第29話 煙さえ消えぬ
幸伶がいなくなって数分。
俺は家に戻って疾照に話を聞くことにした。
今思えば、望美が物置から持ってこいと言ったのだ。たぶん家にいる。
英春「疾照、ちょっといいか?」
疾照「あれ、英春さん、戻ってきてたんですか?」
英春「ああ。幸伶を見てないか?」
疾照「幸伶さんですか?物置に行ったっきり降りてきていませんが…。」
…やはりか…。心配して損したが、やはり物置に立てこもっていたようだ。…前にもあったな…。こんなの…。
まあ、いいか。さっさと連れ出さないと、後々面倒くさい。
俺は階段を登り、物置の前まで来た。
…扉が開けっぱなしじゃねえか…。
英春「おーい、幸伶。早くしろー。」
…今回も返信はない。俺は部屋の中をのぞいてみた。
前、望美が段ボールに収まって以来、押し入れの中はだいぶ整頓した。隠れるところもクソもない。
…ん…?窓が開いてる…。
押し入れ部屋とはいえ、一応は部屋。小さな窓はある。そこの下は、ちょうど自転車置き場になっていて、小さな屋根もついている。
そして、窓は、人ひとりなら通れそうな幅である。
…まさかな…。いくらあのバカでも、窓から飛び降りることはしないだろう…。
…いや、あいつならやりかねんな…。
俺は素早く階段を降り、外へ出た。
疾照「ひ、英春さん?どこへ…。そ、それに、幸伶さんはどうしたんですか?」
英春「あいつ、たぶん窓から落ちたぞ。あいつのことだ、ケガはしてないだろうが何か犯罪を犯していたら面倒だから、探してくる。」
疾照「幸伶さんが犯す側なんですね…。先月も立てこもり事件があったばかりなんですから、気をつけてくださいね。」
英春「わかってるさ。」
俺はそれだけ言って、村の中心部に向かった。
休日にクラスメイトと出会うことは、このあまりにも小さい村でもあまりないのだが、中学校に、この時間まで活動している部活動がある。
博斗くんが率いる、"地理交通部"というもので、文字通り公共交通に関する勉強や研究、他に旅行などもする、ほぼ同好会のような部活なのだと言う。
俺は、ダメ元で帰宅中の博斗くんに声をかけた。
英春「博斗くん、少しいい?」
博斗「あれ、珍しいね。こんなところで出会うなんて。」
澄晴「おーう英春!元気にしてたか?」
「あれ、こいつか?例の博斗と仲いい小学生ってのは。」
「のようだな。」
博斗くんと澄晴くん、幕奈さん以外に、メガネの人とごく普通の人がいた。話しぶりや態度、それから帰宅時間からして、博斗くんたちの同級生で、同じ部活だと見える。
博斗「ああ、そういえば教えてなかったね。このメガネの方は林森三郎。で、このちょっと茶髪なのは伊藤琴徹。コイツラも同じ部活なんだ。」
琴徹「よろしくな、英春。」
英春「は、はい…。」
澄晴「で?俺たちになんか用があるんだろ?電気の法則とフィンランド語以外なら教えられるぞ。」
英春「そういうのじゃないよ。幸伶を見ていない?」
幕奈「幸伶…。ああ、あの水色に"伊"って書いてある服をよく着てる子か。」
博斗「見てないなあ…。彼に何かあったのかい?」
英春「いや…、モノを取りに行ったっきり帰ってこなくて。」
澄晴「神隠しか!!」
幕奈「縁起でもないこと言うな!」
澄晴「痛ッ!お前のチョップ痛すぎだろ。」
森三郎「……。」
琴徹「ん?どうした森三郎。」
澄晴「石ころでも食ったのか?」
森三郎「30分ほど前、この道を通る、その少年と思しき姿を見た。東の方へ行ったはずである。」
幕奈「なんで知ってんだよ!」
森三郎「学校の窓からちょうどこの道が見えるからだ。」
森三郎くんが指差す方向を見ると、確かに中学校が見える。市街地のなかでも少し開けているこの辺りなら、2階建てでも周りを見渡すことは十分可能なはずだ。
英春「有力な情報ありがとうございます!先を急ぐので!」
博斗「気をつけてな。」
俺はその言葉を残し、俺は東の方へ走り出した。
…あれ、東の方って、さっきいた森だよな…。
…あいつ、まさか人の話を聞いていなかったのか…?
…本当に、人騒がせだな…。
とはいえ、まだそれで確定したわけではない。あくまでも方向が同じだっただけだ。
はっきり考えてみると、あまりにも抽象的で、あてにするとなかなか見つからないのかもしれない。
考えると、どんどん不安になってきた。とはいえ、
今持っている情報は、これだけなのだ。
俺は、一瞬止めたその足を進め、森へ向かった。
英春「………。」
幸伶がいた…。しかし、そいつはなぜか頭だけ出して、全身が土のなかに埋まっていた。
ほんとうに、謎である。こいつは…。
英春「…おい、幸伶…。何してんだ…。」
幸伶「あ〜、えっとお〜、誰かが落とし穴を…。」
英春「うん。それはいい。どうせ小さい子が遊び半分で作ったんだろうからな。それはともかく、なんでその落とし穴にハマってんだ。」
幸伶「あ〜、…興味半分で…。」
…はあ…。本当にこいつは…。
英春「布はどうした。」
幸伶「幸伶「うえにある…。」
俺が見上げてみると、木の枝にボロい大きな布切れがぶら下がっていた。
…なんで上にあるの…?
その後、幸伶を地面から引っこ抜くと、そのまま勢いで転がっていって、木にぶつかり、布切れが俺の上に落っこちてくるのは、また別のお話…。




