第31話 木枝ノ内戦
あれよあれよと休日も終わり、また平日が始まってしまった。その場にいる全員が文句を言い合っているのだが、その対象は、平日ではなかった。
瑞穂「あ〜つ〜い〜…。」
鍛郎「ああ、死ぬ…。」
幾斗「SHINU。」
七夜「もう…、むり…。」
素朗「暑すぎる…。ヒデ、凌貴、扇風機の風量上げて…。」
英春「いや、…動けん…。」
凌貴「こ、これ以上上がらない…。」
優来「とける」
望美「とけました」
和城「ごいりょくがなくなります」
疾照「ぜ〜〜〜〜〜…。」
虎彦「ろ〜〜〜〜〜…。」
剣蔵「だ〜〜〜〜〜…。」
幸伶「な〜〜〜〜〜…。」
まずいだろう?この状況。この学校、エアコンがないのだ。あるのはボロボロな扇風機だけ。
それも、まともな風量が出るとは言えない。
そのため、窓を全開にして少しでも風が入るようにしているのだが、それでも効果は薄い…。
あまりの暑さに、皆、正気を失っているのだ。
笑い話ではない。運動会の前に熱中症になった俺が断言する。
そんなこんなで、みんなが瀕死になっている中、先生が入ってきた。
直我「よ〜〜〜し…、みんな…、席につけ…。」
なんと、先生はこんなときでもシャツを着て、長ズボンを履いていた。
全員「大人すげえ……。」
直我「今日はな…、あまりにも暑すぎて、警報が出てる。よって、帰宅命令が出された。」
全員「……いえええええいいいいいあああああああああ!!!!」
そのとき、教室内は運動会のとき以上に団結した盛り上がりを見せた。
その言葉を聞いた瞬間、妙な開放感に全員があてられたからだ。
全員すばやく帰りの支度を済ませ、全員でダッシュして教室のドアを越えた。
直我「そんなに走ると疲れるぞ…。」
瑞穂「小学生だもんな!元気なんだよ!」
直我「そんなもんか…?」
俺たちは、すぐさま各々の家に帰ったが、俺たちの家は、エアコンの電源をつけてない。つまりどういうことか。…冷えるまでまた瀕死になる必要がある。
そのため、俺たちはすぐさま湖に向かった。
なぜか。泳ぐためである。夏は水泳に限る。
幸伶「いや〜水着持ってきててよかったー!」
望美「学校で使ってるやつだけどね。」
本来なら、体育の時間は水泳になる予定だったのだ。
この場にいる5人は、全員水着は持っていることになる。
疾照「では、着替えてきますね。」
望美「ぜ〜〜ったい来ないでよッ」
幸伶「大丈夫だよ、興味ないもん。」
英春「早く行ってこい。」
和城「道路を素足で渡るなよ。」
望美「キーー!!幸伶だけなんかムカつく!!」
幸伶「何で僕だけ!!」
2人がどこで着替えるつもりなのかはわからないが、暑さでやはりテンションがおかしくなっているらしく、望美も幸伶も普段は言わないようなことを言っている。
さて、湖のほとりには、俺たち男子3人組が残されたわけだが…。
幸伶「…着替えるの、面倒だよね…。」
英春「……正気か…?」
和城「……一理あるな…。」
英春「ねえよ。」
幸伶「…このまま飛び込もうよ。」
和城「いいねえ。」
英春「…誰が洗濯すると思ってんだ。」
幸伶「英春くん…。今日くらい別にいいじゃん。楽しもうよ。」
英春「…仕方ない。このまま飛び込むぞ!!」
幸伶「うおおおお!!」
和城「やあああああああ!!」
俺が叫んだのを皮切りに、2人とも湖に向かって走り出し、思いっきり飛び込んだ。幸いにも体をぶつけるほど浅いわけではないようだ。
幸伶「ふう!!最高!!」
和城「夏だなあ。」
英春「意外と深いな…。」
先ほど浅くはないと言ったが、身長147cmの俺でもギリギリ顔が出るほどである。…この2人は俺より背が低いのに、どうやって顔を出してるんだ…。
…立ち泳ぎか…。
幸伶「ギャアアアアアア!!足つった!!」
和城「あー、じゃあな、幸伶。」
英春「今度のお盆にまた会おうな…。」
幸伶「ちょっと!!見捨てないでよ!!…あ…。」
その時、幸伶は何かを察したかのように真顔になった。
次の瞬間、幸伶は無抵抗でブクブクと沈んでいった。
英春「本当に沈んでどうする!!」
和城「幸伶、上がってこい。」
はじめ、反応はなかったが、少しするといつの間にか仰向けになっていた幸伶が浮かんでいた。しっかり生きている。
幸伶「死ぬかと思ったよ!」
英春「そんな満面の笑顔で言われてもな…。」
幸伶「だって面白い感覚だったんだもん。」
そんなふうにして着衣水泳を楽しんでいると、望美と疾照が戻ってきた。
2人は水着に着替えたようだが、いつもの服のままの俺たちを見て、大変困惑しているようだ。
望美「…なんで服着てるの…?」
和城「面倒だったからさ…。」
疾照「…英春さんは止めなかったんですか…?」
英春「…いや、なんか吹っ切れた…。」
というわけで、男と女の間で微妙な空気が漂い始めた。疾照が言葉にしない怒りを振りまき始めたので、俺たちは勘弁して湖から出た。
幸伶「何しようね。」
和城「完全に暇になったな…。」
俺たちは湖のすぐ近くの森に移動し、日陰で涼んでいた。幸い、水のなかにいたためかなり涼しいが、なにせやることがない。すぐそこから望美と疾照がはしゃぐ声が聞こえるため、大変うらやましい限りである。
幸伶「あ、こんなところにちょうどいい枝がたくさん!!」
英春「え、それ、どうする気だ…?」
幸伶は、その辺に落ちている木の枝を何本か拾い始めた。どれもこれもおおよそ50cm程度はある。
幸伶「チャンバラでもしようよ。」
和城「久しぶりだな。」
英春「チャンバラ…。俺、やったことないんだが…。」
幸伶「大丈夫だよ。適当に振り回せばいいんだし。」
和城「そのせいで2人ともけっこう弱いんだけどな…。」
幸伶「はい、英春くんの枝ね。」
俺の手には、いつの間にか枝が1本置かれていた。
…しかたない、やるか…。
何回戦かしたのだが、俺が圧勝した。なんというか、2人の剣さばきが遅すぎるのだ。
幸伶「つ、強い…。」
英春「…もう少し踏ん張れよ…。」
和城「…腹立つな…。」
幸伶「もう2度と英春くんに勝負は滋賀県…。」
英春「それを言うなら"仕掛けん"だろ…。」
散々戦ったので、いつの間にかかなりの時間が経っていた。少しすると、すでに着替えていた望美と疾照もやってきた。
望美「疲れたー。もう帰ろうよ。」
和城「そうだな…。」
疾照「英春さん、今日の夕飯もうレトルト食品にしましょ…。」
英春「ああ…。そうだな…。」
せっかくの"突然な"休みなのに、疲れてしまった…。
今日は早く寝よう…。




