泉だ。新しいというだけあって、田原市が有効活用しようと宣伝を始めている。
幸伶「そっか〜。どおりでホテルが新しいわけだよ。あ、来た!」
ようやくエレベーターがやってきて、ドアが開いた。中には家族連れがいた。
「颯矢は、なんか飲みたいものとかはあるか?」
「特にはないよ。」
よくいる家族の形態で、一瞬うらやましいと思ったが、幸伶や疾照と話してあるうちに、そんな気持ちも忘れてしまった。
幸伶「うわ〜、ここも綺麗だなぁ。」
風呂の前で疾照と別れ、俺たちは更衣室まで来たわけたが、よくある旅館風呂なのに新鮮に感じてしまう。
まあ、こんなところで立ち止まっているわけにもいかないので、俺たちは素早く着替えて風呂場へ向かった。
幸伶「結構人いるね。」
英春「割とみんなの関心が強いからだな。」
幸伶「でもさー、英春くん、…露天風呂の入り口、どこ…?」
英春「え…。…ないな、露天風呂。」
幸伶「…嘘そそそそおおおおあん!」
英春「"そ"を連呼するな。あとうるさい。」
銭湯では黙浴がマナーだ。ぜひとも気をつけてもらいたい。
俺たちはちゃんと体を洗った後で入浴した。
幸伶「いい湯だなぁ…。」
英春「ああ。本当に、いい湯だ。」
幸伶「僕まともに温泉入ったのはじめてかも。」
英春「それは嘘だろ。」
幸伶「さすがに嘘。普通に川根温泉とか行ったよ。」
英春「うーん、静岡の川根本町にあるすげーマイナーな温泉…。なんでそこを取り上げる。」
幸伶「そこくらいしか行ったことないよ。」
英春「これも嘘か?」
幸伶「これは本当。」
マジかよ…。愛知県とかなら鳳来の湯谷温泉とか、蒲郡の三谷、西浦、形原とか、ちょっと足を伸ばせば長島とか下呂だってあるのに、わざわざ川根…。
まあ、人の好みにあれこれ言う筋合いは俺にない。
きっと幸伶の親が川根温泉好きなのだろう。
エレベーターの前で、俺は全員を集めた。全員が温泉に入り終わったので、これから夕食なのだ。
和城「幸伶、夕食はバイキングだよな?」
幸伶「うんそうだよ。」
英春「ああ、なるほど…。」
俺は和城の質問の意図を察した。
素朗「なんでわざわざそんなことを聞くの?」
そう聞かれると、和城は黙って望美を指さした。
これを見て、素朗も納得した様子。
とうの望美はというと、瑞穂や疾照と会話していた。英春「みんな、そろそろエレベーター来るぞ。」
望美「ええ?もうちょっとここにいない?」
英春「何言ってんだお前…。」
和城「エレベーターはどうしようもないし、ご飯食べる目的で下に行くんじゃないか。」
瑞穂「まあいいだろ?別に減るもんじゃないし。」
何がだよ。逆に何が減るっていうんだ…。料理は減ってくぞ…。そうこうしているうちに、エレベーターが来てしまった。
「…乗らないんですか?」
英春「あ、はい…。すみません…。」
中に乗っていた人に謝って、先に進んでもらった。
この後、俺と和城はその怒りから、望美と瑞穂に口を聞かなかった。
幾斗「…今回オレのDEBAN少なくね?」




